第22話 球技大会 開幕!
天気は晴れ。校庭の状態は良好。
絶好の球技大会日和である。
「それじゃ、今日は球技大会だから、各自黒板に張ってあるトーナメント表見て行動しろよ。まあ、あれだ。怪我しない程度に頑張るよーに」
朝礼の時間になり、やって来た担任の先生はやる気なさげにそう言って教室を出て行った。
「次郎、トーナメント確認しに行こうよ」
「そうだな」
優斗と共に黒板の前に向かいトーナメント表を確認する。
どれどれ。俺たち二年三組のバスケの一回戦の相手は……三年一組か。まさか三年生と初戦から当たるとは思わなかった。
だが、相手がどこだろうと負けるわけにはいかない。
ちなみに、神田がいる二年四組は……反対側のグループか。神田との直接対決は決勝戦になりそうだな。
「僕らは第一体育館のAコートで十時から試合開始だね。それまではどうする?
「んー、俺は少し行くところがあるからそっち行ってくるわ。お前は宮本さんの応援にでも行って来いよ」
「そう? なら、そうするよ」
優斗に手を振り、教室を後にする。そして、俺は中庭に向かった。
中庭では移動中と思われる生徒の集団がちらほらいた。そんな中、いつものベンチに一人だけ座っている女の子がいた。
「悪い、音羽。待たせたか?」
「いえ、私もさっき来たところです」
その女の子の名前は音羽結衣。
今日、どういう結果であれ俺の片思いに終止符を打つために俺が呼び出した。
改めて音羽の姿を見る。
今日は球技大会だからだろうが、髪を後ろで一つに束ねており、体操服姿だ。
少しだけ童顔な女の子。相変わらず可愛い。
「音羽、俺はお前が好きだ」
「……はい。知ってます」
「球技大会が終わった後、もう一度改めてお前に告白する。だから、今日一日、俺を見て、神田を見て、返事を考えてくれ。それじゃ、またな」
音羽に堂々と宣言してから、背を向ける。
完璧に決まった。我ながら中々にクールな姿だ。これにはきっと音羽も惚れてくれるに違いない。
そんなことを思いながら、歩いていると、神田が俺の前に姿を現した。
「か、神田? 何でこんなところに?」
「たまたま通りかかったんだよ。……お前の言ってた好きな人って音羽のことだったんだな」
「ああ、そうだ」
俺の言葉を聞いた神田は俯いて、深く息を吐く。それから、顔を上げて真っすぐに俺の目を見つめてくる。
「佐々木、俺はお前に感謝してる。お前がいなかったらきっと俺はまだ燻っていただろうからな。だけど、この勝負だけは譲れない。今日、俺はお前には絶対に負けない」
……そうか。そうだったのか。
薄々そうじゃないかと思っていたが、神田、お前も音羽のことが……。
「……決勝で待ってるぜ、神田」
不敵な笑みを浮かべつつ、神田にそう言い残して俺はその場を後にした。
そして、時間は流れ、あっという間に俺の試合の時間がやって来た。
俺たちの学校の球技大会にはいくつかのルールが存在する。
1.基本的にクラス全員がバスケ、サッカー、卓球、テニスのいずれかの競技に参加する。
2.大会はトーナメント制である。
3.試合開始の時間に試合に出場する選手が集まらなかった場合、そのチームは不戦敗になる。
4.やむを得ない事情により、試合に出る選手に欠員が生じた場合、助っ人の出場が許可される。
5.試合開始前五分間、練習時間が与えられる。
他にも細かいルールがいくつかあるが、それらは深くは関係しないので無視しても問題はない。これらのルールのもと、優勝を目指すのである、優勝チームには賞状と学食一食無料券がチームメンバーに与えられる。
そして、俺たちは今丁度試合開始前の練習をしているところだった。まだ、対戦相手は姿を現していない。
「ふっ」
「お! 佐々木、調子良さそうだな!」
シュートを決めた俺に声をかけたのは、チームメイトの佐伯である。野球部に所属していて、元気のいいやつだ。
「おう。優勝するためにこの日に照準を合わせて来たからな」
「かーっ! 気合入ってんなぁ! これは俺たちも負けてらんねえぜ! な! 村田!」
佐伯がすぐそばにいた村田に声をかける。村田は普段、席について本をたくさん読んでいる大人しめの男子だ。
「……暑苦しい。まあ、足は引っ張らないよう頑張るよ」
