第176話 ベンチをねらえ!

 20人のベンチメンバーから、誰を外して誰を入れるか。

 とりあえず北村は、スタメン九人を除く11人のチームと、新入部員によるチームで練習試合をする。

 最終的には29人まで新入部員は増えているが、この中から自信のある者だけを選ぶのだ。

 ただ中山と中田は、バッテリーなので必ず入れる。

 他にピッチャーで投げるつもりがある者がいれば別だが、さすがにベンチメンバーとは言え、全国制覇をした先輩に投げる度胸のある者はいないらしい。

 その意味では指名されたとは言え、逃げずに投げると決めた中山は、それだけで既にエースの道を歩み始めていると言えるだろう。


「俺ら六人でだいたい守備は埋まるとして、セカンドやってたやついないのか?」

 スポ薦組は綺麗にポジションごとに、分かれていたようである。

 ただセカンドがいないというのは、問題になることには違いない。

 内野の中でも圧倒的に肉体のパフォーマンスが必要なのはショートだが、一番判断などが多くなるのはセカンドだ。

「せやったら俺がやるわ」

 フリーで打っているとき、シュアなバッティングを見せていた高田が手を上げた。

 

 守備のノックでも、器用にキャッチをしていた。

 ただ身体能力が高いわけではなく、肩もそれほど強くはない。

 もっともセカンドというポジションは、連携が一番重要で、キャッチャーが見えていない時は、内野に指示を出すことも考えないといけない。

 じゃあ任せるか、と納得したスポ薦組は、当然のように自分がアピールすることしか考えていない。

 ただ北村としても、それでいいとは思っている。

 高校野球は短期決戦。

 少ない機会でどれだけの力を見せられるかが、選手としては大事なのだ。


 そんな北村は、上級生チームの作戦は選手たちに任せて、新入生チームに情報を提供する参謀として味方をしていたりする。

 先攻は新入生チーム。

 壮絶なじゃんけんの末に、打順は決定した。

「センバツを見ているなら知っていると思うが、浅井はとにかくカーブとの球速差が武器だ」

 サウスポーで、あの角度で入ってくるカーブ。

 あれが浅井の生命線であり、全国レベルで見ても、かなり珍しいボールである。


 遅い球であるため、打つことぐらいは出来る。

 だがそれが内野の頭を越える、しっかりとしたミートの打球にはなりにくい。

 またカーブにタイミングを合わせすぎると、130km/hも出ていない浅井のストレートでも、振り遅れることになる。

 上手くリードできれば、一年生なら封じられる。

 だがキャッチャーが潮でないと、どんなリードをするのやら。

 北村は浅井を戦力として計算しているだけに、下手に一年生に打たれても困るのである。




 試合は一年生チームが先攻で始まる。

 打席に入った先頭打者に対して、やはり浅井は最初からカーブを使ってきた。

 左バッター相手には、かなり打ちにくい斜めの軌道を持つカーブ。

 いきなり打ちにいかないだけ、先頭打者には見所がある。


 よくもまあ先頭打者に入ったな、とは北村も思うのだ。

 だがシニア出身なので、硬球自体には慣れている。

 あとは高校野球の変化球だが、左が浅井のカーブを打てるなら、それはかなり有望である。

 そう思っていたら、セカンドへのぼてぼてのゴロになったりしたが。


 先頭打者を志願したのはこれか、と思える俊足であったが、さすがにこれはセカンドが追いついてアウト。

 ただタイミング的に微妙であったので、やはり足には自信があったらしい。

 ショートの方向に転がれば、セーフに出来たかもしれない。

 ただ上級生は控えとはいえ、二遊間はかなりの守備力がある。

 もちろん打力があるにこしたことはないが、ここは守備力が重視される。


 上級生としても、切実であろう。

 守備的ポジションを下級生に取られるのは、屈辱と感じてもおかしくはない。

 そしてあれだけ入学時は細かった浅井も、体はまだまだ細いが、メンタルの方は図太くなってきた。

 むしろ甲子園のマウンドを経験したのだから、タフになっていないとおかしいとも言える。


 初回の一年生の攻撃は、三者凡退でスタート。

 そして一回の裏、一年生たちの守備を、北村は目に焼き付ける。




 アンダースローから投げるボールは、そこそこコントロールもある。

 そして変化球があるので、ボールの軌道を見極めにくい。

 意外と思ったのは、中田がそこそこストレートを要求しているらしいことだ。

 あの球速のストレートをと思うが、これが案外効果的である。


 アンダースローのストレートは、それだけで既に変化球だと言われる。

 実際に白富東も、センバツに当たったチームの中で、アンダースローの投手はいなかった。

 中学時代は控えのピッチャーだったと言うが、それでも試合に出るために、必死で工夫した結果だろう。

 パワーで押せるタイプではない。

 だが頭をしっかりと使っている。


 上級生は三振はしないが、凡打を築き上げる。

(これは一巡ぐらいなら、普通に使えるな)

 出来れば春の大会で、打たれてもいいからマウンドを経験させてやりたいものだ。

 そして中田のリードの方も、アンダースローの特徴を上手くつかんでいるように思える。

 アンダースローを捕る練習など、どこかで出来るものでもないだろうに。


 潮だったらどうリードするだろうか。

 そう思いつつも、序盤は投手戦になっている。

 浅井のボールが、とにかくカーブを中心に、ストレートで時々空振りも奪うのだ。

 控えではありながらも、緩急の使い方を分かっている。

 そちらはいいとして、中山の球を打てる上級生がなかなかいない。

 二巡目となればヒットぐらいは出るのだが、長打を打っていく上級生がいないのだ。


 これがスタメン組であれば、クリーンナップ以外でも、もっと長打を意識していただろう。

 国立が鍛えた打力であるが、やはりアンダースローを打つのは難しいということか。

 ただ二巡目まで点を取られていないので、これはこれで充分だろう。

「よし、ピッチャー交代。ここからは選手も入れ替えていくからな」

 二打席もやってもだめなら、そうそう打てるものでもない。

 北村はそう判断して、引っ込み思案の一年生たちも、出来るだけ試合に出して試していくのであった。

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