第4話

「うーん……ペンダントは届いていないみたいね」


 生徒会室の助言をもらった翌日、糸魚川は早速保健室に向かった。

 届けられた落とし物はあまりにも多く、養護教諭の古町こまち先生と共にペンダントを探すが、何処にも見当たらない。古町は常に届けられた落とし物はノートに届いた日、届けられたもの、場所までしっかりと記入していたが、その記載も見当たらないらしい。おかしいわね、とノートを片手に溜息をついた。


「この日は私、会議で隣町の学校に行ってたから、落とし物があれば事務室からこっちに届けてもらえるはずなんだけど……」

「そうですか、わかりました。もう少し探してみます」

「ごめんなさいね、力になれなくて。もし届いたら糸魚川くんにすぐ伝えるわね」


 申し訳なさそうにする古町に、糸魚川はお礼を言って保健室を出た。

 届いていないことに対して、糸魚川にはそれほどショックではなかった。最初から無いとわかっていて聞きに行ったのだから想定内である。そしてなぜか、今後も届けられることは無いと確信していた。


 ポケットに入れたスマホで時間を確認すると、次の授業まで五分ほどまだ時間が残っている。教室に戻る途中で見落としていないか、廊下の端を気にしながら歩いていると、女子生徒の黄色い歓声が聞こえてきた。気になって顔を上げると、昨日生徒会室で会った半井が女子生徒に囲まれているのが見えた。長身で顔も良い、条件が揃いすぎると目立ってしまうのは大変そうだ。

 すると、半井が糸魚川の姿を捉えて女子生徒をかきわけてこちらにやってくる。近くで見れば、若干顔色が悪いように見えた。


「難航してるみたいだな」

「……笑いに来たんですか?」

「ちげぇよ。ちょっと話せるか?」

「授業まであと五分もありませんけど」

「すぐ終わる」


 答える間もなく、半井は糸魚川の背中を軽く押して女子生徒の群れから離れようとする。おそらく話がどうのこうのというより、彼女たちから逃れたかったからではなかろうか。

 じっと睨みつけられるような視線が、糸魚川に向けられているのがわかる。廊下の隅に行くと、半井から小さな溜息が聞こえた。


「人気者も大変ですね」

「好きでこうなったわけじゃない。……それよりも随分浮かない顔をしてるところを見ると、保健室にはなかったみたいだな」

「三年生になったら人を見透かす方法でも学ぶんですか?」

「どんな授業だよ。ほまれが言ってただろ、お前は顔に書いてあるって」


 やっぱり変な授業でも受けているんじゃないか。

 不貞腐れた顔をすると、半井は無表情ながらも鼻で嗤う。これ以上は埒が明かない。糸魚川は渋々頷いた。


「事務室で預かったものも保健室に集めて管理しているみたいですけど、そこにもありませんでした。あの後帰って家の中を探してみましたが、見つからなくて」

「通学路はどうだ? チェーンの留め具が緩かったって言ってたよな。もしかしたら歩いている最中に落としている可能性も……」

「いえ、それはありえません」

「ありえない? どうして断言できる?」

「無いことに気づいたのが、化学の授業が終わって理科室から教室へ戻る途中だったからです。それまで手元にあったんです。通学路で落とすわけがない」

「……最初から一通り探していたのか」

「疑えるところは全部、しらみつぶしに探しました」

「じゃあどうして生徒会室に探し方を聞きに来た? ほまれがお前に助言したことは、すでに実践済みだったんだろ?」


 半井が疑い深く目を光らせる。確かに糸魚川の相談内容はイレギュラーだったと思う。それでも彼の相談は助言を聞けただけで終わったはずだ。これ以上関わってもお互いに意味はない。


「別に、噂通りの変わり者なら、突飛な解決法を思いついてすぐ見つかると思ったからです」

「本当にそれだけか?」

「え……?」


 それだけって? ――と聞き返そうとすると、授業開始のチャイムでかき消されてしまった。半井は諦めたのか、小さく溜息をついた。


「いい、またな」 


 そう言って半井は彼の横を抜けて歩いて行った。向こうからやってくる先生も颯爽と歩く半井を見ては頬を赤らめている。人気者は大変だな、と改めて思っていると、先生と目があった。途端に鬼の形相に変わった。


「――こらっ! 糸魚川くん、早く教室に入りなさい!」

「はーい」


 先生に促されて入ると、クラスメイトの女子数名から厳しい視線を向けられていた。それほど半井と関わりを持ちたいらしい。

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