誠四郎編

悪夢

 「…に…ちゃ……た……て。」

 暗い微睡んだ空間で、誰かが僕を呼んでる。

 「…に…ちゃん…たす…て。」

 僕の弟が呼んでいるのだろうか。ならば、今すぐ行かなければ。そうおもむろに振り向く。


 「お兄ちゃん、助けて。」


 そこにあったのは、〝血だらけになった弟〟の姿だった。                                  

 

 一瞬思考が停止する。

 脳が目の前の光景を受け付けない。

 「お兄ちゃん!」

 それでも、弟の声に意識が戻される。

 そう、今はそれどころではないのだ。大切な弟を失わないよう体を動かそうとする。

 しかし、体は下半身が上手く動かない。

 その事実に、顔から血の気が引いていく。

 見下ろしてみれると、深い黒色の沼に浸かっていた。

 (何だよこれ!)

 払い除けても払い除けても、一向にでることが出来ない。むしろ埋まっていった。

 「お兄ちゃん、助けて。」

 段々と弱々しくなっていく声に焦る反面、必死に動かす体は沼に飲まれていく。

 「おにい、ちゃん…」

 必死に伸ばす手は空しく、弟から意識が手離される。

 「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 逃げることも出来ず、押し付けられる現実。

 押さえることもせず、押し寄せる感情のままに嘆いた。

 

 ――――――――――――――――――――


 「あぁぁぁぁぁぁ!」

 気がつくと、腕を伸ばしていた。

 酷く目覚めの悪い夢を見たからか、気持ち悪い程汗を掻いていた。

 

 しかし、僕にそんな小さいことが考えられる余裕はなかった。

 この頃見続けている現実という悪夢に、後悔を重ねていくだけだった。

 

 「お兄ちゃん。」


 血だらけの弟が頭にこびりついて離れない。飛び火していく黒煙が、弟との思い出を黒く染めていく。

 

 笑い合うことも、喧嘩することも、しゃべることすら、もう過去となってしまった。


 後悔が足を離さない。後悔が前に進むことを許さない。

 後悔先に立たず。既に光は無くなった。



 誠四郎の原点はここにある。オレが居なくなった、その前から。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 あとがき

 今後の方針が決まりましたので、このように進めていきたいと思います。

 お楽しみください。  

 

 

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