第32話 初めてのアシスト
ビギナークラスの選手の整列時間となった。今回は最初から全力で突っ走って他の選手を消耗させる戦略だから、初めてスタートラインの先頭に整列した。木野さんは最初集団内で足を休める戦略だから中盤辺りに並んでいる。
木野さんとは離れた位置で走る事になるが意志の統一は出来ている。私が全力で先行して他の選手の足を消耗させる。そして木野さんがラスト2周で飛び出して優勝するだけだ。
いよいよレース開始の時間となり、合図のピストル音が鳴る。
1周目はローリングスタート。速度を落としているとはいえ先頭を走るのは少し緊張するものだな。何事もなくホームストレートに戻り、合図のベルが鳴らされリアルスタートを迎えた。
一気に加速する選手達。遅れない様にパワーをかけて第1コーナー、第2コーナーを通過する。
続くバックストレートでパワーをかけて集団を置き去りにしようとする。腰を上げて軽くスプリントする。最大出力1,000W……私の全力ではないが他の選手達から先行するには十分なパワーだ。一気に時速50kmを越えて選手の集団から抜け出た。
数人の選手が先行した私のドラフティングにつこうと急加速して追ってきている。後続の選手を振り切れなかったので、バックストレートではあまりパワーをかけず適度な速度で巡行する。
続くヘアピンコーナーも先頭で突入し、立ち上がりで一気にスピードを上げる。ホームストレートでも数人の選手が私を逃がさない様に立ち上がりで速度を上げて追ってきた。
立ち上がりで引き離せなかったので、淡々とホームストレートを巡行する。私に追いついた後続選手は私の前に出ようとしない。逃げようとする私と協調しないのだ。
ついて来ているのがスプリントが苦手な選手であれば、ローテーションをしながら逃げを維持するのが得策だ。そのまま逃げ切れれば表彰台に乗れる順位が確定するからだ。そうではなく、逃げを嫌い潰す動きを取る選手……釣られているのはゴールスプリント勝負をしたいパワー系の選手だな。
ローテーションもせずに先頭を走り続けるのは、一方的に体力を消耗するから不利な状況だ。普通であれば一度集団に戻って足を休める必要があるだろう。体力を無駄に削る良くないレース展開だからだ。
だが、今日は木野さんのアシストなのだ。自分自身の体力を削ってでも、釣られた他の選手の足を消耗させなければならない。
3周目のバックストレートでも腰を上げ全力でペダルを踏み込む。再び一気に時速50kmまで加速して先頭を維持した。
全部で8周の内、残り2周の6周目で木野さんが先行する予定だ。だから後3周頑張って走り切る必要がある。
4周目……5周目……力の限り先頭を走り続けて迎えた6周目。私にとって最後の周回。今までの周回通り先頭で走り続けて迎えた最終コーナー。
ホームストレートに戻った時に加速を緩めた。いや、実際は力尽きて加速出来なかっただけなのだけどな。
ここで私を一気に追い抜く選手が見えた。特徴的なキノコ頭ーー木野さんだ! 私を信じて予定通り仕掛けてくれたのだな。
今まで私を追ってきた他の選手は木野さんの動きに合わせられず対応が遅れた。当然だよな、私が先行すると思って私の後ろについて来ていたのだから。
慌てて私を追い抜いて木野さんを追おうとするがーーもう遅い!
木野さんは既に5秒程先行している。私も何とか追いかけようとするが、もう力が出ない。続々と他の選手に追い抜かれていく。そして、全ての選手に追い抜かれてしまった。
木野さんは順調に先頭で逃げ続けている。木野さんを追う集団の速度が鈍いからだ。残り2周回で逃げた選手がいるのだ。ローテーションをしながら加速して、逃げた選手を追うのが普通だ。だが、足を使うのをためらっているのか、お互い見合っている。
レース前半の私のアタックの効果で他の選手の足をかなり消耗させられていたのが効いているようだ。
最終周回、流石に集団内でも順位争いが活発化して速度が上がる。
一人逃げ続ける木野さんに集団が迫る。負けないでくれ木野さん!
最終コーナーを抜けて最終のホームストレート。木野さんが先頭でスプリントを開始した。一目見ただけでスプリントが下手だと分かる不器用な動き……それでも必死にゴール目掛けて走り続ける木野さんの姿を目に焼き付ける。
だが、無常にも他の選手が追いつき始める。
1人目……もう追い抜かないでくれ!
2人目……早くゴールしてくれ木野さん!!
3人目……には追いつかれなかった!!!
木野さんが3位でゴールした!!!
優勝は逃したけど木野さんが3位を確定した。後は私が完走するだけだな。
途中で力尽きてリタイアする事になると思っていたが、私もギリギリ完走出来る速度で走り切ているのだ。実感は無かったが、私も予想以上に実力が上がってきているのだな。ビギナークラスで勝負するには、まだまだ実力が足りないけどな。
そして一人寂しくゴールしたーー
順位で言えばビリだ。だけど一番遅かった訳ではない。最初の私のアタックの連続で集団の速度が上がっていたから、足切りになった選手が5人出ていたからだ。
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