第18話 女騎士、裸とくれば、お決まりパターン!
「ひっ、あーっ!」
女騎士は突然、凄く可愛らしい声を上げて胸を押さえてしゃがみこんだ。今頃になって自分の姿に気が付いたらしいが、その赤くなった表情がたまらなく良い。
「み、見たわね!」
女騎士が顔を赤くして俺をにらむ。
しまった、思わず頬を冷や汗が伝う。
「見た、余すところなく上から下まで全部見せてもらったぞ。まさか、裸を見た男と結婚するのが義務だとか、ありがちな定番セリフを言ったりしないよな?」
女騎士の戸惑いと
もしも、本当に……?
いやいや、まさか。
いくらなんでも安直な、もはや化石化したこんな場合のお決まりのパターンってことはないだろう。
と思いつつ、それでも裸を見られた女騎士という鉄板シチュエーションから繰り出される定番のセリフが脳裏をよぎる。
なにしろ勇者ルートを疑うことなく突き進んできた俺だ。お決まりコースでいきなりドツボにはまるのは不本意ながら得意中の得意なのだ。
「それが、そのとおりなのよ! 貴方はたった今、将来、私と結婚する責任が生じたのよ! わかってる? これはとっーーても大切なことなのよ!」
女騎士は顔を真っ赤にして叫んだ。
「ぎゃあーー、マジですか!」
俺は頭を抱えた。
こいつとの出会いのストーリーを考えた、そこの運命の神! お前、寝不足か? 頭が悪いとしか思えんぞ!
いや、正直、とてつもない美人だし。
かなりかわいいし。
スタイルも抜群で、特にその安産型の腰つきがたまらないし。
魅力度で言ったら、ユキの次くらいだ。
こんな美人と結婚してハーレムに加えたら……、妄想するとむらむら全開になってくるのだが……。
待て。
だが、そいつが手にした剣は妙に怖い色を放っているし、しかも、いきなり剣で襲い掛かって来るような奴だ。
考え直せ! 俺!
「ははははは……何を愚かなことを!」
必殺、開き直り発動!
「では貴方は、結婚かさもなくば……、と言う方を選ぶのね?」
「え?」
キランと剣が妖しく光った。
立ち上がった女騎士は妙に腰が引けているが、真正面からだと剣の柄でちょうどいい具合に隠れて見えそうで見えない。
「さもなくば、何だって?」
「結婚するか……さもなくば、その者に死を! ってね!」
「ぐわっ! 危ねえっ! 殺す気か?」
まるで瞬間移動のような踏み込みの速さ!
こいつ、まだ全力を出していなかったのか。しかし、俺も勇者、それ以上の思考は無意味、俺の体は自然に動いていた。
「殺します!」
振り下ろされた剣が俺の脳天を叩き割る寸前だ。俺はその懐に入り込み、彼女の二の腕を下から掴むとそのまま彼女の力を利用して天高く放り投げた!
「ぶべえええーーーー!」
天女のように美しい女が発したとは思えない豚声を発して、彼女は四肢を広げた姿勢で背中から落ちた。
ーーーーーーーーーーー
ブッ、ブファーーーーー! と恐ろしい断末魔のような響きと派手に飛び散る
その瞬間、辺り一面が鮮血に染まった。
陽光に
美女は動かない。
ぽたり、ぽたり……赤い
女騎士の長いまつ毛が動いて彼女はわずかに目を開いた。へその辺りに熱を感じて撫でた手のひらに血がべっとりと付着した。
「!」
斬られた?
女騎士は青ざめて、腹を撫でるが不思議と痛みはない。
この赤い血の正体は? と俺の方を見てその瞳に驚愕の色が浮かんだ。そんな姿で戸惑いの表情とかずるいぞ、またグッと込み上げてくる。
ヤバい!
