第13話 佐々木のバスケ
今日も元気にバスケットボール!
ということで、週末の日曜日。
俺は今日も元気に公園でボールをついていた。
「ふっ」
ガッ。
リングに弾かれたボールを拾い、3Pラインまで戻る。
「ふっ」
スカッ。
リングに届かなかったボールを拾い、3Pラインまで戻る。
「ふっ」
スパッ。
「しゃあっ!!」
朝から3Pシュートの練習をし始めて30本目。遂に、俺の放ったボールはリングを通過した。
ふっ。
二年のブランクを抱えながらも30本目で3Pシュートが決まる様になるとは、やはり俺は天才だったか。
さて、今度は様々な角度から3Pを決められるように練習するか。
そう思って振り返ると、そこにはちびっ子が三人いた。
「なあなあ、にーちゃん」
「ん? どうした?」
「俺たちも、そこ使いたいんだよー」
「つまり、そういうことだね」
「同意」
ちびっ子一号がそう言うと、二号、三号が頷く。
なるほど。この子たちはここにバスケをしに来た子供たちというわけだ。
未来ある若者のためにここは譲ってあげたいところではあるが、俺も俺で己の恋がかかっている。
「ちびっ子たちよ――」
「ちびっ子じゃない! 俺たちはもう小六だ!」
「じゃあ、少年たちよ。この世の中はそう甘くない。欲しいものを手にするには競争に勝たねばならない。恋愛、受験、運動会、お金……全て競争であり、勝ったものが栄光を手にする! 少年たちよ、貴様らがこのコートを欲しいと言うのであれば、この俺を超えてみせろ!! さあ、かかって来い!」
持っていたボールを邪魔にならない場所に転がしてから、三人のちびっ子たちの前に立ちはだかる。
丁度、対人戦の練習もしたかったところだ。数的不利はあるが、俺は高校生。おまけに元バスケ部。
こいつらには悪いが、俺の養分になってもらおう!!
「おもしれえ。やってやるぜ! 行くぞ、
「やれやれ。でも、コートを奪うためなら仕方ないね。付き合うよ
「御意」
こうして、俺と小学六年生によるストリートバトル(バスケ)が幕を開けた!!
***
「ははは!! その程度かぁ?」
「もうやめてくれぇ!!」
平和な公園に響く高笑いと悲鳴。
そこでは、見るも無残な蹂躙劇が繰り広げられていた。
だが、その蹂躙劇を周りの人が止めようとする気配は無い。何と薄情なのだろう。
この国の人々の心は冷え切ってしまっているのだ。
この調子だとまだこの蹂躙劇は続くだろう。
そう――。
「おいおいにーちゃん、その程度かよ」
「やれやれ。私たち三人にたてつくだけあって期待したのですが、所詮は威勢だけでしたか」
「雑魚」
「く、くそっ! くそおおおお!!」
この小学六年生三人による俺への蹂躙劇は終わらない。
何故こんなことになったのだろうか?
己の力を過信したから? 子供たちを利用しようとしたから?
いや、違う。この状況になった理由は一つ。俺が見誤ったからだ。この少年という皮を被った怪物たちの実力を。
***
ガキンチョたちとのバスケが始まってから数本。三人のコンビネーションを前に、俺は連続で敗戦を味わっていた。
だが、ここまでは割と普通のバスケだった。
「ほら、そんなとこしゃがんでないで次行くぜ」
そう言うと、金一と呼ばれる少年がドリブルを始める。
くっ! これ以上、やられるわけにはいかない!
一人を追いかけても勝ち目はない! なら、外からのシュートを止めることは諦めて、3Pラインから内側を一人で守り抜くしかない!
「へぇ。考えたじゃねーか。なら、銀二!」
「おや。私の出番ですか。仕方ありませんね」
三人の中で一番体格が細い眼鏡をかけた銀二という少年にボールが渡る。
その少年は3Pラインの外でボールを受け取ると、その場でシュートモーションに移る。
バカめ! その位置から簡単にシュートは入らない。
おまけに他の二人も余裕ぶっているのか全くゴール下にも来ない。これは、確実にリバウンドを取れば俺の勝ちだ!
ゴール下でボールが落ち来るのを待つ。
そして、銀二という少年がシュートを放った。
高く美しい放物線を描き、そのシュートは――
スパッ!
リングに掠ることすらなく、綺麗に決まった。
「これで、また私たちの勝ちですね」
呆然としていると銀二という少年がニコッと微笑む。
い、いや、これはまぐれだ! そうに決まっている!
