第198話 過ぎ行く日々
甲子園の日々が過ぎていく。
多くの高校球児の夏が終わっていく。
既に終わってしまった者は、あるいは羨ましそうに、あるいは見ることすら辛く。
最後の夏が終わっていく。
白富東が勝った試合の後は、とりあえず緊急で見ないといけない試合はない。
ここからは準々決勝以降に当たるチームの試合であるのだ。
もっともその中でも、事前の情報などで、注目するべきところはある。
この日は石川の聖稜と、京都の畿内大付属の、有名校が勝ち残った。
おおよそは順当な勝ち残りと言える。
夏場の暑さ対策のために、練習は出来るだけ朝と夜。
昼間は室内でというのが、北村の方針だ。
(この暑さもまた問題なんだよなあ)
暑くて脳が茹だってしまって、限界を超えるプレイをしてしまう、
そして勝つ者もいれば、故障する者もいる。
三日目、四日目と一回戦が消化されていく。
それほどのジャイアントキリングもなく、強豪や名門と呼ばれるところは、順当に勝ちあがっていた。
その中では愛知の明徳と群馬の桐野の試合などは、それなりに注目されていた。
もっともそこも、明徳が手堅く勝っていった。
北村はその間に、二回戦の相手である明倫館の分析を行う。
もちろん自分だけではなく、千葉に残っている研究班や、実際に対戦する優也や潮と一緒ではある。
だが基本的に優也は、考えるのは潮の仕事、と思っているところがある。
プロになれば自分もしっかり考えて、キャッチャーのリードの補助をしなければいけない。
「明倫館は全員が打って得点出来るというタイプな訳じゃないから、確実にアウトを取れるところは取っていかないとな」
懇切丁寧に優也に教える。優也は確かに高校野球でこそ五指に入るレベルだが、アマチュア全体としてはまだ、それなりに上がいるレベルだ。
またプロの世界に入ってしまえば、超高校級ばかりのバッターを相手に、勝負していかなければいけない。
正志レベルのバッターが、普通にいるのがプロの世界だ。
そしてキャッチャーのレベルは、潮以上とは限らない。
コーチの指導にしても、必ずしも自分に合うとは限らない。
自分自身のパフォーマンスをプレゼンするのは、最終的には自分の役割になる。
プロの世界は一億だのなんだのという金をかけて選手を引っ張ってきても、使えなければすぐに切られる。
高卒で20代半ばで切られて、これまで野球しかしてこなかった人間が、他に何が出来るのか。
一応北村はそのあたり、思考についても色々と鍛えてきたつもりではあるが。
教師としての自分と、野球指導者としての自分では、価値観が違う。
ただ優也の場合は母親があんな感じであるので、野球で大成しなくても、なんとかなるかなとは思っている。
その点では正志は、メンタル的には優也よりも安定しているとは思う。
彼は優也と違って、プロで成功するイメージを強烈に持っている。
優也はまだ、小学生のガキ大将的な部分があるので、少しそこは心配でもあるが。
やがて試合は二回戦に入っていく。
ここから登場のチームもあるため、情報収集は大切だ。
刷新の試合もある。
地方大会ではそれなりに、小川以外のピッチャーも投げている。
だが絶対的なエースは一人だけで、どこまで勝ち残れるかは微妙なところだ。
小川個人の話であれば、既に大学への推薦が決定しているという話もある。
あれだけ才能に恵まれていながら、さらに後のことを考えるビジョンもある。
大学でバカな指導者に当たらない限りは、経験を積んだ上でプロ入りしてくるだろう。
白富東の監督の北村としては、注目しているのは兵庫代表の帝都姫路のことである。
ジンが監督をしているが、チーム力がそれほど絶対的に高いというわけではない。
だが攻撃においてはスモールベースボール、そして守備の充実と、分かりやすい高校野球の強さだ。
それでも初戦の相手は埼玉の浦和秀学と、かなり強い相手だった。
どうなることかとテレビで見ていたが、攻撃面ではとにかく、野手の全員が一つでも前の塁を目指す走塁。
案外送りバントは使わず、強攻も組み合わせてきていた。
堅実な守備で相手のチャンスを潰し、結果は3-1での勝利。
監督の采配が、かなり上手く見られた試合であった。
もしも帝都姫路と対戦するとしたら、それもやはり準決勝以降となる。
だが帝都姫路は、大阪光陰か刷新と対戦する可能性が、三分の二もある。
あるいは刷新が小川のほぼワンマンチームであるところを突いて、一点を取っていくか。
刷新の攻撃力は、さほど高くはない。
大阪光陰が相手としたら、おそらく監督の采配がさらに重要になる。
なぜなら大阪光陰は、お隣さんでもあるだけあって、データは大量にあるのだ。
もちろんそれ以前に、三回戦で敗北する可能性も高い。
相手は西東京代表、甲子園常連の日奥第三に決まったのだ。
ただそんなことを考えていても、大阪光陰がころっと負けるかもしれないな、と思っていたが同じ近畿の奈良天凛高校相手に、ロースコアで粘り勝ち。
やはり毒島という強力なピッチャーがいると、特に試合の終盤では計算がしやすくなるのだろう。
木下監督も高校野球は経験は多い。
天凛は弱いわけではなかったが、大阪光陰が隙を見せずに、三回戦進出を決めた。
七日目の最終戦は、鹿児島の桜島実業が、またも打撃戦を制して勝利。
13-5とそれなりに点を取り合う、派手な試合となった。
もちろん白富東の方が、投手力は上だ。
だが最初から軟投派のピッチャーを使うには、なかなかためらわれる打撃力ではある。
白富東はなんだかんだ言って、先取点を取る確率が極めて高い。
そしてそこから追いつかれることなく、突き放して勝つのが上手い。
別に白富東だけではなく、どのチームもそれが必勝のパターンなのだ。
だから桜島相手には、出来れば先攻を取りたい。
(まあ、全ては明日の試合が終わってからだな)
八日目の第一試合が、白富東と明倫館の対決なのであった。
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