第17話 竜兜の美しき女騎士!

 「がははははは……みたか、これが俺の力なのだ! ムダな抵抗はよせ! がはははは……!」

 俺はへし折った木の幹を縦横に振り回す。


 「ぎゃあああああーーーー、豚紳士が出たーー!」

 周囲の木々がなぎ倒され、馬車の護衛をしていた傭兵ようへいたちがあたふたと逃げまどった。


 こうなると道の真ん中にぽつりと取り残された馬車が哀れだ。

 馬はパニックになって馬車が激しく揺れて今にも横転しそうだ。


 「おとなしくしろ!」

 謎の豚の仮面をつけた男が馬車に向かって丸太を投げつけた。

 車輪が破壊され、馬車は大きく傾いて止まった。


 「おええええ……今ので酔ったわい!」

 扉が開いて、中に載っていた二人が外に投げ出されるように出て来た。


 その前に影が落ちた。

 見上げると、今、王都で噂になっている豚紳士が仁王立ちしている。


 「ふふふふふ…………」

 その間抜けな妖しい豚顔とは裏腹に、強靭な肉体がただ者でないと思わせる。


 「お、お助けを! 命ばかりは!」


 腰を抜かした二人の中年太りの紳士があたふたと逃げようとして、互いに「お前が前に出ろ!」と押し合っている。


 見苦しいったらありゃしない。

 それでも貴族なのか? 腰の剣は飾りか?

 だが、貴族だろうと俺は容赦しない。冷徹な怪盗紳士なのだ。


 「がははははは……金目のものを置いていけーーーー!」

 お決まりのセリフを吐いた。


 あれ? 紳士ってこんな言葉づかいで良いんだっけ? まあいいか。



 「ん? 誰か来る。新手か?」

 俺はマントをひるがえして振り返った。

 俺のこめかみにピリピリと何かが接近する気配を感じた。甘く切ないこの感覚は女……しかも俺とは何か運命的な因縁がありそうな予感が心を騒がせる。


 「あいつです! あいつが豚紳士です!」

 丘の向こうから傭兵が白馬の騎士を引きつれて戻ってきた。

 どうやらただ雇い主を見捨てて逃げたわけではなかったらしい。


 「よし、お前たちは二人を助け、すぐにこの場から撤退しろ! あとはまかせるのだ!」

 「頼みましたっ! 騎士殿!」

 傭兵たちは貴族を助け上げると一目散に逃げていく。


 誰一人として騎士に加勢しようという気概のある者はいないようだ。


 「さて、そこの豚仮面の男! 貴様が近ごろこの辺りを騒がしている悪漢だな!」


 白馬の上から長剣を向けたのは、特徴的な竜をかたどった兜で顔を隠した女騎士である。ただ、兜に比べて鎧が見るからに安物でへそ出しルックなのが気になるところだ。兜だけが先祖伝来の家宝なのだとか言いそうだ。

 

 そのチグハグさがいかにもいわく有り気なのである。そこまでして顔を隠す必要があるのか?

 

 しかし、俺の目はごまかせない。聖剣など無くても勇者の眼には硬い兜ならば、その下の素顔が透けて見えるのだ。


 勇者パワー発動、覗いてみた。


 これはこれは……。金髪碧眼の美女、目を奪われるほど美しく整った顔立ちはまさに絶世の美女と呼ぶにふさわしい女騎士だ。


 確かにこれは隠しておかないと身の危険が増えるだろう。


 それにしても、これほどの美女がこの辺りにいたとはね、貴族の御令嬢か?


