16話
※今回は説明回+です。
※ ※ ※
ふ~…と安堵の吐息を吐く。
僕達は今、陽平父さんの仕事場である保健室にいる。
突如ヒートを起こして昏倒した一戸さんは緊急用抑制剤を投与した後、眠ったままなので保健室の隣に設置してある隔離室に寝かせている。
何でもこの学校、オメガ用の緊急避難所である隔離室…突然ヒート等が起こったさいに逃げ込む場所として、各階に一つは設置されているらしい。
1階は保健室の横で、部屋の中は二重の扉で厳重に中から鍵がかかっている状態に設定出来るらしい。現在使用者の一戸さんが眠ったままなので外側から鍵を掛けている状態だけど、中は結構快適な状態に保てるようになっている…とか何とか説明がつい先程陽平父さんからあった。
それと同時に、学校内では「父さん」と呼ぶのは禁止だと注意された。
実は今朝学校内では『先生』と呼ぶように言われていたのだけど、ついウッカリ忘れて『陽平父さん』と言ってしまったら叱られた。更には拳骨も食らった。
うう、ゴメンナサイ。
陽平父さんと一緒に来た先生達三名が驚いた顔をして、僕と陽平父さんの顔を見比べられてしまったよ。別に悪いことでは無いけど、何となく居辛かったから陽平父さんはもっと居心地が悪かったかも知れない。同じ職場の人間だしね。
後義理だから似ていないよ。
「そう言えば目元が何となく…。」なんてお世辞はいらないよ。
僕等は義理の親子だ。出来たら本物の親子が良いけど…ね。
でも、何となく僕中学の時よりちょっと似て来ている気がするような。これってアレかな?一緒に住むと何となく似て来るって言うやつ。ペットとかってそうだって言うし。
ペット云々は兎も角、本当かどうかは知らないけどもしそうならば嬉しいな。
さて、今回の一件で午後は臨時休校になった。
因みに学校は明後日まで臨時休校。
原因は今回の事件。
何でもこの学園入学した、とある有名人…えーと多分前に一戸さんが言っていた芸能人さんかな?のストーカーさんが、学園前で騒ぎを起こしたから。
しかも先日僕達が偶々見掛けた撮影現場で問題を起こし、逮捕(薬物によるヒートを起こして芸能人等に突入した。)。だけど、その後警察官達の目を盗んで逃走。
直後この学園前まで来たのは良いが、この学園ぶっちゃけると警備がかなり厳しい。更に言うと部外者は余程のことが無い限り入り込むことが出来ないため、学園前で目的の芸能人さんが来るまで張り込んでいたが、追って来た警官達に見付かり一悶着。
そこで逃走犯が手に持っていた、違法薬剤…
オメガのヒートを起こす薬をその場で噴射。
結果、水薬のような薬だったらしく現場は霧状に散布され視界が真っ白に塗り潰され、その場や近場にいた学生や警官、一般人等に掛かりオメガは漏れなくほぼヒートに陥り現場は大混乱。
その間にストーカーは逃走したが自身もオメガだった、更には度重なる薬物による強制的なヒートを連続して起こしたために逃走途中で昏倒。現場である学園から途中にある道端であえなく御用となった。
陽平父さん達この学園の先生達が何名か保健室に居て説明を受けている最中、一戸さんのお兄さんである京夏さんと落合先輩達αは隣室で同じ説明を受けている。
現在この保健室には番が居るα以外は全員Ωと学校の先生であるβしか居ない。
更には今回この学院の被害者生徒や関わった生徒達の保護者も同じ隣室で説明を受けている。
…つまり、Ωで今回の直接ではないが被害を受けたとされる僕は一人保健室で説明を受けているというワケです、はい。
他の一番の被害者であるオメガ達…ええと、一戸さん以外にももう一人学園の生徒がヒートを起こし、現在学園の外にある隔離室で抑制剤を摂取して避難している、とのこと。
その人が少々特殊な事情で、両親が居なくて身内とは絶縁状態で連絡が付かない。そのため、代わりにと代理の人が来たのだけど直接の保護者では無いから学園側ではちょっと戸惑って居る、とのこと。
何でもΩの学生のバイトの雇い主、だそうでー…
うーん、何となくだけどその雇い主さんって不破さんだったりして。
心当たりがある人が未明さんしか居ないのだけど、まさか、ねぇ。
だとしたらこの保健室には入って来られない、よね?不破さんαだし、父さん達と同じ世代だけど番が居ないみたいだし。
それと今回唯一Ωだけどヒートを起こさなかった僕は説明を受ける前、時間差でヒートを起こしたら不味いからと抑制剤を先程飲んでみたけど、今の所何とも無い。
匂いとか漂って来なかったか?と聞かれたけど、そう言えば微かに甘いようなそうでないような、クドいような変な匂いがしたかな~?とは思ったけど、僕自身は体調も何も変化は無い。
もしかしてヒート終わったばかりだから平気なのかな?と思って聞いてみたけど、首を傾げられるだけとなった。
何か、引っかかるなぁ…。
「優樹、何とも無いか?」
「特に何とも無いよ。」
陽平父さんがペタペタと僕の額に手を触れてから「一応計っておくな。」と断りを入れ、体温計と病院でよく見るオメガ用測定器(オメガのヒート測定器。5段階で測定出来る。)で計測する。
「数値は1だな。変化はなし、と。」
手元に置いてある書類に何かを書いてから首を傾げている。いや、ナニソレ。どういうこと?
