第36話 ハートの形

 「さっき海の大きい生き物たちに、船の周りに行くようお願いしたの。絶対に攻撃はしちゃだめって、脅かすだけって言ったから大丈夫だと思う。」

 「デイジー…。」

 俺が怒っていると思ったのかデイジーは「あ、いや、あの、ここに来たときに思いついて、言おうと思ったんだけど…レオ忙しそうだったから…勝手なことしてごめん。」と頭を下げた。

 「名案だよ!」

 デイジーは俺の言葉に顔を上げると「えっ?」と声をもらした。

 「今敵国は引き返そうとしてる。幻覚だけでは突破されて幻覚だとバレてしまうところだった。君と海洋生物のおかげだよ。」

 「いや、これ本で読んだ案だから…。」

 「そう言えばファンタジーの本を読むのが好きって言ってたよな。それがここで活かされるのか…。」

 デイジーが顔を赤くし始めたところで、「レオ!敵国が引き返し始めた!」とセージが言った。俺が話している間に、使者の視界を覗いてくれたのだろう。

 

 数時間後、俺は「敵国は無事に引き返し、戦争を諦めてくれたようです。ご協力ありがとうございました。」校長先生に頭を下げた。

 「いや、僕の案だけだと戦争が起こっていたかもしれないんだろう、わざわざ隠さなくていい。」

 「いえ、でも、思ったよりも隣国の国王がしつこいやつでして…。デイジーくらいやり過ぎな案がたまたま合っていたというだけでしょう。」

 「確かに彼女の案は大胆だったなぁ。」そう言って校長先生は笑った。


 「これ作ったの!王子様の花かんむり。あなたが王子様で、私がお姫様ね!ほら見て、このドレス。可愛いでしょ?」白いワンピースにつるを巻き付けた小さな女の子が、男の子に花かんむりをつける。

 「うん、可愛いね!お姫様、花かんむりありがとう!」男の子が嬉しそうに花かんむりに触る。

 女の子は「そうだ!」と手を合わせた。「王子様、これからご飯を作るから、それに使う食べ物を持って来てくださる?」

 「いいよ!」男の子は森に向かって駆け出した。


 「遅いなぁ、王子様。」女の子は周りをキョロキョロ見ている。

 男の子はその背後から走ってきた。「お姫様!持ってきたよ!ハートの形してる葉っぱだよ!」服は汚れ、ところどころ血がついている。

 「どうしたの?おけがしてる!」

 「転んじゃった。でも大丈夫だよ、王子様は強いから。ほら、これ。ご飯作ってー!」

 「ちょっと待っててね!」女の子は男の子から濃い緑色の葉を受け取ると、それを千切った。そして半分を男の子に渡し、「いただきます!」と言った。

 男の子も「いただきます!」と言って「あむあむ!」と食べるマネをした。

 しかし女の子は本当にその葉を口に入れ、噛んでしまった。「うぇぇ、まっずぅぅーいっ!」ぺっ、ぺっと吐き出したが、次は咳き込み始めた。

 「大丈夫?」男の子が声をかけた。

 女の子はしゃがんで苦しそうに咳き込んでいる。

 男の子も隣にしゃがんで、女の子の背中をさすってあげた。

 女の子は息を整えると、「うん、もう元気だよ!」と立ち上がった。

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