 いや、それ以上の上品さと色気を感じる。

 代々選りすぐりの美男美女だけが結婚を繰り返してきた、その頂点に立っているような美女だ。


 良く鍛えられた肉体に安産型の腰つき。

 鎧の間から見えるおへそ周りも、かつての仲間、戦士ジャルタのように腹筋バリバリ割れでもなく、とても柔らかそうで、思わず指で触れたくなるくらいきめ細やかで白い魅力的な肌だ。


 つまり、こんな肌と体型を維持できる環境で育ったということだ。


 あきらかに伝説級の装備を思わせる竜兜を被った絶世の美女、これはおそらくどっかの国の王族だろう。もうそれだけで、この女騎士が面倒な奴だという気しかしない。


 こっちは鉄板ルートを歩くのが得意な俺なんだぞ、ここで女騎士登場などとかもネギもいいところだ。

 こいつクッコロさん確定だろう。なぞの触手に襲われるってパターンもありうる。



 「ゆくぞ! 豚紳士! 我が正義の鉄拳を受けるが良い!」

 うわっ! 鉄拳といいながら、いきなり剣を抜いて馬上から飛び降り、斬りかかってきた。


 「危ない!」

 俺はとっさに足元の小枝を拾って騎士の突進を受け流した。


 剣を大きく弾かれ、仰け反ったとたんに、その美麗な双丘がぼよおおんと踊った。


 「くっ、このような辱めを! 変態め!」


 小枝が当たっただけのなのに、女騎士の胸当てが遥か彼方にポーンと吹っ飛んでいった。


 「やっぱりその装備、かなりの安物、もしかすると実戦用じゃないんじゃない?」と敵ながら心配になるレベルだ。

 しかも鎧の下にアンダーウエアも着ていなかったとは……。


 女騎士はとっさに胸を隠したが、勇者動体視力の俺の目には蠅が止まる遅さだ。


 思わず白桃のような見事な乳房をガン見したので、その記憶を永久保存した。まさに男の理想を具現化したような美しさ、魔王と比較しても負けていないのは立派だ。


 「よくもやったわね! 死になさい、ええい!」


 なおも片手で剣を振るって突進してくる。人間にしては賞賛すべき素晴らしい動作だが、俺には効かない。


 俺はひょいと身をかわすと今度はその腰のベルト金具の辺りを後ろからかるーーく指先でポン…………と押してみた。


 「ぶべええええええ!」


 凄まじい砂煙を上げて、騎士が吹っ飛んでいき、茂みの中に突っ込んだ。


 勢いよく突進したところに力が加わったからだ。


 「ぺっ、ぺっ、葉っぱが口に……よくもやってくれたな!」

 女騎士が茂みの中からよろよろと立ち上がった。


 葉っぱがはらはらと舞い落ちる。


 おお、やはり凄まじい美女、その怒りの表情も芸術品のように美しい。


 彼女は怒りのせいか、兜がスポンと脱げ落ちたことにも気づいていないのだ。


 「貴様! もはや許さんぞ! その強さ、お前は私の宿敵となるべき運命の男に違いないな」

 女騎士は真っ裸! で仁王立ちしている。

 俺がベルト金具に触れたので勇者パワーで着ていた鎧も服も全て爆散したのだ。


 まったくもって美しい。まさにお見事!


  背が高いので美の女神の彫像の見本みたいだ。鍛え上げた完璧なスタイル。見事な美乳の持ち主だと思ったが、それは間違いだった。全身どこを見ても俺が今まで見た中では五本指に入る。まさに魔王に匹敵する美しさと完成度だ。



 「威勢よく叫ぶのは良いけど、良いのか? その恰好で?」


 これは素晴らしい、良いものを見せてもらった。

 うん、大丈夫だ。鼻血もなんとか抑えている。

 魔王のモロを見て以来、多少のことでは反応しない強靭な精神力を得たのだ! 



 むくっ……いや、前言撤回。



 「恰好だと? 何を言っている、正々堂々と私に立ち向かって来れば良いのだ! さあ、私に向かって……立って、……立ってる?」


 うん、そういう反応になるだろうね。


 女騎士の目が俺の股間を見て丸くなり、次に自分の身体を見て顔が赤くなった。


 理性なんかぶっ飛ばせ!


 俺の股間でもっこり過激派が全裸の女騎士に向かって勇敢に立ち上がり、どうだ! とばかりにその大物感をアピールしていた。

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