俺は学年一の美少女に勘違いしない!(旧題 惚れっぽい男の俺が学年一の美少女の裏の顔を知った結果)
わだち
宮本朱莉編
第1話 勘違いだとしても、それは恋
美少女と二人で同じ部屋にいる。
そんな状況に憧れる男はきっと多いはずだ。
そして、俺はそんな多くの男が憧れるシチュエーションを図らずも実現することが出来た。
だが、言わせて欲しい。
「ちっ。まじで、サル共がうぜーんだよ。あいつらは、まじでどうなってんだ? 一年中発情してんじゃねーの?」
「知らねーよ。そんなこと良いから、ここの問題教えてくれ」
「ああ? そんなの、この答え見たら分かんだろ」
「分かんねーからお前に教えてもらいに来てんじゃねーか!」
「はあ? こんなんも分からないとか、お前バカすぎだろ。しゃーねえな。後から教えてやるから今は私の愚痴を聞け」
「お前の愚痴聞くために、わざわざお前の家に来てんじゃねーんだぞ!!」
どうしてこうなった?
***
思春期になると、異性に対する興味というのが強くなる。
ふと気づけば、横にいる女の子が可愛くて見えたり、ちょっとしたスキンシップに心臓が高鳴ってしまうものである。
そして、女の子の自分への行動一つ一つに過敏に反応してしまうからこそ、ちょっとしたことから俺こと、佐々木次郎はこう考えてしまう。
あれ? この子、俺のこと好きなんじゃね? と。
放課後の屋上、俺の目の前には、茶髪のいかにもギャルといった雰囲気の美少女がいた。
彼女の名前は宮本朱莉。つり目に明るい髪色、一人でいることが多い孤高の一匹オオカミ系美少女である。ちなみに俺と同じクラス。
「で、佐々木、話ってなに?」
宮本さんは、ウェーブがかかったセミロングの茶髪の毛先を指でくるくると巻きつけながら、気だるげにこちらを見ていた。
そんな宮本さんを見つめて、深呼吸を一つする。
よし。覚悟は決まった。俺はこれから、目の前にいる宮本さんに告白する。
「好きです! 俺と、付き合ってください!!」
「……へ?」
告白されると思っていなかったのか、宮本さんはあからさまに動揺していた。
「……え、あ、いや……ごめん」
宮本さんはそう言って俺に頭を下げる。
え……。マジで?
いやいや、何で? よく教室で目合ってたじゃん。俺の方見て微笑んでたじゃん。
普段、あんまり周りと関わりない宮本さんがそんな態度取るってことは俺が好きだって合図じゃないの?
それに、消しゴムだって拾ってくれたのに……何で?
「その、本当にごめん。それじゃ、私は行くから……」
混乱して脳がフリーズしている俺に、軽く頭を下げて宮本さんが屋上の出口に向かう。
「ちょっと待ってくれ!!」
「な、何……?」
「す、好きな人がいたりするのか? 例えば、秀山優斗とか……」
宮本さんを呼び留めて、問いかける。
秀山優斗は、俺の斜め後ろの席にいる眼鏡をかけた冴えない男子だ。成績はかなり良くて、クラス内では目立たないが実はかなり面倒見がよくて優しい。
更に、前髪を上げて眼鏡を外すとかなりのイケメンになる。宮本さんが俺の方を見る時、優斗が近くにいることが多かった。
だから、もし宮本さんが俺を好きじゃないなら優斗を好きな可能性が高いと俺は予想していた。
もし、宮本さんが優斗を好きなら、俺も諦めがつく。あいつとはそれなりに仲がいいし、あいつなら宮本さんを幸せにしてくれる気がするから。
「な、なんで私が秀山と!? 違うから! あ、あいつを別に好きだなんて……思ってないし……」
俺の問いかけに対して、宮本さんは顔を真っ赤にして否定した。
違うのか? よし。なら、俺が宮本さんの好みの男になれば、宮本さんと付き合えるはずだ!
