第11話 勘違い街道爆進中!

 昼休み、中庭の木陰で神田と供に音羽を待つ。


「お前、昼飯は?」


 手ぶらでベンチに座る俺を不審に思ったのか、神田が問いかけてきた。


「音羽が弁当持ってきてくれるって言ってたからな、腹を空かすために何も用意していない!」


 神田に胸を張って答える。


 昨日の俺の弁当の感想への音羽の反応はいまいちだったからな。今日は、もっと良い感想を伝えたいところだ。


「ふーん。そうか」


 神田はそう言うとコンビニで買ってきたであろうパンを口に入れた。


「せんぱーい!」


 中庭に高めの可愛らしい声が響く。

 声のした方に目を向けると、そこには昨日と同じくお弁当を手に持った音羽が駆け寄ってきていた。


「お待たせしました! これ、良かったらどうぞ!」


 そう言うと、音羽が弁当を差し出す。

 ……神田の方に。


 なるほど。昨日と同様、本命は最後にということか。

 正直、めちゃくちゃ腹が減っていて今すぐ何かを口に入れたいところだが、俺はクールな男。

 大人の対応で空腹さえも我慢してみせよう。


「神田、先に食えよ」


 俺がそう言うと、神田は弁当箱の蓋を開ける。

 弁当の中には昨日と同様の卵焼きや、アスパラのベーコン巻き、小さめに焼かれたハンバーグ、ミニトマトなどの彩り豊かなおかずが詰まっていた。


「いただきます」


 そう言うと神田は卵焼きを一つ口に放り込み、笑顔を浮かべた。


「やっぱり美味いな。じゃあ、後は佐々木が食えよ」


「え? 神田先輩はもう食べないんですか……?」


 音羽が神田にそう問いかける。


「ああ。俺はパン食ったしな。それに、昼飯の準備して来ないほど佐々木は音羽の弁当を楽しみにしていたみたいだしな」


 そう言うと、神田は俺の方にウインクを一つしてからその場を立ち去った。



 あ、あいつ……!

 まさか俺のために気を遣って……? やだ。惚れそう。


「はあ……。何で先輩はお昼ご飯を抜いたりしてんですか」


 神田が立ち去った直後に、音羽が俺をジト目で睨みつけてくる。

 予想外の音羽の反応に一瞬、たじろぐがここで引いてはいけない。そう思った。


 既に昨日の時点で音羽が俺のことを好きなことは分かっている。であるならば、ここで俺が言うべき言葉は一つ。


「お前の弁当が楽しみだったからだ」


 自分にできる最高のイケメンスマイルで笑う。


「何ですかそれ? もしかして先輩、私に惚れてるんですか~?」


 俺の反応を見た音羽は揶揄うようにそう言った。

 普通ならここで照れたりして、「そんなわけないだろ」と言う場面である。だが、俺は音羽が好きか嫌いかで言われれば好きだ。寧ろ、中学時代から俺をそれなりに慕ってくれる美少女後輩を好きにならないことがあるだろうか? いや、ない!!


 それに、音羽は九割方俺のことが好き。つまり、ここで俺が音羽を好きと言えば二人は結ばれることになり、ラブ・フォーエバーということである。

 これはもう今すぐ好きだと言うしかない!


「ああ、そうだ! 音羽! 俺は、俺はお前のことが――」


 好きだ。そう言いかけたところで、口を閉じる。


 待て。以前のことを思いだせ。そう、俺が宮本さんに告白した時だ。

 あの時は、結局俺の勘違いだったじゃないか。今回だって、その可能性がある。

 この告白の成功率は99%はあるだろう。しかし、残りの1%が勘違いの可能性だ。


「どうしたんですか?」


 不審気に音羽が俺の顔を覗き込んでくる。


 可愛い。

 いやいや、落ち着け。

 まだだ。まだ早い。宮本さんの時は告白してから宮本さんの好みの男になるべく努力し、失敗した。

 ならば、今回はその逆をすれば上手くいく……はずだ!


「ごほん! 音羽」


「は、はい」


「俺は、音羽のことを可愛いなと思っている! ところで、音羽の好みの男ってどんな奴?」


「相変わらず先輩は突然ですね。うーん。まあ、そうですね……。バスケが上手くて、一生懸命頑張ってる人とか……ですかね」


 少し恥ずかしそうに頬を赤く染めながら音羽はそう呟いた。


 バスケ……だと!?

 何て限定的なんだ!? それ付き合えるのバスケ部だけだろ!


「それって、バスケ部に入ってる奴が好きってことか……?」


「あ、いや、そういう訳じゃないです。ただ、一生懸命頑張ってる人が好きなんです。バスケは、私の趣味ですね」


 つまり、バスケ部である必要はない……と。


 あれ? これ、やっぱり俺の勘違いだったんじゃね? 俺、別にバスケ上手くないし……。いや、待てよ。俺は中学時代バスケ部だった! そうだ。だから、当時女子バスケ部に入っていた音羽と仲良くなったんだ。

 つまり、音羽は中学時代に男子バスケ部で頑張る俺の姿に感動して好きになったということか?


 あり得る!!


 だが、俺はバスケを中学で止めてしまった。

 くっ。これはミスだ。音羽の好感度はきっと下がっている。やはりここで告白しなくて良かった。

 音羽と付き合うためにも、まだ俺はバスケが上手いことを証明しなくてはならない。

 幸い、七月末にうちの学校では球技大会が行われる。その種目の中にはバスケも含まれていた。

 これはもう出るしかない!!


「音羽、待たせて悪かったな。必ずお前が好きだった頃の俺に戻って見せるぜ!」


 音羽に向けてグッと親指を突き立てる。


「え、いや……。別に、先輩のこと好きだったこととかないんですけど……」


 照れ隠しでそう言う音羽を横目に音羽のお弁当を瞬時に平らげる。

 お弁当は非常に美味だった。

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