第2話 学年一の美少女
優斗と供に頑張ると誓った翌日の放課後、俺は図書室で勉強していた。
分からないことが多く、最初はどの科目も基礎知識を身に付けることから始まった。基礎知識を頭に叩き込むのは、退屈で辛かったが、それも全て恋を成就させるためだと思えば頑張れた。
「ふぅ……。結構やったな」
時計を見れば、六時が近付いており、外も暗くなり始めていた。
あと少しやったら帰るか。
そう思ったところで、トイレに行きたくなり図書室から一旦出る。
トイレを済ませてから、再び図書室に続く廊下を歩く。
「こんにちは。佐々木君」
不意に、背中から声をかけられた。振り向くとそこには、学年一の美少女と言われている黒井雪穂さんが微笑んでいた。
黒井雪穂という女の子を一言で表すなら、男子の理想を体現したかのような清楚な美少女である。
肩まで伸びた綺麗な髪に、透き通るような白い肌。モデルのようなスラッとした体型。
胸は控えめであるが、見る人全てを癒す笑み。
欠点らしい欠点のない完璧美少女。それが、彼女だ。
「あ、ああ。こんにちは黒井さん」
「もう。名前で呼んでくださいといつも言っているではありませんか」
俺が彼女を名字で呼ぶと、彼女はぷくっと頬を膨らませてそう言った。
「ああ。ごめん。雪穂さん」
「はい。余り、苗字で呼ばれるのは好きではないので名前でお願いしますね」
そう言って、黒井雪穂は微笑んだ。
この笑顔に何度勘違いしたことか。
はっきり言おう。俺は黒井雪穂が苦手である。
何故か? 脈無しだと分かっているのに、何度も勘違いしてしまうからだ。現に、俺は高校一年生の頃に黒井雪穂に告白し、フラれている。普通は振った相手に対して多少なりとも態度が変わる。
だが、黒井雪穂は変わらなかった。高校二年で同じクラスになってからも、一切態度を変えることなく、俺に挨拶してきた。
そうやって、優しくされるたびに俺は思うのだ。
あれ……? 実は、俺のこと好きじゃね? と。
しかし、それは勘違いだ。
黒井雪穂は全ての人に挨拶する。黒井雪穂は全ての人に優しい。
イケメンもブサイクも、明るい人も暗い人も関係なく、全員が黒井雪穂にとっては同じ扱いなのだ。
イケメンや女の子にモテる奴は直ぐに気付く。脈無しだと。
しかし、モテない男たちや、クラスで雑な扱いを受けがちな男たちは気付かない。
何故なら、彼らにとって普通の扱いは特別扱いされていることと同じだから。そうして、何度か告白して漸く気付くのだ。
絶対に無理だと。
ちなみに、俺は一年かけて漸くそれに気づいた。
ある意味、貴重な高校生活を黒井雪穂に奪われたと言ってもいい。逆恨みでしかないが、それが理由で俺は黒井雪穂に苦手意識を持っている。
「ところで、佐々木君はこんな時間にこんなところで何していたのですか?」
そんな俺の胸の内を知らない黒井雪穂は俺にそう問いかけてくる。
「あ、ああ。少し中間テストに向けて勉強していたんだよ」
「へえ、頑張ってるんですね」
黒井雪穂は微笑みながらそう言った。
「いい点取れるといいですね。応援してます」
そう言うと、黒井雪穂はお辞儀をしてからその場を立ち去った。
……ふーっ!
あぶねえ。あの可愛さにまたやられるところだった。もし、宮本さんに恋をしていなかったら勘違いしていたに違いない。
てか、挨拶して早く帰れよ。何で一回世間話するんだよ。そういうところだぞ。今でも男どもからの告白が止まらない理由は。
黒井雪穂に対する不満を抱きながら図書室に戻り勉強を再開した。
***
期末試験まであと一週間となり、試験期間に突入した日の放課後。
俺は図書室で頭を抱えていた。
「分からん……っ!!」
普段は優斗に分からないところを教えてもらいながら勉強しているが、今回は優斗がいない。
ここまで必死に一人で勉強してきた。自分で言うのも何だが、かなり出来るようになってきた気がする。
しかし、そんな俺を数学という悪魔が邪魔してきていた。
英語や日本史、世界史のような暗記することが大事な科目はまだ何とか食らいついていける。国語に関しても、授業の内容をしっかりと復習すれば定期テストは大丈夫だろう。
だが、数学は別だ。
基本的に定理や法則を抑えても、それを上手く活用する術を知らなければ解けない。
そもそも、初見の応用問題は殆ど手つかずである。解説を読んでもよく分からないところがある。
どうしたもんかと、頭を悩ましながらトイレに行くために図書室の外に出る。
トイレを済まして図書室に戻る途中に、階段を上る一人の女子生徒を見かける。
さらさらと風に揺れる黒髪。透き通るような白い肌。
百人いれば百人が振り返るような美少女。黒井雪穂が無表情で階段を上がっていた。
黒井雪穂……? こんな時間に鞄も持たずに何してんだ?
いや、そんなことはどうでもいい。確かあいつは一年時の学年末テストで学年一位を取っていたはずだ。
ここは思い切って、勉強を教えてもらうのがいいんじゃないか?
いや、だがな……。
黒井雪穂への苦手意識と、数学への苦手意識。両者を天秤にかけた結果、勝ったのは数学の方だった。
やっぱり、聞きに行くかぁ。このまま分からない問題を眺めてても時間の無駄だしなぁ。
図書室に戻り、数学の問題集とノート、シャーペンを持って階段を上る。図書室の上には屋上がある。
屋上と言えば、この学校では有名な告白スポットの一つだ。
……待てよ? まさか告白か? だとすると、邪魔するのは申し訳ないな……。
ドアを少しだけ開いて、屋上の様子を確認する。見る限り屋上にいるのは黒井雪穂だけのようだ。
これは好都合と思い、屋上に足を踏み入れようとした時だった。
「ちっ。どんだけ告白してくんだよ。誰とも付き合う気ないって言ってんだろ。どいつもこいつも、この学校には人の言葉も理解できないサルしかいないのかっつうの」
あの黒井雪穂の口からは想像できないほどの暴言が聞こえた。
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