第8話 人一倍優しくて、人一倍熱血なやつ

 7月9日 15:50

 入学して3ヶ月。チームのメンバーは、アレクセイが決定してから変化がない。まだクラスのみんなのことをよく理解できていないのもあるし、正直みんな同レベルなのでは?と思う時すらある。我ながら薄情だと思う。

 「ごめん、レオ。今日も一緒に帰れないや。」とセージ。

 「ったく、またデートかよ。どうぞごゆっくり、楽しんで。」

 先週、セージの告白は見事に成功し、セージとキャシーが付き合いだした。それ以来ほぼ毎日こうだ。くそう、俺の大事な幼馴染みが美少女に取られた…。

 「ごめんってば。今日は一緒にクレープを食べる約束をしたんだ。」

 セージがそう言い終わる前に、「全員、机の下にもぐれ!」とエヴァンス先生が突然大声を出した。

 クラスメートは全員、瞬間移動で机の下に潜る。誰も声を出さない。

 次の瞬間、天井が崩れて先生より少し大きいサイズの魔物が侵入してきた。学園全体にはバリアが張られているはずなので、誰かが持ち込んだか、もしくは警備を突破できるほど強い魔物だということが考えられる。皮膚の透けた豚のような見た目だ。目は左右でバラバラの方向を向いており、舌を出してよだれを垂らしている。少なくとも知能があるものとは思えない。この学園にも、年に一度あるかないかくらいの頻度で魔物が出るとは聞いていたが、たまに森に出てくるものよりも強そうだ。

 エヴァンス先生は炎を繰り出してみるも、敵には効かない。次に凍らせてみたが、氷がすぐに溶けてしまう。炎に耐性があり、体温が高いのだろうか。先生はついに念力を使って敵を宙に浮かばせ、胴体を引き千切ろうとした。

 それだけでは引き千切れない。俺がそう思った時にはもう、どでかい包丁のようなものが敵の胴体を切り裂いていた。

 俺は敵の死骸を避けるため、机の表面と同じ高さで教室中にバリアを張った。もちろん先生がいるところは除いて。

 先生は、バリアの上に広がった魔物の死骸を砂にして風で飛ばしてくれ、どでかい刃物は小さく折り畳んでゴミ箱に捨ててくれた。


 「マック、俺の率いるチームに入ってくれ。」数分後、帰り道でマックを見つけた俺はそう言っていた。先程の魔物襲撃の時、即座に刃物を出したのは彼だ。ゴミ箱にあった原型を留めていない刃物を触ると、誰が作ったかなんて簡単に分かってしまった。「きっと君は本物の戦闘が得意なんだ。頭の回転が物凄く早い。それに、中間テストだって成績は良かっただろ?」

 「チームって、何のことだ?」よし、彼が振り向いてくれた。

 

 マックは俺の説明を全て聞き終えると、「俺でいいなら、ぜひともやらせてくれ。」と言ってくれた。人一倍優しくて、人一倍熱血な彼ならやってくれると思っていた。そう言えば図体もでかいし、魔法が使えなくなったときも心強い味方となってくれるかもしれない。チームのメンバーはあと一人。最強のチームを作ってやる。

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