7話

 

「ハンカチ、ティッシュに保険証、それからお薬手帳に『オメガ連携手帳』に…。」



 利き手の指を一本一本立て、その度にハンカチ、ティッシュ等と言っているのは陽平父さんだ。

 そして保険証は兎も角『オメガ連携手帳』とは、手帳を持っているΩが普段このお薬を使用しているよって言うのと、何処の病院に通院しているかとか、食物アレルギーや薬にアレルギーがあるかどうか等細かい事柄が書かれている手帳だ。これはオメガなら国民全員が所持するように決められている。人によっては手帳では無くカードだったりするらしいけど、僕は病院で渡された手帳を使用している。学校で渡されている学生証にも同じようなのが記載されているから、手帳で十分だと通院しているオメガの看護師さんに勧められたから。



「陽平父さん、全部持ったから大丈夫。」


「財布は俺が持っているから心配するな、陽平。」


「ううう、俺も行きたかった…。」



 ぐんにゃりと力なく項垂れているのは陽平父さん。



「何言っているんだ、陽平は学校があるだろう?保険医の先生。」



 その陽平父さんの肩にポンポンと手を掛けているのが阿須那父さん。



「ぐぉぉぉ、だって、だって!」



 何だ何だ落ち着けと阿須那父さんが陽平父さんの背を「どうどう」と、落ち着かせるように軽くポンポンと叩く。



「昨晩のせいで阿須那の色気がド派手に出てるぅ~!」


「アホか。」



 ポカンと音が鳴る程に阿須那父さんは陽平父さんの頭を叩き、「息子の前で昨晩とか言うなアホ。ほら、車のキー寄越せ。」といまだギャーギャー言っている陽平父さんから奪い取る。


 つまり、昨晩ってそー言うこと、かな。


 よく見ると陽平父さんも阿須那父さんも肌ツヤツヤだし、陽平父さんなんてそのせいか何なのか、朝僕が起きて来た時からやたらと阿須那父さんの腰に引っ付いていたり、離れていたと思ったら何かしら接触していたりしてボディータッチが豊富。

 子供の目線から見てもちょーっと恥ずかしくなるぞーって思う度に阿須那父さんの鉄拳制裁が炸裂するから、今朝だけで既に陽平父さんは7発程拳骨を食らっている。



「優樹、このアホ学校に突っ込んでから病院行くぞ。」



 と、本日8回目の陽平父さんに蹴りを入れてスタスタと玄関から外へ出て行く。



「ヤバい、阿須那格好良い。滅茶苦茶男前。益々惚れる…。」



 等と若干恍惚としてデレデレしている陽平父さんの姿を見て、どうしよう陽平父さんのドM度合いが上がっているしと呆れた。











「今日の昼飯は陽平特製、『野菜いっぱい愛情もいっぱいのスペシャルサンドイッチ』が冷蔵庫に入っているから、二人共それ食っとけ。あと優樹は鍋にクラムチャウダーが入っているから、冷蔵庫のサンドイッチが食えそうに無かったらそれだけでも食っとけよ。」


「はーい。」


「阿須那は文句言わずに食うこと。あと水分ちゃんと取れよ?」


「…。」


「昨日言ったよな?肌も唇も湿り気が…」


「ちょ、バカこの!」



 何だか此処で言うな!とか、良いじゃん誰もわかんねーよとか。

 これって夫婦、えーと夫夫の惚気?顔を真っ赤にして阿須那父さんが文句を言っているけど、陽平父さんはニヤニヤしっぱなし。仲良し夫夫ってことなのだろうけど、二人共僕が居るってこと忘れていやしないだろうか?


 いや、良いのだけどね?


 でも此処学校の校門横の駐車場で、助手席のドア半開きにしていて会話が外に聞こえているためか他の生徒や先生達に結構注目されてるけど大丈夫なの?

 門の所にいる先生らしき人が此方を凝視して来るけど、大丈夫陽平父さん。



「わかったわかった、ちゃんと水分取るから。」


「…冷蔵庫に特製のスムージー入っているから、それ最低限飲んで。」


「了解。」


「陽平父さん、僕のもある?」


「優樹のぶんは蜂蜜入りでちゃんとあるから、そっちな。」


「やった!」


「ちなみに、阿須那のぶんは苦手なキウイフルーツ入り。」


「げ。」


「アレルギーじゃあるまいし、苦手克服しなさい。」


「…了解。」



 渋々といった感じで頷く阿須那父さん。その姿を見て満足そうな陽平父さん。

 何だか「これで阿須那の美容は完璧!」とか思っていそう。阿須那父さん頑張れ~。陽平父さんの愛はちょっと重いけど、体調にはとっても良いよ。僕もヒート後の体調、陽平父さんが来る前と後では全く違って良くなったしね。


 おこぼれ有難いです。



「それと、今日は学校帰りに杏花音が寄るって言っていたから少し遠回りして買い物してから帰る。色々食材買わねーと。多分夕飯食ってくだろうし。」


「ん、何なら買っておこうか?…プリンは別な。」


「おう。卵と牛乳と塩を頼む。近所のスーパーで今日特売日なんだよな。」



 じゃーな、と。

 鞄と阿須那父さんから渡された弁当を確り持って陽平父さんは助手席から降り…あ。

 ちゅっとリップ音をさせて阿須那父さんの唇を奪い、同時に陽平父さんの頭が叩かれてもニコニコしながら元気に去って行った。



「…ったく。」



 チラリと後部座席にいる僕を阿須那父さんが見たような気がするけど、僕は見ていませんよ?もしくは動じて居ませんよ?という風に装う。

 陽平父さん、どうせなら僕が見ていない時にして欲しいよねぇ。どうするのこの妙な間。

 阿須那父さん完全に照れているよ。



「優樹。」


「あ、はい。」


「いや、その。…何でも無い。」



 ゲホっと咳をして誤魔化しているけど、阿須那父さん後部座席に居る僕から真っ赤に染まっている耳が丸見えです。とは、言わないけど。

 僕も早く好きな人が出来ないかな、出来たら優しい人が良いな。


 ソレ以前に未だ登校して居ないのでソレ何処では無い、とっても残念状態。


 ふと、レモンの匂いがしないかなって思って車内から周囲を窺ったけれど、車内に付けている消臭芳香剤のせいであまり匂いを感じなかった。

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