15話
「これって、不味いこと起きいてる!?」
「そう!誰かが故意にオメガに薬物でヒートを起こさせてる!」
「え!?」
「だから先輩が私達Ωを遠ざけたのっ!」
もし、ヒートを起こさせた相手が生徒ならば不味い。それでなくても犯罪行為だよ!と、一戸さんは喋った途端、その場で「ひぅ…!」と悲鳴のような声を出して倒れ込んだ。
「一戸さん!?」
「ぐぅうう」と低く唸る声を出し、一戸さんの顔が徐々に薄っすらと赤らみ耳まで真っ赤に染まり、息苦しそうに上がって来る。しかもその息が熱っぽく、この症状は不味い。
非常に不味い。
地面にうつ伏せのまま大地に爪を立てて引っ掻き回し、Ωがヒート時に発する濃厚な香りが周囲に濃厚に漂う。ヒートのために身体が疼くのだろう、爪を立てて知性と本能との狭間を抗い熱い吐息を吐き出す。
この症状を何度も味わったことがある僕からしてみれば、嫌と言う程わかる。
何で。
何でΩって言うだけで他の人と違うの。
己の過去を浮かべる思考を否定するように頭をふり、暗くなる思考をクリアにする。
今はそんな過去を思い出すべきでは無い。過去は過去で、今は違う。
咄嗟に周囲を見渡して見ると、数名此方を遠目から伺っているαと思わしき生徒達が…っ!
「悪いけどαの人は来ないでくれ!」
僕が慌てて声を大にして叫ぶと、此方の状態に気が付いたらしいαの生徒達が咄嗟に自身に抑制剤を投与し、距離を置いてくれる。その状態で「その人用に抑制剤はある?」と聞いてくれて、別のαらしき人が紙袋に入った抑制剤らしき物を投げて寄越してくれた。
紙を見ると『オメガ用即効性抑制剤』と記載されている。
「有難う!」
とその人に向かって言うと、此方を見ながら「先生呼んでくる!君はその子に投与したら少し様子を見てから隔離室に!」と駆け出して行く。
隔離室って何?初めて聞いたよ!シェルターのこと!?
海外の竜巻や自然災害が多い所では家の地下にシェルターを作ってあるとTVで入っていたのを見たことがある。水害とかの場合もあるからそれはそれで対応が違うとアナウンサーが言っていたけど、要は避難所ってこと!?
僕今日がヒート開けの初登校日だから、各教室の場所とか諸々わかって居ないのだけどーッ!
自分の教室とトイレと玄関ぐらいしか知らないよー!この場所だって今日初めて教えて貰ったのに、どうすれば…!
グルグルと考えながらもさっさと一戸さんに薬を投与し、呼吸が安定し始めてきたのを確認。良かった、ヒート独特の匂い…一戸さんの匂いはちょっと橘のような、生花というよりお風呂に入れる香料のような匂いがする。
宝塚風の一戸さんにはお風呂の入浴剤のような香りって僕的にはツボってる。
何か完璧で何でも出来るような見た目なのに、何処かホッとするような彼女に似合う気がする。きっと番相手となる人も何処か安堵出来るようなタイプだといいな。
なんてことを考えつつ未だ目を覚まさない彼女の状態を見詰め、地面に伏せたままだと身体が冷えてしまうとちょっと…うん、ゴメン僕非力。多少土よりも少し移動した先の芝生の上の方がいいよね?この周辺って木々とかあって日を遮ってくれるのは良いのだけど、正直冷えるし。女の子の一戸さんにはきっと辛い筈。
ごめんねと一言謝って、両手を一戸さんの脇の下に入れて上半身のみを持ち上げ、一戸さんの靴を引き摺りながら芝生にまで移動。脚を上げさせるのは流石に女性に対して出来ないし、何よりその、ごめん。ホントゴメン、重…っ。
理想はお姫様抱っこが出来る男子だけど、僕には無理ですのでご了承下さい。明日から少しは筋肉が増えるように努力してみるから、だから今はゴメンね!
すると落合先輩達が走っていった方向から奇妙な絶叫が聞こえて来る。
「ちょ、コイツヤバい」とか言う声も聞こえている状態で、僕はパニックになりそうになる。落ち着け、落ち着け。今ここで慌てて焦っていても仕方がない。こういう時は…あ、そうだスマホ。
あった!隔離室!
スマホで学園のHPにアクセスして地図を見ると、この場所から比較的近場にあった!
後は僕の力と体力。え、どうしよう。僕芝生まで一戸さん引き摺ったのだけど、隔離室まで移動出来るのだろうか。途中で体力尽き果てそう……。
周囲を見渡すと心配そうに此方を見ている人、この人は多分α。
先程まで居た後の数人は加勢に行ったのか、先輩達の方に走っていった。
一戸さんはどうやら容態が安定したらしく、先程の赤らんだ頬は今はほんのりと色付いているだけで息も通常に戻っている。更にはΩのフェロモンも安定して来たらしく、先程の濃度の高い匂いから極々少量に収まっている。
これなら移動しても良いだろう。
よし、僕も男だ。
やってやるうううううぅぅ~~~~!
先程と同じく一戸さんの脇の下に僕の手を入れて、「ゴメンね一戸さん。」と謝ってから彼女を抱き、だ…あーーーむりーーーー。本当は抱き上げようとしたけど、ゴメン先程同様引き摺るしか出来ないよぅぅ!
でもやらなきゃ!男が廃るってもんだー!
ウンウン唸りながら何とか一戸さんを抱え移動しようとした時、
「優樹!」
「陽平父さんー!」
先程先生を呼んでくると言って走っていったαの男子生徒が、三人の先生達を連れて此方に向かって走って来てくれた!
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