第181話 地元の球場で
本年の春季関東大会の開催地はどこであるか。
答えは、白富東の地元の千葉県である。
そしてセンバツは刷新と白富東がベスト4にまで残ったため、千葉県はベスト4まで残ったチームが全て関東大会に出場できる。
「帝都一も早大付属も負けてるじゃん」
「センバツ疲れとか?」
「俺ら勝ってるぞ」
「東京と千葉じゃレベルが違うんじゃね?」
「日奥第三と東名菅原だから、そんな番狂わせでもないか」
「また帝都一と練習試合すんのかな?」
「監督のつながりだと早大付属とも出来たりするんじゃね?」
北村は早稲谷大学の野球部のキャプテンをしていたため、そのつながりで実はけっこうな伝手やコネがある。
また10年も前から帝都大系列ともつながりがある。
春の大会が終われば、練習試合を組むことはあるだろう。
そしてその二校は、地方からの遠征する強豪との練習試合も組む。
そこに白富東がお邪魔するのも、よくあることなのだ。
ただそれは、関東大会が終わってからの話。
まずは目の前の大会をこなさなければいけない。
今年は高校生ピッチャー大豊作の年と言われ、その中には優也も入っている。
ただ小川は完全に、大学進学の予定らしいが。
気の早い話だが、北村は今年のドラフトのことを、もう考えている。
鉄也と話した限りでも、優也はドラフトの外れ一位まで、正志も二巡目までに消えるだろうと、予想の言質を取っている。
二人ともプロ志望であるため、それはどうこういうつもりはないのだが、プロの世界でやっていくことがどれだけ難しいか、大学からプロに進んだ選手を知っている北村は、つくづく感じている。
また大学からプロの指名がなく、社会人に進んだ選手も知っている。
ただ今は社会人野球は実業団チームが減っていて、ある意味プロにならなくても仕事のある社会人野球は、下手なプロの育成よりも人生で失敗する確率は低い。
ただ、優也と正志は高い順位で指名されて、そして本人たちも行くだろう。
それを止める権利も意思も、北村にはない。
だから出来るとしたら、プロで物になる確率を、少しでも上げてやることぐらいだ。
具体的には高校野球での実績をさらに上げて、より多くのチャンスを得られるようにしてやりたい。
(もっともあんまり前評判が高いと、プレッシャーで潰れることもあるらしいからな)
そのあたりのメンタルも、最後の夏にかけてケアしていかないといけないだろう。
この春の関東大会、19校が出場しているわけだが、白富東は四回勝てば優勝となる。
北村が口を酸っぱくして言ってあるのは、ちょっとでも体に違和感を感じたら、すぐに言うこと。
この大会は負けてしまっても、秋のようにセンバツの選考に関わるわけではない。
夏のシードを取ってしまっているのだから、あとはもう本当に、練習試合の代わりにでもするしかないのだ。
関東の強豪校が出ている以上、試合をする意味自体はある。
試合をすることに意味はあるが、勝つ必要はない。
もちろん勝つことによって、より経験は積みやすい。
だが無理をしてでも勝つ必要は、断じてないのだ。
よって一回戦、前橋実業との対戦に、先発に中臣を持ってきたりもする。
出来れば勝っておきたいというのも確かなので、ある程度は本気でやる。
ただし優也を先発に使って、何が何でも勝ちにいくという姿勢は見せない。
下級生たちに経験を積ませるのは、こういう時にしか出来ないからだ。
中臣も先日、フォークの使い分けには直史から言われていた。
空振りを取るべきなのか、それとも内野ゴロでいいのか。
白富東の守備力から、どちらを選択するべきか考える。
基本的にはセンターラインを、白富東は鍛えてある。
なので空振りは必要な時に、それ以外はゴロを打たせることを考えるべきだ。
またフォークについてはキャッチャーの問題もある。
潮には中臣のフォークはしっかり捕れるが、今の二年のキャッチャーはやや怪しい。
キャッチングの技術については、一年の中田を鍛えた方がいいのかもしれない。
ただ中田は中田で、色々と欠点も持っているが。
「監督、終わりましたよ」
「ん? 何が?」
「試合、勝ちましたけど」
「え」
確かにスコアは、10-2となっている。
七回コールドだが、勝利のマウンドに立っているのは浅井であった。
(あれ~、俺、いつ交代の指示出したっけ?)
スコアを見れば、中臣は五回で一失点で交代させている。
そして正志のツーランホームランが、コールド要件を満たしたわけだ。
浅井も二イニングを投げて、最初に一点を取られたが、この七回は無失点であった。
うむ、確かにちゃんと考えた継投になっている。
「監督、色々と独り言言ってましたよ?」
スコアをつける女子マネの繁原が、そんなことを言ってくる。
目の前の試合に集中しないのでは、監督としては示しがつかない。
(いかんな、次からは気をつけよう)
反省してももう遅い、などということにならないようにしてほしいものだ。
白富東の次の対戦相手は、東京代表の東名菅原。
東京都予選では、早大付属を破っている。
早大付属はセンバツに出ていたため、少し調子が狂っていたのかもしれない。
センバツに出場したチームが、春の県大会などでぽろっと負けてしまうのは、ないわけではないのだ。
同じくセンバツに出て、しかもベスト8にまで勝ち進んでいた、帝都一も準決勝で日奥第三に負けている。
東京都神奈川は、千葉に比べれば激戦区ではある。
そんな千葉も最近は、甲子園に出場して一回戦で負けることは、ほぼないのであるが。
(反対側から来るのは、やっぱり刷新かな?)
ベスト8のチームを見て、北村はそんなことを考える。
だが県大会のスコアを見てみると、刷新はどうも打線が上手く機能していないらしい。
小川の投げている時は、特に援護が少なくなっている。
あまりエースに頼りすぎると、エースが少し調子を崩しただけで、チームも負けてしまう。
それも背負ってこそのエースだとは、北村は思わない。
直史にしても、安全マージンを取って投げるピッチャーであった。
唯一どうにもならなかったのは、北村卒業後の二年の夏、大阪光陰相手に延長まで戦った試合だ。
あれはさすがに、途中で岩崎に交代したら、負けていたのだろうなとは思う。
ただそのために決勝に投げられなくなったわけだが。
どのみちあの試合は、春日山が勝っていたとも思うのだ。
短期間の間に終わらせる関東大会は、ほぼほぼ連戦となってくる。
そしてその中で北村は、一年の中山にも少し投げてもらう。
経験を積ませるのではなく、純粋にイニングを食ってもらいたい。
なのでちゃんと、リードした状況で投げるわけだが。
優也が投げて五点差のついたところで、中山を投入。
三回を投げて二点を取られたところで、もう一度優也をマウンドに戻す。
そして相手を封じて、5-2のスコアで勝利。
投げる球数は、少しでも少なくしなければいけない。
そして山の反対側では、刷新が負けていた。
小川以外のピッチャーを使わないとどうしようもないということは、球数的に分かっていたのだろう。
二年次のセンバツのことといい、刷新は本当に二番手ピッチャーに恵まれない。
最後の夏ぐらいは、小川も全力で投げたいだろうが。
準決勝の相手は、東名大相模原。
あちらの山から上がってくるのは、水戸学舎か横浜学一か。
総合的に見たら横浜学一なのだろうが、バランスは水戸学舎もいいチームだ。
(なんだかんだ言って、あと二回勝てば優勝か)
プロのスカウトもあちこちに見る中、春季関東大会は過ぎていくのであった。
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