第3話 夏

 夏は海、山、川、花火。そして夏の大半は夏休みという学生の特権に占められているといっても過言ではない。6月のじめじめとした梅雨を乗り越え海開きからの夏休み、宿題なんて投げ捨てて遊びに駆け出すこともあったりなかったりする。


 はい、それではまず梅雨からとしよう。雨の匂いが漂ってきたら雨が降る。田植えを終えて少しずつ大きくなる稲田には水が満たされていく。その中にはたくさんの微生物からタニシにカエル。ゲコゲコと雨の中や夜闇の中で大合唱会が響いている。傘をさすと濡れるのを防いでくれるが、傘に落ちる雨粒の音、傘に沿って流れ落ちる水滴、傘越しに空を見上げて雨の世界を感じる。


 雨は面白い。


 道路の水溜りに飛び込んでびしょびしょに濡れて、傘の意味が無いくらい傘を壊して帰ったこともある。


 晴れた青空の下、カラカラともなる景色を雨雲がじめじめと太陽を隠し、光を閉ざした水の世界に変える。めぐみの雨、生き物になくてはならない生命の水が溢れる世界。水は生と死そのもの。流れていくことをやめない水はヒトと似ている。


 ヒトは考えるのをやめない。水は流れるのをやめない。


 湿気の多い日本で水は循環し続ける。


 梅雨が過ぎるか過ぎぬ間の頃、プール開きと海開きがある。暑い暑いと言っていてもいざ服を脱ぎ、水着に着替えてプール入る前の儀式のシャワーや前浴を通過しなければならないのでその時点で寒い寒い言っていたこともあった。まだ身体が慣れていないと準備体操していざプールへ、入っても水が冷たいなんてことプール開きはじめはよくあったし、気温が上がりだすと慣れて丁度いいとさながら海水浴と同じ感覚でプールで浮いてることがあった。だけど、ビート板持って25m泳いだりクロールに平泳ぎ、バタフライをしたり先生は泳げない子への指導を優先していたので泳げる子は適当に泳ぎ続けたなと、先生に怒られない範囲で自由時間と変わらない時間ではあったと思う。まあ次の授業や給食の時間調整で泳げる時間は通常の授業時間より短いだろうけど、あの頃は時間の感覚がなかったなと思う。プールの最後の時間、たまにお宝探しというゲームもあった。カラフルなカケラがプールに投げ入れられ、それを潜って取る。何個だって取れるわけではないから競争というよりは潜るのを楽しむためだった。そして、先生の「はいはい、もう出てね」の声が聞こえてくると、プールからしぶしぶ上がった。塩素を落とすために目を洗う専用の蛇口を捻る。大抵勢いが強すぎてまともに目が洗えてないし、男子はよく遊んでた。着替えるのは本当に面倒だった。


 そしてついに夏休み。最近はエアコンが付いたからと夏休み期間が短くなったと聞いたが、この灼熱の中でエアコンがあったからと言ってやっていけるものなのか。夏休みが休みが長く計画的に個人の自主性に任せて自由研究や宿題、遊びをやっていく期間だと今は思う。学校での授業が悪いというわけではないが、夏休みには夢があると思っているのでエアコンが理由で短くなるのは納得がいかない。子供は新しいことをどんどん吸収していく、だが大人は日々に追われて新しいことを吸収しにくくなっている。大人は子供に比べてアップデートしにくい。学童とか開いていても午前授業で給食なしなら、丸一日休みでもよしである。上は現場の人間や保護者に時代適応な配慮がないから要らぬことが起きる。つまりは夏休みが減って遊ぶ時間が減るのは納得がいかないという話である。


 夏休み直前に荷物を抱え込んで帰る羽目になっている子がクラスに一人はいた記憶。計画なんてものないから今日は遊びに行きたいから明日にしよう、明後日にしよう、明明後日にしようと思えていれば終業式当日大量の荷物。しかも低学年だとアサガオを育てているためアサガオの鉢を持って帰らないといけないのでこれは重い。


 はい、お休みが一ヶ月も続けば連日遊び回れるなんてあの体力のある年頃なら問題なくいけるだろう。眠気まなこを擦りつつ、夏休み恒例のラジオ体操に向かい、終わって二度寝をしたり、カブトムシやクワガタを捕まえに山や森に行ったり、涼みに市民プール、池や川に魚釣りに行く合間、素麺を食べにお昼は帰ってくる。室内でゲームをすることもあったが、でもいつのまにか真っ黒焦げに焼けて登校日をむかえる。宿題なんて持たずに手ぶら登校、8月31日に必死に終わらすか、気にもしてないかの二択である。


 でも夏休みの宿題を夏休みが始まる前に終わらせてる子もいた。実習時間とか普通の授業時間の教科書問題や先生の説明中とかの合間にさささーっと終わらせたり下校時間からは自由の身なので宿題に縛られたくないということで学校にいる間に終わらせるのが始まる前に終わらせる子のやり方の一つである。自由研究はテーマを決めてもうやったなんて子が一人はいたが、大体後回しになる。日記は計画立てたまめさがあるのなら毎日付けられるが、そんな精神が本当にあればこの先の計画は継続性として問題ないだろうけど実際まとめて処理してた。


 塾に通ったり図書館に通ったり勉学に励むより夏休みを遊びに染められるのは悪いことではない。何をするにもこの夏を全力で起きている限りの時間を使い果たそうという気持ちで、明けてほしくない休みと張り合っていた夏の一コマである。


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