第33話 レース後の談笑
レースを終えてコースの外に出ると木野さんが待っていてくれた。木野さんがアシストのお礼を言いながら、私の背中のゼッケンを外してくれる。息も絶え絶えで、自分で外すのは大変だから非常に助かる。
計測チップとゼッケンを返却した後、二人一緒に師匠と西野の元に戻った。
「ギリギリだったけど、やったじゃないか!」
「木野さんおめでとう!」
東尾師匠と西野が3位となった木野さんの健闘を称える。
「中杉さんのお陰ですよ」
すかさず謙遜する木野さん。つねに謙虚な人だな。
「木野さんに実力があったからですよ。私は少しだけ後押ししただけです」
「その少しが勝敗を分けたな。体力がもたなかったのは残念だけど、途中までは最高の走りだったよ」
「ありがとう師匠!」
「積極的な走りが出来たのは大きな進歩だ。あと少しインターバル耐性が付けば、ゴールスプリントに絡める様になれるさ」
クリテリウムが得意な東尾師匠に褒められるのは嬉しい事だ。
結果は前回と同じギリギリ完走だけど内容が違う。集団の後ろで足を休めながら完走を目指して走った前回と違って、木野さんのアシストで積極的にアタックを繰り返して完走出来たのだ。
立派にアシストとしての仕事を終えた嬉しさを噛み締める。
「へぇ、東尾が褒めるなんて珍しい」
西野が不思議そうに言った。西野は師匠が褒めている所を見た事がないのか?
私は結構褒めて頂いているのだが。
「おいおい、俺はクリテに参加している仲間は全員応援しているぜ」
「ヒルクライムは?」
「どこを褒めれば良いか分からねぇ」
師匠の正直な発言に西野が苦笑する。そういう事か……それは分かるな。
私も別な意味でヒルクライムが得意な人の褒め方が分からないからな。
峠を上れるだけで、全てが凄いと思ってしまうからだ……
「おーい、木野君おめでとう」
「中杉さんも凄かったですよ。雄姿をシッカリ写真に収めておきました」
写真を撮るた為にゴール付近に陣取っていた北見さんと南原さんが戻って来た。
「ありがとう御座います、北見さん、南原さん」
「いいって事よ。その代わりブログの宣伝に使わせてもらうからな」
「ブログ? 北見さんブログやってたのですか?」
「あぁ、昔な……でもな、載せるのは新しく立ち上げるブログだ」
新しく立ち上げるブログ……もしかして?
「北見またブログ始めるの?」
「新しいチームの活動ブログだよ」
西野の質問に北見さんが答えた。その答えは私の想像通りだった。
チームの活動ブログか……北見さんがチームの活動について考えてくれていた事が嬉しい。
「僕も参加したいです。トレーニング日記とか、グルメライドの記録とか乗せてもOKですか?」
「おぉ、分かってるね。木野さんをメインライターに迎えよう」
木野さんが興奮気味にチームブログ参加を表明する。
私はロードバイクのブログがどの様な内容か分からないが、北見さんの反応を見る限り木野さんの提案は的を得た良い提案なのだろう。
「木野さんは文章を書くのが得意なんですか?」
「仕事で報告書を書く事が多いのですよ。ロードバイクについての方が筆が乗ると思いますけどね」
「私も仕事でプレゼン資料を書く事あるけど、休日まで文章を書きたくないわね」
「僕は人付き合いが苦手なので、文章とかで表現するのが好きなんですよ」
「自分は絵で表現するのが好きですね」
木野さんとの会話に南原さんが突如割り込んだ。
筋骨隆々な南原さんが絵を描くのか……それは予想外だな。
「えっ、南原絵描けたの?」
「それは知らなかったな」
「早く言ってくれよ」
驚いたのは私だけでは無かったようだ。西野、北見さん、師匠が驚きの声を上げた。
「ロードバイク仲間との会話で、絵の話をする機会は無いですから」
「それならブログの挿絵やヘッダー画像とかは南原君にお願いするよ」
「お任せ下さい」
北見さん、木野さん、南原さんは私よりロードバイク歴が長い先輩だから色々勉強になると思っていた。だけど、走り以外でも強力な戦力だとは思っていなかった。
リーダーの私が何もしない訳にはいかないと思うのだが、私に何が出来る? 自分で答えが出せないなら、仲間に聞くのが早いか?
「みんな凄いな。私は何をしようか? 一応チームリーダーだからな」
「レースで負け続ければ良いじゃない? ボロ負けするオッサンでもレースを楽しんでいるって知れば、ロードレースに興味持つ人が増えるかもしれないわよ?」
「手厳しいな。事実ではあるけどな」
「なんだ? 『ノノ』と喧嘩でもしたのか?」
北見さんが茶々を入れる。喧嘩をしているのかと問われれた事は困ったが、西野の事をシッカリ『ノノ』とあだ名で呼んでくれた事は有り難い。
答えに困った私の代わりに西野が北見さんに答える。
「喧嘩なんてしてないわよ。猛士の事を一番理解しているだけじゃない」
「ーーだそうだ」
皆が爆笑した。
一番理解しているか……そんな恥ずかしい事を言い切られたら、反論の余地がないではないか。
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