リミットアウト


 「あれ、おねえさん綺麗だねー。どう?今日俺達と遊びに行かない?」


 四月二十日、土曜日。

 

 誠四郎と待ち合わせをしていた透華は、約束した待ち合わせ場所の駅前に向っている途中だった。すると柄の悪い男二人に目をつけられてしまった。髪を黄色に染めている男と、耳と鼻にピアスをした男だ。

 どちらも身の毛が立つほどいやらしい目で透華の体を見ている、明らかに体目当てだろう。そんな男達に透華は「彼氏がいるので!」と、きっぱりいい、離れようとする。

 「おっと、逃がさないよ。」

 逃げようとする透華を片方の男がしつこくまわりこんでくる。

 「彼氏なんてほっとけば良いじゃん!オレたちと一緒に良いことしようよ!」

 (はぁ、面倒だしこれ使おっと。)

 男達の台詞を聞いて、果てしにない嫌悪感が透華の体中に駆け巡る。

 無意識の抵抗感が無心で抜け無心でスタンガンを取り出させる。

 最近はいつもこうだ、心から信頼できる友達以外、主に男性に体を触られたり、誠四郎や友人をけなされると、どうしようもなく湧き出る不快感が透華を突き動かすようになっていた。

   

 そして今透華はその状態だ。

 そこからは簡単だった。

 一人の男を感電させると、それに反応したもう一人の男が、「この野郎!」とありきたりな言葉をこぼし殴りかかろうとする。それをするりと避け、背中にスタンガンを押しつけ、感電させる。

 なんとも鮮やかな身のこなしで、男達を難なく撃沈させる。

 倒れている二人の男達を踏みつけようと思ったそのとき、電話が鳴った。

 

 「透華大丈夫?」

 誠四郎だ。

 はっと我を取り戻した透華は待ち合わせ時間にちょっと遅れていることに気づく。

 

 「うん。ちょっと、電車が遅れちゃって。」

 「準備に遅れたんでしょ?解ってるから。僕がそっち行こうか?」

 「ううん。もうつくから大丈夫だよ!」

 「解ったよ。じゃぁ待ってるね。」

 「うん!」

 

 (こんなゴミに付き合ってる場合じゃない。)

 (途中で触られてないよね?)

 気持ち悪い男達の手に触られてないか心配になり、ゴム手袋をつけて体中をはらう。


 (これでよし!後でせーちゃんに抱きしめてもーらお!)

 全身くまなく雑菌を落とすと、透華は軽い足取りで、誠四郎に抱きつきに向かった。




―――――――――――――――――――――――

 「せーちゃーーーん!」

 前方から砲弾が飛んで来る。

 「ごふっ!」

 誠四郎を呼びかける声が聞こえたかと思もえば、砲弾のように透華が飛んできた。

 スリスリスリスリ。

 「むふふー。」といいながら顔をスリスリしてくる。まるで大型犬だ。

 公共の面前であるこの場でなんの恥じらいもなくこうされると、誠四郎としては恥ずかしい。

 「ん!っん!」

 そんな正常な恥じらいを感じていると、ついばむようなふわっとした感触が唇に広がる

 「・・・ ?」

 一瞬誠四郎のしこうは追いつかず、何が起こったかも理解できたなかった。

 「はぁ、はむ!、ん、ん、ん。」

 誠四郎の理解が遅延していると、今度はぬめっとした感触が口の中に広がる。

 「ん!?」

 (で、出会い頭!?)

 理解が追いつくやいなやディープキスされていうることに気づく。

 とっさに離そうとするも、両手でがっちりと掴まれる。

(ち、力強い!)

 透華の舌が誠四郎の口内をゆっくり、余すことなく味わうように。

 

 「な、なに!?」

 誠四郎は思わず後ずさる。

 「ちょっとせーちゃんとキスしたくて?」

 (最近透華の唐突な口づけが多いんだけど!過激というか、ずるいというか、性格は変わってないだけど・・・なんかちょっと悔しい。)

 それでも可愛く感じてしまう。

  (なんか、透華が僕の悩みになりつつある気が・・・。)

 「はぁ・・・僕の彼女が憎い。」

 「え?何で?」

 きょとんとする透華に誠四郎がジト目を送る。

 はぁ、そうため息をつきううんと首を振る。

 「行こっか。」

 「うん!」


―――――――――――――――――――――

 「キャー!」

 「・・・」

 時刻が九時代に入った頃。ジェットコースターでは透華と誠四郎の歓喜と絶叫が繰り広げられていた。

 「楽しかった!ってせーちゃん大丈夫?」

 「う、うん。大丈ぶっだよ。」

 人生二度目の絶叫マシーン。高速で前進しながら激しく上下するジェットコースターに、慣れない体が揺さぶられよった。

 (そういえば天心と一緒に乗った時も天心だけ笑ってた気がする。)

 初のジェットコースターという忘れていたトラウマが甦る。

 (案外きつかったかも・・・!)