「な、なら宮本さんの好みの男を教えてくれ! 俺、宮本さんの好みの男になれるように頑張るから!」
「な、何で私があんたにそんなこと教えないといけないのよ」
「好きだから!」
真剣な表情で宮本さんに詰め寄る。
俺の目を見た宮本さんは狼狽えつつ、一歩下がる。
「……や、優しくて、賢い奴」
そして、俺の顔から視線を逸らしながらそう言った。
「も、もういいでしょ。私、行くから」
それだけ言い残すと、宮本さんは屋上から逃げるように出て行った。その表情は良く見えなかったが、頬が赤く染まっていた気がした。
優しくて、賢い奴。
そう言われると、真っ先に優斗が思い浮かぶ。優しさに関しては、これから意識していくとして、賢さに関しては勉強しなくてはならない。
勉強は正直、苦手だ。全くできないとは言わないが、テストの順位で言えば多分下から数えた方が早い。
……優斗に教えてもらうか。
「よし。頑張ろう」
決意を固めるとほぼ同時に、ポケットの中に入れていたスマホが震える。スマホを見ると、そこには優斗からのメッセージが一件来ていた。
『どうだった?』
優斗には、今日俺が宮本さんに告白すると伝えている。
『まだ教室いる? いるなら、一緒に帰ろうぜ。そこで話す』
メッセージを素早く打ち込み、優斗に送信する。
返信は直ぐに返ってきた。
『うん。それなら、次郎の鞄持っていっておくから校門で待ち合わせしよう』
『了解。ありがとな』
優斗に感謝を伝えてから、俺は急いで校門へと向かった。
***
校門では既に、自分と俺の二つの鞄を持った優斗が待っていた。
「悪い。わざわざ鞄持って行ってくれてありがとう」
「気にしないで。それで、告白の件なんだけどさ……」
「ああ。ダメだった」
「そ、そうなんだ」
俺の言葉を聞いた優斗は、一瞬安心したような顔をしてから、直ぐに表情を曇らせた。
その様子を不審に思いつつも、とりあえず二人で歩きながら話すことにした。
「まあ、ダメだったけど、宮本さんに好きな人がいないってことは分かったよ」
「そうなの?」
「ああ。本人に聞いたから間違いない。それで、宮本さんに好みはどんな人かって聞いたんだよな」
「ど、どんな人だって言ってた?」
優斗の声が少しだけ大きくなる。
「優しくて、賢い奴。優斗みたいな男かなって、俺は思った」
「そ、そんな、僕なんて……。でも、そうだったら嬉しいな」
俺の言葉を聞いた優斗は、少し照れ臭そうにそう呟いた。
その様子を見て、俺はとある答えに辿り着きつつあった。
「それでさ、俺って勉強あんまできないだろ?」
「まあ、そうだね」
「だから、優斗に勉強教えて欲しいんだよ」
「次郎がやる気になるなんて珍しいね。でも、僕でよければ力になる――「もう一度宮本さんに告白するつもりなんだ」
優斗の言葉を遮る。足を止め、優斗の目を見る。
「賢くて、優しい奴になって、もう一度宮本さんに告白しようと思ってんだ。その手助けをして欲しい。俺はそう言っているんだ」
今度は、はっきりと俺の真意を口に出して伝える。
俺の言葉を聞いた優斗は、顔を強張らせ、答えに迷っているようだった。
これで、ほぼ確定。
問題はここからだ。こいつが、俺の言葉に対してどういう返事を返すのか。
「……ごめん」
優斗は躊躇いながらも、はっきりとそう口に出した。
「本当は、僕、宮本さんのことが好きなんだ。だから、次郎が宮本さんに告白するって言った時、本当は怖かった。次郎が告白に失敗したって聞いた時も良かったって一安心した。だから、ごめん。僕は、次郎が宮本さんと付き合う手助けは出来ない」
優斗は心底申し訳なさそうに、そう言ってから頭を下げた。
こんなこと頭を下げる必要ない。だって、元々優斗が俺の勉強を手伝う義務何て存在しないんだから。
「分かった。でも、俺は次の中間テスト。確か、二週間後だったよな? そのテストで高得点を取って宮本さんに告白するからな」
「うん。僕も、告白するよ。次郎を見て、僕もこの気持ちにちゃんと向き合わなきゃって思った」
「なら、ライバルだな」
「……うん。お互い恨みっこなしで、頑張ろう」
優斗と互いの顔を見合わせてから、笑いあう。
優斗は、高校からの付き合いだがあまり自分の気持ちをはっきりと口にする奴じゃない。
そいつが、今回初めて自分の気持ちをはっきりと口にした。俺の為じゃなくて、自分のために行動すると決めた。
なら、俺は一人の友達としてその意志を尊重する。
「そういや、優斗って何時から宮本さんのこと好きなんだ?」
「あー。実は、さ。僕、朱莉ちゃんと幼馴染なんだ」
「……まじで?」
俺の言葉に優斗がコクリと頷く。
「小さい頃から家が隣同士だったんだけどさ、中学に上がるタイミングで朱莉ちゃんが引っ越しちゃって、それで高校でまた一緒になったんだ。朱莉ちゃんは忘れちゃったかもしれないけどさ、僕は小学生の頃からずっと朱莉ちゃんのことが忘れられなかった。きっと、その頃から好きだったんだと思う」
言葉が出ないとは正にこのことだろう。
幼馴染。強すぎる。
告白した俺が一歩リード。そう思っていたが、これ、挽回不可能なほどの大差が付いているのでは……?
「……ち、ちなみに宮本さんに消しゴムを拾われたことは?」
「え? う、うーん。それはないかなぁ……」
勝った!
所詮、幼馴染と言ってもそれは過去の話。昔から一緒にいる幼馴染が必ずしも勝つわけではないからこそ、恋愛は面白いんだ!
「ちなみに、俺は宮本さんに消しゴムを拾われたことがある」
「なっ!? そ、そんな羨ましいことがあったなんて……」
「ははは! 幼馴染という単語にはビビらされたが、現状は俺の方が優勢! 精々、この差を必死に埋めるんだな!」
「くっ……! いや、負けない。僕も戦うと決めたんだ。これから追い上げて見せる!」
「その意気やよし! 頑張るぞおおおお!!」
「おーっ!!」
こうして、俺と優斗は二人で宮本さんと付き合ってみせると誓うのであった。
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