第20話 男装の麗人!

 「王子の命を救った者は王子と結婚させるか王族に列する、最初にそう言ったはずだ。そうだな?」


 国王は威厳に満ちた表情で俺をにらんだ。


 「えーーと、でも彼……というかこの方、王女では?」

 俺は服を全て剥いでベッドに押し倒した王子を見下ろした。


 ぼよおんと豊満な胸がわがままに揺れている。はっきり言ってかなりの美乳だ。そして、その可愛いおへそから太ももに至る見事な陰影が男の欲望をそそりまくりだ。


 彼が女だと気づいたのは、俺がそのパンツを下げきった後だった。パンツを強引に脱がして大股開き。そうしたら男ならガン見せざるを得ない光景が広がっていたのだ。


 男装の麗人れいじんとか、良く見ればめちゃくちゃ美人じゃないか! なんという絶景!


 「わかったようだな? 王子を救い、その秘密を知ったからにはお前はナタリアと結婚するしかないのじゃ! 豚仮面の男よ!」


 「しまった! 罠か! 王子なら万が一なことが起きても男だから結婚なんてすることはないと思った俺がバカだった!」


 俺は頭を抱えた。

 王子を救った者が女だったら結婚、男だったら王族同等の身分をもらう、そういう意味だと思った。


 目の前でさっき俺がわし掴みにしてしまった乳房が揺れ、目を覚ました美しい姫が身を起こし、乱れた漆黒色の前髪を片手でかき上げた。


 「苦しくない……父上、胸の苦しさがなくなっています!」

 「おお、王子よ、この者がお前に触れて呪いを消し去ったのじゃ!」


 「いや、不可抗力ふかこうりょくですから、呪いが姫の身体をあやつって襲い掛かってきたから、正当防衛しただけですから!」


 結局、王子の身に着けていた下着が呪いというか魔物そのものだったのだ。


 俺の勇者パワーに恐れをなしたのか、呪いが姿を見せて襲いかかった。とっさに呪いの魔物を倒すため、その根源に触れたのだ。


 そしたら上着が全部消し飛んで、結果、王子の豊満な胸を鷲掴みにしただけだ。王子が俺の勇者パワーで爆散しなかったのは、かつての勇者の血を引く王家の者だからだろうか。


 「誓いのキスも済んでおろうが!」

 「いや、あれも呪いを消すために……」


 上着が消し飛んだ瞬間、呪いの残留思念のような気配が口に逃げ込んだので、強引に唇を奪って呪いの残滓ざんしを吸い取ってガリガリと嚙み砕いた。


 方法は乱暴だったがとっさの対応だ。

 勇者パワーに満ちた俺の口内ではこの程度の呪いは術式崩壊を起こす。ただそれだけだ。


 ふう、と安心したのも束の間、呪いはかなりしつこかった。

 ズボンとランジェリーが毒蛇と化して襲い掛かってきたのだ。その時はなんでこいつ、女物のエロい下着を? などと思う余裕もない。


 「そこにもいたかっ!」

 とっさにズボンをビリビリ引き裂き、強引にランジェリーをはぎ取ってその術式を破壊したのだが、先に吸い込んだ呪いの残滓の影響か、つい足がもつれてその股間に倒れ込んでしまった。


 そうしたら目と鼻の先に……。

 あれ? ない? 男の物が無い。その代わりそこに……。


 しかも、倒れた際に太ももを思い切り両手で左右に押し広げたので、もうこれ以上ないくらいの大開脚!


 おおおっ、処女地が!


 ぶぅうううーーーーと王子に盛大に鼻血をぶっかけた。




 ーーーーと、ここまでが今の状況だ。


 「王子の部屋に忍び込んで、何かを盗もうと物色していたことも不可抗力と言うのじゃな?」


 「嫌ですね、見てたんですか?」


 この王宮には、勇者のレベルに悪影響を与えるアイテムが秘蔵されているらしいと噂に聞いて潜入したのだが、まさかこんな事になるとは思わなかった。

 