じ…と陽平父さんを見詰めていると、「あ~なんつーか、なぁ。」と困ったような顔をして髪の毛を掻き出す。
「普通、あの薬品…えーと今回の噴出した違法薬物だけど、普通オメガが摂取するとヒートを起こす。しかも必ず、だ。それが優樹の場合はヒートが起こらず、数値が正常なまま。」
「抑制剤を飲んだから何とも無いとかじゃないの?」
抑制剤を摂取したら一戸さんも落ち着いて安静にして眠っているし、それに僕はバース検査でオメガと判明している。どう考えてもつい先日までヒートで部屋に引きこもっていたのに、急にβになるわけはないし、Ωやαが急にβになる等と言うことは聞いたことがない。
…無いよね?
無いと他の先生達が宣言する最中、「うーん」と呟く陽平父さん。
「ううむ…個人差って奴かもな。」
「だよね。」
それに風の向きとかで僕には薬品が届かなかったと言う可能性もあると思うよ?と言うと、何だか妙に室内の先生達が納得をした。
何で?と不思議に思っていると、トントンとノック音が響く。
「隣の説明が終わったかな、優樹、阿須那が来てい…」
陽平父さんの声が途中で遮られた形となった。
何だか「ダヨネ―。」と陽平父さんの声があがり、次いで「お?」とか、言う声が上がっている。
それに対し、僕は現在阿須那父さんに拘束中。
「優樹!優樹!無事だったか!?父さん、心配して…っ!!」
ぎゅううううーーーーと抱きしめられているのは良いのだけど、阿須那父さん相変わらずだよな。心配性と言うか、何と言うか。僕に対しての態度が過敏。
チラリと隙間から陽平父さんを覗くと、溜息を吐いている。
どうでも良いけど、他の先生達「ん?父さんってことはどっちが。」「あ、それ気になる。」「ちょっと今それどころじゃない。」って台詞が聞こえてきたけど、先生達呑気だね。あと「スゲェ美人」「マジか、別嬪さんじゃないか。一戸先生ウラヤマ。」「ひゃ~」とかって声も。
これは阿須那父さんの後から来た人達…え。
ドクンッ
「優樹?」
びくんっと、その場で身体が揺れる。
直後硬直し、今室内に入って来た同世代と思わしき男性に視線が奪われる。
―凄い、ナニこの人。
綺麗。何がって全身が。
αって皆こうなの?でもこの学園の他のαもっと違う感じがするのだけど、この人は目が惹き付けられて離れられない。
ヤバい、何、なんで。僕の心臓がもたない、よ……。
「優樹!?」
目が離れない。
嗚呼、前髪がちょっと長い気がする。ふと彼の目線が僕に止まって、視線が交わる。
あああ、なに。
なに、これ。
言語がおかしくなる。
まともな言葉が口から出て来ない。
ぱくぱくと餌を求めて口を動かす鯉のように、無意味に口が開く。
視界がグラグラし始めたなぁと思ったら、彼の目がフワリと和らいで。
彼の唇から囁くような、僕の耳には音声として聞き取れない声が紡ぐ。
[会えた]。
その三文字が僕の脳を、目を、身体を、本能を刺激して彼のみの姿を追う。
まるで取り憑かれたかのように、この身体を支配されてしまうような、そんな気配…
「駄目。」
途端、僕の視界は振って来た誰かの手で目を閉じらされ、遮られる。
「優樹は俺の子。今は、まだ駄目。」
許さない。
声が微かに聞こえて来た気がして、そして彼は僕の視界から遮断された。
※※※
阿須那の精神が弱めと言う設定があったり、無かったり
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。