 

 「せーちゃん!」

 ポンポンっと太ももを叩いて少し怒り顔をしている。

 「わ、わかったよ・・・。」

 「ありがとう、透華。」

 (ホント、たのもしいな。)

 こんなに華奢で子供っぽいのに。

 「透華。ふふ、透華透華透華透華。」

 「せ、せーちゃん、どうしたの!?」

 透華が急に抱きついたり、キスをしてくる気持ちが少しわかった気がした。

 _________________

 「はぁ、たのしかったー!」

 午後5時頃。誠四郎と透華は、遊園地で目一杯遊び尽くしてヘトヘトになりながら二人一緒に帰路についていた。

 「せーちゃんずっと怖がってたよー?」

 透華は一日中絶叫マシーンを楽しんでいた。が、誠四郎はというと、一日中過去のトラウマに耐えていた。

 「そ、それはなしじゃダメ?」

 「ふふ、いつもと違うせーちゃんを見れて私は新鮮だったなー。」

 そう言って透華はいつもの誠四郎の可愛い場面を思い浮かべる。

 「そんなこと言って、透華はお化け屋敷でべったり僕にくっついくせに。」

 仕返しとばかりにお化け屋敷の話で透華の墓穴を掘り返す。

 「そうそう、あのとき透華の____」

 

 胸があたっていた。 そう言おうとしたところで踏みとどまる。

 その場面を想像したとき、2つのふわふわのマシュマロのような感覚が鮮明に思いあげられる。

 (自分で切り出してなんだけど、あのとき僕真っ赤だったじゃん!)

 知らず知らずに透華の墓穴どころか、自分自身の墓穴を掘っていたことに気づく。

 (それに、単純に話したくない!)

 「私がどうしたの?」

 「ん、ううん。何でも無いよ~~~?」

 顔が引きつりこえが震えている。

 「怪しい。」

 (動揺しすぎた!)

 「ねぇ~せーちゃん?私がなんなの~?」

 なんとかして話を変えなければ。

 「そうだ、喉渇いてない?」

 「え、渇いてるけど・・・。」

 「じゃあ買ってくるよ!だから、透華はここで待ってて!」

 「あ!せーちゃんが逃げた!」

 そさくさと逃げるように買いにいく誠四郎の背中を見て「もう!」と透華がつぶやいた。

 ______________________

 「あれ?アイツさっきの女のじゃね?」

 男達の視界に透華と誠四郎が映る。

 「ほんとだー。じゃしゃべってんのが彼氏くんか?」

 「あんな冴えないやつに俺ら負けんのかよ。腹立わー。」

 朝、男二人で空いていているにもかかわらず、それをスルリとかわされ、程度の低い屈辱を感じていた。

 「あ、こっち来るぞ!ボゴせるんじゃね!?」

 「おっ!ぼろいけど角材あるぜ?」

 「よし!隠れろ隠れろ!」

 

 そして、男達は実行した。眠っいた虎を起こすことになるとも知らずに。

 「「せーの!」」

 


 眠っていた虎を起こすことになるとも知らずに。

 

――――――――――――――――――――――

 「せーちゃん遅いなー。」

 誠四郎が飲み物を買いに行って十数分たった頃。そろそろ帰ってきて良い時間帯であるのにたいし一向に帰ってこない誠四郎を透華は心配していた。

 「迎えに行こう。」

 「確か近くに自販機があったはず・・・」

 「あ、あった?・・・・・え?」

 そこには、倒れた誠四郎に二人の男達が蹴っている。

 誠四郎の体には、遠目からでも解るほどに全身字だらけだった。

 「せーちゃん!」

 「ち、もうちっと遊ばせろよな!」

 見つかるやいなや、誠四郎からぞろぞろと解散していく男達に目もくれず、透華は倒れた誠四郎に駆け寄る。

 「せーちゃん!せーちゃん!せーちゃん!そうだ、救急車!早く早く出_______________。」

 ________________________

 

 

 ピッピッピッ

 誠四郎が病室で寝ている。過去に脳に障害を受けたため、それが影響しているかもしれない。と、そう主治医に言われた。

 

 (また?失う…の?)

 ピッピッピッ

 心拍測定器の電子音が雑音となり、透華の思考が段々と焦り出す。

 (私が、いるから?私が。)

 ピッピッピッ

 うるさい。(せーちゃんが、居なくなっちゃうの?)うるさい。(せーちゃんが…。)

 ピ____________。

 「いやーーーーーーーーーーーーー!!」

 頭この中で、偽物の電子音が止まる。

 (いや、いや、いや、いや、いや、いやいやいやいやいやいやいやいや!)

 考えうる最悪の想定。

 (…そうだ、あいつらだ、殺せばよかった。殺せばせーちゃんがこんなことにならなかったんだ。) 

 透華の考えが集束していく。

 (あの時みたいに。)

 過去に感じた感触など、恐怖など、忘れたように。

 

        『殺す』


 (行かなきゃ。)

 ターゲットは決まった。魂まで殺す相手が。


 「行ってくるね。せーちゃん。」

 誠四郎の手を両手で優しく包み込む。

 

 誰よりも穏やかに、誰よりも狂気を孕んだその瞳で、透華は〝笑う〟。


 誠四郎を愛し、子供のように笑みを浮かべる透華はもういない。

 ストッパーである誠四郎は今は意識を手放している。

 

 それは災厄としての狂気に有らず、純粋な殺意による狂気に有らず。


  『失敗した咎人の誓いと償いである。』


 

 ___________________


 透華が誠四郎の手を離すとき、一瞬誠四郎の手が透華が離れることを拒んだ気がした。 

 


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 あとがき

 こんにちはSニックです。まずは、二ヶ月かかってしまい申し訳ありませんでした。

 今回、スランプというか、何というか、考えれば考えるほど、多くの分岐点が出来た来て、完全に迷子の子羊状態でした。本当にすみませんでした。

 また、緊急ですがほうこくがありまして、10月にちょっと”僕からしたら”難しい資格試験がまっていまして、今後の投稿は長引くかと思います。もうしわけございません!

 あ、今回の雑談です。

 エンゲージキス、さいこう! 

 じゃあまたね!

 今回はちょっと今後のために意見としてコメントよろしくお願いします!

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