第27話 花火の音
12月30日 18:00
街がキラキラと輝き、明日で最終日を迎えるこの年の最後を飾っている。この国には、毎年12月30日にその年の感謝などをし、31日に次の年の準備をするというしきたりがある。最近は2日間で祭りをするところが増えており、30日にはカップルがデートすることが多いらしい。
「でも何で俺たちまで?邪魔じゃないか?」
「いいんだよ。キャシーもその方が良いって言ってくれてるし。」俺の疑問に、セージがケロッとして答える。
「今度の30日に祭りあるだろ?今年も一緒に行くよな?」
「ああ。」
これは一週間前の俺とセージの会話だ。セージは小さい頃から毎年二人で行っている祭りに誘ってくれた。俺もいつものように二人で行くものだと思っていた。
…が、待ち合わせ場所である城の門の前に行ってみると、そこにはセージの他に、キャシーとデイジーがいたのだ。どうやらセージとキャシーがWデートというやつをセッティングしてくれたらしい。
俺たち4人は河原でシートを敷いている人たちの方へやって来た。彼らは、城から打ち上がる花火を見るためにやって来ているのだ。
俺はセージが作ってくれた大きめのソファーに浮遊の魔法をかけ、デイジーが乗るのを手伝った。
4人全員が乗り終わると、ソファーは地上5mほどまで上がった。
やがて一発目の花火が上がり、人々の歓声と共に次々と花火が打ち上がっていく。様々な色、様々な形で打ち上がっていく。
「とってもきれいね…。」
「君には劣るけどね。」
セージとキャシーはいつも通りの会話をしながら、花火に見惚れている。
俺は目を瞑っているデイジーに「大丈夫?花火好きじゃないの?」と聞く。
「ううん。花火の音が心臓にドーンって響く感じが好き。その音が落ち着くの。分かる?」デイジーは目を瞑りながら言った。
「確かに、分かる。」
「…でもね、花火とか日の光とか、眩しいものを見ると全身の筋肉が強張ったような感じがするの。心臓がキュッとなって、呼吸が難しくなって、時が止まったような感じもする。だから、こうやって目を閉じて音と歓声だけ聞いてるの。分かる?」
「それは分かんないや。ごめん。」
「ううん、別にいいよ。」
それっきり、俺とデイジーは黙ったまま花火を楽しんだ。
「いやあ、楽しかったな!」ソファーから一番に降り、キャシーが降りるのを手伝ってからセージが言った。
俺もデイジーが降りるのを手伝いながら、「でも結構遅くなったな。もう8時だ。花火がないと真っ暗だし。」
「確かにそうだな。…キャシー、家まで送ってくよ。」そう言うと、セージはキャシーと帰って行ってしまった。
「じゃあ、私も帰ろうかな。」
俺は帰ろうと振り返ったデイジーを引き止めて、「いや、危ないから送るよ。」と言った。
「…まだ、待ってるけど。」人が多い河原から少し離れた帰り道、デイジーが沈黙を破った。
「へ?…あ、ああ…ごめん。まだよく分かんなくて。」
「じゃあまだまだ待ってるね。」
そしてまた沈黙のまま、二人で夜道を歩いた。
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