だが、もしまぐれじゃないのだとしたら……。
そして、俺の嫌な予感は的中することになる。
「ふっ!」
スパッ!
「ほっ!」
スパッ!
「ああ。言い忘れてました。私は近所でミニバスのチームに所属していましてね。ノーマークでのシュート成功率は、120%です」
スパッ!
ば、バカな……!
シュート成功率120%ということは、十本シュートを放てば十二本シュートが決まるということ。
そんなチート野郎に、勝てるわけがない……!!
「おや? どうやら心が折れてしまったようですね。仕方ありません。ハンデとして、私は少し休憩しましょう」
絶望して地面に膝を着く俺に、銀二という少年がそう告げる。
チート野郎がいなくなる……!
しかも、人数も一人減る! これなら俺にも勝ち目が出てきた!!
「ははは! その選択を後悔しなければいいけどな!」
やる気と元気を取り戻した俺が、金一と銅三という二人の少年の前に立ちはだかる。
ここからは俺のターンだ!
気合を入れ直して、ボールを持つ。
今度は俺がオフェンス、つまり攻撃する番だ。今までは三人に囲まれてなす術なく敗北していたが、二人ならばドリブルで抜き切れる!
ダムダム。
ゆったりとボールをつき、金一という少年の前に行く。
「行くぜ」
一言呟き、身体を低く沈ませ一気に加速する。
加速した俺は金一を置き去りにして、銅三という少年と一対一の状況に持ち込む。
このままこいつも抜き去ってやる!
そう思い、更に速度を上げた時だった。
「銅三。止めろ」
「御意」
金一の命令を受けた途端、銅三という少年の動きが変わる。
「くっ!」
左右に振ってもついてくる。フェイクを混ぜても動揺しない。フェイントも一切効かない。
「なら、シュートを!」
俺の意識がゴールに向いた僅かな隙。
「奪取」
銅三と呼ばれる少年は、その僅かな隙を突き、ドリブルしていた俺からボールを弾いて奪い取った。
「にーちゃん。銅三は守備のスペシャリスト。少なくとも、一対一で銅三を抜ける奴を俺は見たことが無い」
一対一で小学生に敗北したことに衝撃を受けている俺に、金一という少年が語り掛けてくる。
そ、そんなバカな……。
チート持ちが二人もだと……!?
「だ、だがお前はどうなんだ? さっきの俺のドリブルにお前は反応できていなかった。つまり、この三人の中の弱点はお前だ! 勝負だ。俺とお前の二人で決着を付けようぜ」
チート持ちが二人いたことは仕方ない。
しかし、少なくとも俺はこの金一という少年には勝てるとみた。つまり、この金一という少年を狙えば俺は勝てる!!
「ふふっ。愚かですね」
「愚者」
勝利を確信していると、銀二と銅三という少年の嘲笑うような声が聞こえてくる。
ど、どういうことだ?
まさか、この金一とかいう少年も強いというのか!?
「ははは! 舐められたもんだな、俺も。なあ、にーちゃん。何故俺が金一という名前か分かるか?」
「は? そ、そんなの知るか」
「簡単なことだ」
そう言うと金一は人差し指を上に向けながら、ゆっくりとドリブルを始める。
「銀でも、銅でもない。二番でも、三番でもない。唯一にして絶対の一番。生まれながらの王者。並び立つ者がいない。それが、俺だからだ」
気付いた時には目の前から金一という少年の姿は消えていた。
そして、少し遅れてからボールがリングを通過する音が辺りに響いた。
み、見えなかった。
目で追うことも出来ないほど、俺とこの少年との間には差があるのか!?
「これで分かっただろ、にーちゃん。お前は敗北者。奪われる側はにーちゃんの方だったな」
「くそっ! もう一回だ! 負けてたまるかああああ!!」
そして、冒頭に戻る。
「ちくしょお……っ!」
己の情けなさが悔しくて、地面を拳で殴る。
俺は、弱い……!!
「さて、にーちゃん。お前は敗北者だ。大人しくここから出て行くんだな」
「まあ、でも丁度良いウォーミングアップになりましたよ」
「楽勝」
俺を見下す少年たちに何も言い返すことが出来ないまま、俺はただ己の無力を嘆くことしか出来なかった。
弱いものが奪われるのではない。強いものが奪うのではない。
敗北者が奪われるのだ。勝利者が奪うのだ。
俺は敗北者。
その受け入れがたい現実を噛みしめ、俺がその場を後にしようとした時だった。
「へぇ。面白いことやってんじゃねーか。私も混ぜろよ」
そこには、不敵な笑みを浮かべる黒井雪穂の姿があった。
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