またも、ぶっ! と鼻血が噴き出して女騎士の素肌を汚した。
大量の出血を起こしていたのは他でもない、この俺なのである。久々の鼻血大噴水なのである。
彼女が落ちたのは、柔らかい若葉で丸く膨らんでいた
だが、お尻から茂みに埋まった彼女は凄まじいM字大開脚だ! 全てが丸見えどころではない! さあどうだ、と言わんばかりのエロい姿勢でモロなのだ!
裸を見た?
何それかわいい。
それどころではないところがなんと大全開、丸見えなのだ。
バッ、と俺は鼻血を押さえつつ目を
さすがにこれは
こんなのは見ちゃダメな光景だ。乙女が乙女たる証の乙女そのもので……頭がクラクラしてきた。
「ば、ば、バカーーーーっ!」
女騎士は我に返った途端、真っ赤になって四肢を縮めた。
「大丈夫だ、俺は平常心なのだ」
俺は片手で目を塞いだまま、さっと横を向いた。
「バカ豚っ! そんなに不自然な前かがみのくせにっ!」
「気にするな、これは勝利のポーズだ」
「必殺技を繰り出したのに、こんな風に簡単にあしらわれるなんて……、殺すこともできない男ならば、やはり結婚するしかありませんね。もうこんな恥ずかしい姿を見られて……」
女騎士はジタバタしていたがようやく
「大丈夫、なーーんにも見ていない。俺はさっと横を向いたからな」
「ウソです! しっかり見ていたくせに! 正直に言いなさい、見たでしょ!」
「じゃあ、見た。ぜーーんぶ見た、くまなく隅々まで詳細に見た。こう言えば良いのか?」
「あわわわわ……」
女騎士は真っ赤になって口をパクパクさせた。
「お前が言えって言ったんじゃないか。しょうがない奴だな。それにしてもその姿では風邪をひくぞ。そうだな、せめてこれを使うが良い! ああ、洗って返す必要はないぞ、くれてやる。ではさらばだ、女騎士よ!」
俺は彼女に向かってマントを投げ捨て、一目散にその場を離れた。冗談じゃない! いくら超美人でもあんな危ない女と結婚なぞできるか、俺にはユキがいるのだ!
「あっ! 待てええええええ!」
背後で俺の汗臭いマントで身を隠した女騎士が叫んだ。
走り去る豚仮面の男の脚力は凄い。砂煙を上げて瞬く間に姿が見えなくなった。
「これはこれは……災難でしたな、メリアお嬢様」
呆然と地面にへたりこんだ女騎士の後ろから竜兜をそっと差し出した白髪の男がいた。
「見ていたのか、ローバ」
彼は代々メリアの家に仕える執事だ。
「途中からでございますが。いざとなれば加勢しようかと思いまして」
ローバは腰に下げた細身の刺突剣を見せた。
「凄い奴だった。我が剣が……まったく相手にもならなかった。こんなの初めてだ。あれが真の男というものなのか?」
男の臭いの染みついたマントで裸を隠しながら、片手で兜を受け取ったメリアはその臭いを再度確かめ、高揚した顔を向けた。
「はぁはぁ……このマントの汗臭さと妙な生臭さが癖になりそうだな、これが男の臭いというものか?」
今にも唇の端から涎を流しそうなほど鼻息が荒い気がするのが残念なところだが、幸い付近にはそれに気づく者はいない。
「はっ、お嬢様の剣技をまったく
まさにあの男こそ、探していた男かもしれませぬ。
あの者が姫と手を携えれば、
男としても、あのお姿のお嬢様の一糸まとわぬ姿を見て狼にならぬところなど、見どころがあると言えましょう」
「そうですか。ローバの眼鏡に適う人物ならば間違いありませんわ。あの方こそ我が王国を救い、我が覇道を捧げるにふさわしいお方かもしれません。
北の大国ロデアンヌの王女メリアの名にかけて、あの豚紳士を追いますよ! みんなの笑顔を取り戻すために彼を絶対に捕まえなければなりません!」
メリアはマントの臭いをくんくん嗅ぎながら、目に闘志を宿した。
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