第19話 喜びと悲しみ

 9月3日 9:00

 国の雰囲気はまだ暗かったが、それをかき消すように明るいラッパの音が鳴り響く。父上のおっしゃった通り、早めに式をあげることにした。

 正装した俺はバルコニーに出た。ペリドットたちは式を盛り上げるための仕事をしたり、警備をしたりしているので、任命式よりも国民が多く見えた。

 

 俺は長い文章に「誓います。」と言って、指輪をつけてもらったり、王冠を被せてもらってから、魔法で花火を打ち上げた。

 庭にいない国民も「うぉぉぉっ!」と歓声を上げ、拍手してくれる。父上が亡くなったばかりだというのに、と文句を言う者もあったが、結局は俺を支持してくれているのだ。

 右手の人差し指につけた指輪の重みを感じながら、俺は庭に向かって手を振った。


 先程の明るい雰囲気とはガラッと変わり、町は静かで暗い雰囲気になった。これから、父上やセージの父親、大臣の葬式が行われるのだ。昼食を取った後関係者で行われ、希望した国民には直接脳内に様子が送られる。

 関係者は全員黒い服に着替え、特に親しかった者が話をする。

 俺もその中の一人で、母上→叔父→父上の学生時代の友人→俺の順番だった。

 「まず、謝らせて下さい。僕は父上が亡くなった時、その場にいたにも関わらず、救うことができませんでした。父上を失いたくない、ただそう思っただけで、動けなかったのです。刺された後も、回復の魔法をかけようとはしました。しかし、これからお前は敵と戦うのだから、体力は残した方が良いのだと、父上に言われて止めてしまいました。本当に、申し訳ございませんでした。…父上は凄く偉大な方で、この国の王様です。亡くなる直前も、正夢を見たと言って笑っていらっしゃいました…。そんな、いつも笑顔で安心させて下さる父上は、誰にとっても大切な存在でしょう。それを失ったこの国には、大きな穴が空いてしまいました。僕にはその穴を今すぐ、完全に埋められる自信はありません。ただ、少し見ていて下さい。必ず、よりよい国にします。

 父上との思い出や言葉は一生忘れません。彼の大好きな部分については他の方々が語って下さったので、僕は省略させていただきます。ただ、これだけは僕の口から言わせて下さい。父上、僕はあなたを愛しています。尊敬しています。皆様、もし僕が道を踏み外しそうになったら、どうか、ぶん殴って目を覚まさせて下さい。お願いします。」お辞儀をすると、涙をすする音と拍手が同時に聞こえた。

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