14話

 

「宿敵が来ました。その名も宿題です。」


「同感。確かに宿敵だ。」



 うわぁぃと一戸さんと二人同時に溜息を吐く。

 ちなみに二名とは、当然同じ学園の一年生でオメガが男女一人ずつ、つまり二名しか居ないからと言う理由で同じクラスになった一戸杏花音ちゃんと倉敷優樹、つまり僕。


 なお、隣のクラスの特別進学クラスや二組にもΩは居ないらしい。しかも一戸さんの曰く、お隣の二組はほぼ男子校状態で女子が居ないとか。うわー…それって憩いがいないってことだよね。

 僕、二組はちょっと遠慮したい。

 中学でΩだって判明してから気が付いたら周囲に女の子ばかりいたから(ほぼβだけど。)、男の子ばかりのクラスだとどう話しかけたら良いかわからなくなっちゃう。ついさっきだって席から近いαの男の子が僕に「プラモデル」の話をして来たけど、さっぱり会話がわからなかった。

 うう、何だかゴメンよぅ。

 僕に気を使ってくれて色々トークを頑張ってくれたみたいだけど、僕男の子っぽい会話がちょっと成立し難いみたいでほんと、申し訳無い。代わりに別の子がお花やら植物やらの話を僕に振ってきて、思いっきり食い付いたら「俺、頑張る!」って言われたけど何を頑張るのだろう。あとクラスメートの男子達が「そっか、草食系男子か。」って言っていたけど、何故皆顔が緩んだのだろう。

「ほっこりする。」って言われたけど、良くわからないなぁ。



「すっごいね、この宿題の数。」


「優樹君大丈夫?今日初の授業なのに、わかる?」


「あはは、は、うん。100%無理。」



 ダヨネーという声に項垂れる。

 無理だよ、だって僕他のどの一年生よりも授業内容遅れているのに。

 唯一幸いなのはこの宿題の期限が一週間後なこと。これって僕用に合わせてくれたってことなのかな?それならもっと宿題の量を減らして頂けないでしょうかってお願いしたら、先生から「頑張れ。」と言う死刑宣告を頂きました。

 ううう、無謀だよ、せんせーぃ…。


 鬼先生って呟いたら、「放課後先生と居残るか?何ならウチの美人な奥さんと共に仕事するから、横で宿題確り見てやれるぞ?」と。何でもこの先生新婚さんだそうで、俺の惚気を聞け~と…。

 やめて下さいそういう事は。と言うか僕の周囲新婚さんが多くてウンザリしそう。

 家に帰っても何処と無く居辛いこともあるし、気が付かないようにしているけど父さん達時折朝から肌ツヤ良い時があるから、そういう時はまぁ、その、ね。


 気配でわかります。


 阿須那父さんなんて何だか潤んだ目で時折陽平父さんを眺めているし、陽平父さんなんて朝から鼻歌歌いそうな程上機嫌だし。


 こういう時って中学の男子同級生達ではないけど、「爆発しろ」って言うのかな。

 父さん達が爆発するのは困るから、先生爆発しないかな。

 因みにこの先生の奥様はこの学園にいる数学の男性先生(Ω)。名前は田中各務(かがみ)先生。先程見た時かなりの美人さんで、僕より一週間前から姿を見ている癖にクラスのα達の様子が多少キョドっていた。

 美人って言うだけで教室内がザワザワしていないかって?

 僕の後ろの席の男性α曰く、「肌が何時もより数倍シットリしている。」って。しかも「威嚇とか牽制しているのか、αの匂いが凄い…」って。


 先生、田中道和『鬼』先生。

 一体自分の生徒達に対して何をしているのですか…。


 そういうワケでクラスのα達はその後ちょっと萎縮してしまっていて、授業中静寂に包まれていて不思議だった。なお、僕達『Ω』な一戸さんと僕は何とも無かったのは、恐らくα限定にしているからなのかな?鬼先生器用だね。



「陽平先生から指導して貰って無かったの?」


「流石にヒート中は無理だよ。会うことも制限していたし、部屋に鍵掛けて『溺死』状態だったし。」



 もしくはゾンビと答えたら、何故か一戸さんは過剰に反応。

 どうやらゾンビ系映画やオカルト映画等が大好きらしい。ううん、見た目宝塚男装女子のキメッキメ美麗スタイルなのに、中身はオカルト愛好家ゾンビ大好き乙女。

 中々の強者よぅ、今度一緒にゾンビ映画見に行こう等と約束しつつ、家から持って来た陽平父さんお手製のお弁当を…あ~えーと、何処で食べよう。



「よし、優樹君は『私』が護衛しよう。」



 等と言って一戸さんはズンズンと僕の手を引っ張って校舎を出て学園の中庭から更に奥へ。

 途中から落合先輩が途中参加し、「僕は牽制役しとくね。」と明るく微笑みながら同じく途中で付いて来た一戸さんのお兄さんをガン見。



「俺を牽制してどうする。」



 一戸さんのお兄さんが文句を言っていたけど、お兄さんの後ろから何人か此方の様子を見ているから僕は文句は言いません。と言うか、落合先輩が居ないと休み時間毎に訪問して来ていたαさん達のお相手をしなくてはならない気がするから、かえってありがたい。


 そんなワケでちゃっかりと一戸さん手引きのもと、無事場所確保ー!

 場所は学園の中庭の更に奥。

 ベンチとか何故かテーブルまであるけど、此処ってちょっと木陰になっていて人目に付きにくいみたいで、さっきまでの生徒達のざわめきが嘘のように静か。

 その場所にイソイソと落合先輩が手にしていた袋からテーブルとベンチにシートを敷いて、僕と一戸さんを手招いてセッティングしてくれた。


 至れり尽くせりとは正にこのこと。

 落合先輩ってモテるのだろうなぁ。だからこんなにスマートにやれるのかな。

 僕ならこんな風にさり気なくセッティングなんて無理。絶対にもたつくし、発想も無いよ。


 ちなみに一戸さんのお兄さん…うーん一戸お兄さんでいいか。一戸お兄さんはチャッカリと落合先輩にパシられ、飲み物を購入すべく走らされております。

 先輩、中々辛辣です。

 此処に来るまでにあった学園のカフェで、人数分のポットいっぱいのお茶を取りに行かせられていた。



「先輩有難う御座います。」


「んー良いっていいって。」


「落合先輩、助かります。」


「いやいや、一戸さん達Ωは冷えがきついからね。こういう時レジャーシートとかあると結構便利だよね。」



 春だからまだ冷えるしね、と微笑む落合先輩は急に僕達から視線を外して訝しんだ顔付きになる。そしてとある一角を睨み、



「京夏!」


「はい!」



 僕等がいる場所から少し離れた所に一戸お兄さんが手にポットと御盆を手に持っていたが、先輩の声に察したらしく慌てて此方に向かって走って来る。



「倉敷くんと一戸さんは誰か先生達を呼んで来て!京夏!お前はこっちに!」


「了解!」



 一戸お兄さんは一度此方のテーブルに先程持って来たポット類を置いてからダッシュで先輩の方に向かって行く。



「優樹ちゃん!」


「う、うん!」



 僕はその時何故先輩達が走って行ったのか理由はわかっていなかった。

 でも、一戸さんが大慌てで校舎へ向かう最中、焦った顔をして僕の左手を確りと握っていて。その手が酷く汗ばんでいて。



「これって、不味いこと起きている!?」


「そう!誰かが故意にオメガに薬物でヒートを起こさせている!!」


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