そう言うと村田はてくてく歩いてゴール下に転がるボールを拾いに行った。
俺のチームメイトは、佐伯、村田、優斗、そして……。
「おいっす! お待たせー。いや、ちょっち女の子と遊んでたら遅れちゃった的な?」
試合開始一分前になって、金髪の男がやって来る。
「遅いぞ、花田!」
「悪い悪い。はぁ……それにしても、黒井さんはやっぱ見に来てないよなぁ。テンション下がるわー」
辺りを見回して肩を落とす金髪の男子。こいつこそが、俺たちのチームの最後の一人、花田である。
花田は元々テニスを希望していた。その理由は黒井にある。
黒井はテニスを選んだ。バスケじゃないのかと驚いたが、それがきっかけでうちの男子たちの殆どがテニスとバスケに人が集まった。
バスケと卓球は体育館だが、テニスとサッカーは外である。基本的に、テニスとサッカーを選んだ人たちは体育館に行くのがめんどくさいという理由で外にずっといることが多い。
即ち、黒井に活躍しているところを見てもらう、または黒井がテニスをしている姿を見るには、テニスやサッカーを選ぶ方が何かと効率的なのだ。
「それにしても、対戦相手はまだ来ないのかな? もうあと三十秒だよ」
「確かに、不自然だな」
「え? てことは不戦勝? なら、俺黒井さんのテニスの試合見に行ける!?」
そんなことを優斗、佐伯、花田が話していると体育館に五人の男子が姿を現した。
「いやはや、遅れてすまない。さて、この僕に蹂躙される哀れな相手はどこかな?」
五人の中心にいる男子。それは、何と金満先輩だった。
まさか、初戦の相手が金満先輩とは驚いた。だが、これは好都合だ。金満先輩をここでサクッと倒して、黒井の期待に応えるとしよう。
「それでは、これより二年三組対三年一組の試合を始めます」
審判をするバスケ部員の男子生徒の声で俺たちは集まって整列する。そして、整列した時に金満先輩が俺を見て目を見開いた。
「お、お前は!! 僕の愛しの雪穂に近寄る害虫!!」
誰が害虫だ。
「まさか、初戦の相手が君とは思わなかった。だが、これは好都合。君を完膚なきまでに叩きのめし、雪穂には目を覚ましてもらおう」
「知ってますか? 害虫って簡単には倒されないんですよ? 舐めてると手痛い反撃を食らうんで、気を付けてくださいね」
先輩後輩とかは関係ない。誰であろうと、俺の道を遮るものは倒すだけだ。
「はい。それじゃ、ジャンプボールです。代表二人、前に」
「花田、頼んだ」
「えー、メンドイ。まあ、仕方ないか」
嫌そうな顔をしながら花田が前に出る。
「こちらからは高井を出そう。高井、ここでマイボールにしたらボーナスをやろう」
「はっ! 金満様! 必ずや期待に応えてみせます!!」
金満先輩たちのチームから出てきたのは身長百九十はあると思われる男子だった。
た、高い……。球技大会のような、素人が大勢出るバスケにおいて高さとは絶対にして、安定の強さを発揮する。
これは、苦戦するかもしれない。いや、だが、俺たちは負けない!!
「花田、頑張れよ!」
「花田君なら大丈夫!」
「……まあ、できることすれば」
「花田、お前に俺たちの運命を託す」
「ちょ……たかがジャンプボールで大袈裟すぎない? まあ、そうやって期待されるのは、嫌いじゃないけど」
花田はそう言って高井先輩の前に立つ。
そして、審判の手からボールが放たれる。ボールが最高到達点にいき、そこからゆっくりと落ちてくる。
それと同時に花田と高井先輩が跳ぶ。
花田の身長は百八十ちょっと、高井先輩に勝つにはジャンプ力で高井先輩を十センチ超えなくてはならない。
だが、花田なら出来る。
何故なら、あいつはバレー部だから!!
「「「花田、いっけえええええ!!」」」
花田の手を高井先輩の手がボールに伸びる。
「うおおおお!!」
先にボールに触れたのは花田だった。
しかし、ボールに触れた花田は何故かボールを俺たちがいるコートではなく敵チームがいるコートの方に押し出した。
そして、そのボールは見事金満先輩の手元におさまった。
「あ」
「「「バカやろおおお!!」」」
こうして、俺たちの初戦が幕を開けた。
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