第5話『恵紫(エム)』
お腹がすいていた。ジャワカレーは半分しか食べていない。このことに危機感を持っていた。お腹がすくということは今後も食べていかなければならない。あの世だろうが異空間だろうがなんとかして食べていかなければならない。
玄関を出て表の通りを眺めた。車や人の往来が少ないなと違和感を感じたが人はいるからレストランは成り立つだろうと思った。私は子供がいないのに急に6人の扶養家族ができたような気がしてアルバイトというお気楽気分は吹き飛んでしまった。
そうこうしているうちにキャプテンが自転車を立ちこぎして帰ってきた。「おかえり。どうやった?」「街並みに大きな違いはありませんでした。バス停にはセイコーの谷と書いてありました。それと一番ヘンテコだなと思ったのが刀を腰に付けていることです。男も女も変わりなく……」「わかった。ありがとう。また聞くよ」「刀を腰にね。なんだろう……武士の時代に来たのか?それとも物騒なのかな?何か刀の商売の方がいいのかな……」まだわからないことばかりであった。
レジ内に30万円入っている。使えるかはまだわからない。
日野さん、マッキー、エム、だいたい終わりましたか?
「はい、はい、はい」お、珍しい、エムがちゃんと返事してる。この子は覚えがあまりよくなかった。といって笑顔がかわいい他の子とも違っていた。しかし、まじめさだけは一番だった。私が最も信用している子だ。聞いた話だかスポーツで有名な大学でテニスをやっておりエムより上手い選手はいないとのことだった。他の子がブランドの服で身を包むなか、エムはスポーツウェアで出勤していた。年頃なんで普通におしゃれしてほしいなとも思ったが自転車だし、この子ならいつでもきれいになれる、大丈夫だと信頼していた。
「日野さん、この生活がいつまで続くのかわかりません。野郎どもはなんとかなりますが年頃の女の子を店で生活させるわけにはいきません。部屋を借りて下さい。用心のためキャプテンの車に3人同乗してください」
4人を送り出した。すると植木の剪定をしているハゲのお客様に気づいた。「ありがとうございます。伸びてますよね!」「いや、自分でもわからんとです。普通とは変わってしまったのはわかりますばってん帰って家がなければどうするかと・・・なんでもしますから置いてもらえんやろうかち思うて」「……呉越同舟。こちらこそお願いします。バタバタしててお名前を聞くのが遅れて失礼しました」「いえ、松田いいます。50歳になります」「昭和46年生まれですか?」「45年です」「同級生ですね」「あ~そがんですか。ハゲてるもんで上にみられますもんね」「まあまあ、無理なさらないようにしてください」「ありがとうございます」
まあ、想定内だった。どういうお仕事されているかは知らないけれど、50歳でアルバイトの私より幾分ましだろうと前向きに捉えた。剪定の腕前は私の方が上だったが、しばらく様子を見ることにした。
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