第4話
「ねえ、舞里。やっぱり僕には早かったんだよ、舞里には悪いけどもうしばらくは我慢してほしい」
密室の中、僕は舞里を押し退けて抵抗する。
「ここまで来て何言ってるの。いいから早く服脱いで」
しかし、舞里はそうなことは知らないと服を脱がせにかかる。
「ちょっと、どこ触って!嫌、変態!」
「こら、暴れないの!サイズ測ってるだけでしょ!ちゃんと測らないと形が崩れたり良くないんだよ!」
「舞里の変態ー!襲われるー!」
「下着買うって言ったのお兄ちゃんなんだから大人しくしてよ、もー!」
そう、僕は今ランジェリーショップの試着室にいるのである。
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「ということでお兄ちゃん。買い物に行こう」
襖を開けるや否や玄関のほうを親指で指しながらキメ顔で言い放つ。少し声を低くしてイケメンを装っているところがふざけているというか妹らしいというか。
どういうことなんだ・・・。と思いながら視線を手元の本へ戻した。今丁度、物語が良いところで邪魔をされるのは本意ではないのだ。
こたつ布団を身体に引き寄せ、暗に「話しかけるな」とアピールするとことも忘れない。
しかしアピールも空しく舞里は部屋に踏み入り、こたつの周りをぐるぐると回り始めた。
「ということでお兄ちゃん。買い物に、行こう」
「買い物に」の部分で立ち止まり、「行こう」の部分で僕にキメ顔を向ける。何がしたいんだ。
・・・・・こういう時は無視をするに限る。本に意識を戻すが正直、集中できる気がしない。
舞里は「むー」と不満げな声を出し、そして僕の背後に回りしゃがむと肩に顎を乗せた。
二度あることは三度ある、というが何度を同じことを繰り返すと飽きる。天丼も三杯目は流石に胃もたれするのと同じことだ。
そんなこともわからない妹にはリアクションを返すだけ無駄だ。僕の経験則としては自分は面白いと思っていることでも相手に無視され続けることで「あれ?もしかして滑ってる?」と思わせることができるのだ。そう、あれは僕が小学6年生の時―――――――
「ここでお兄ちゃんに問題です」
ふむ、引きこもってテレビから情報を収集してきたこの僕にクイズとは。いいだろう受けて立とうじゃないか。
「お兄ちゃんは今わたしの服を着ていますが、そろそろ自分の服を買ってわたしに服を返して欲しいと言ったらお兄ちゃんはどうすればいいでしょうか」
「・・・舞里から服を買い取って、舞里はそのお金で新しい服を買う?」
ちょっと、女の子がしていい顔じゃないよ。ほら、笑って笑って!
「不正解です。では正解できなかった罰としてわたしと買い物に行ってください」
「・・・正解が一つとは限らないんじゃないかな?世の中には正解のない問題なんで山ほどあるわけだし、それに僕の答えもあながち間違えでもないでしょ。舞里は新しく好きな服が買える。僕は外に出ることなく服が手に入る。二人が幸せになれる最善の答えじゃないかな」
舞里は天を仰ぎ「はあああああ・・・」と大きなため息をつく。だから女の子がしていい顔じゃないって!
「お兄ちゃんは大事なことを一つ忘れているよ」
「え、なに」
今までのふざけた雰囲気ではなく真面目に、というか少し戸惑い気味に目を逸らす。
「第二問。その・・・お兄ちゃんがつけている下着はわたしのものなわけですが」
「・・・はい」
「今は女の子であったとしても元は男の、しかも実の兄に下着を着られている妹の心境を答えよ」
僕はその日初めて血の気が引ける音を聞いた。ああ、これが漫画などでも表現されるほど有名な『血の気が引ける音』なのか。いい体験をしたなあ。
「・・・すみませんでした!!」
土下座も初体験。今日は初めてがいっぱいだった。
そして僕は妹と下着を買いに行くことになった。
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