 「我が募集に応じ、呪いを解く者として王宮に入った者たちが何をするか監視するのは当たり前じゃ。たんなる盗人として捕縛して処刑することも可能なのじゃぞ、豚仮面!」


 「うーーむ、盗人は大歓迎だが、処刑は困るな」


 王子の呪いは適当にお茶をにごして、王子を眠らせてアイテムを探そうと思っていたのだが、勇者の感知スキルに引っかかった禍々まがまがしいアイテムは結局、王子自身が身につけていたアレだけだった。


 「父上、処刑はダメです。その男と結ばれることになったのです、神に誓った約束は絶対、それは父上もご存じのはず!」

 ナタリアは恥じらって真っ赤な顔をしている。


 男装していただけにショートカットだが、化粧なしのすっぴんでこの美しさ、とんでもない美人だ。手足も長いし、繊細で細部に至るまでとにかく美しい。


 この国の四皇女よんこうじょは妹君のはずだったが、もしかして本物の四皇女はこのナタリア王子なのではないだろうか。

 俺は何日か前に謁見した妹君を思い出したが、やっぱりナタリアが遥かに上だ、はっきり言って比べものにならない。


 「わかったな、お前はナタリア王子と結婚するしか道はないのじゃ。断ることはできんぞ、見よ! もはやどこにも逃げられんのだ!」


 ぐぬっ、そうきたか。やはりガチガチの定番ルート!


 国王が両手を頭上にかざすと、俺と王子の頭上には正式な婚約を施すための魔法陣が現れ、二人の周囲に強固な結界の光が!


 だが契約はまだ未完了!


 「わははははは……、甘い、甘いですよ。私はそんな事では怯まないのです!」

 俺はさっとその魔法陣の効果範囲から脱した。


 強力な結界だ。並みの人間なら契約が完了するまでその結界から出ることはまず不可能だろう。だが、俺が触れただけで結界は霧散むさんした。勇者パワーは無駄にすべてを破壊する。


 「なんと! まさか、いとも簡単にじゃと!」

 王は目を丸くした。


 「王よ、忠告しておく。ナタリアに呪いをかけた者は必ず近くにいるはず。下着に触れることが可能なほどの者だ。すぐに実行犯はわかるだろうが闇は深い。油断なきように」


 「さすがは闇に隠れていた呪いを解いた男、簡単に我が結界を破るか……。その忠告、ありがたく受け取ろう」


 「じゃあ、結婚話は無かったってことで!」

 俺は急いで立ち去ろうと…… 


 「待てい! それと忠告とは別の話じゃ! お主には王子に一生仕えてもらうぞ! 無駄じゃ、逃げ道などないぞ、おとなしくナタリアをめとるのだ! 影よ、こいつを逃がすでない!」


 王がさっと片手を上げると、その背後に忍者が数名さっと姿を現した。無言だが殺気が凄い! 


 この国王、忍者を使役するのか。

 見かけと違って危ない奴だ。

 忍者は英雄級のレベルがないとなれない特殊ジョブなのだ。見たところ、かつての英雄一行に手が届くかどうかというレベルだが、それでも恐るべき高レベルである。


 「くくく……。忍者とは凄い。しかし、我を捕まえるなど不可能だ! 長居は無用、さらばだっ!」


 ガチャーーーーン!


 俺は王子の部屋の窓をぶち破って外に飛び出した。

 俺が探し求めるアイテムが無いと分かった以上、こんな所に留まる理由はない。


 「馬鹿な、ここは10階の高楼こうろう、自殺か!」


 叫んで窓から身を乗り出した王の目に、豚印の気球にぶら下がった男が高笑いを残しながら去っていくのが見えた。


 能力で飛ぶことは簡単だが、ここで勇者の羽など見せたら正体がバレてしまうので使えないのだ。


 「王よ、追いますか?」

 忍者の頭領が王の表情をうかがった。


 「もちろんじゃ、あやつめ! なんという大胆不敵な奴! すぐに奴の後を追うのじゃ! 神との誓約を王が破る訳にはいかぬ! 西の大国ブンダッタの名誉にかけても、なんとしても連れ帰ってナタリアと結婚させるのじゃ!」

 王は叫んだ。


 ナタリアの病を治すため神との誓約を立てた。

 それを実行しなければ神に嘘をついたことになる。神がさずけし王権、という気風のあるこの国にとって、そのことが知れ渡ればその影響は計り知れないのだ。



 「それで結局、奴が盗んだものは何だ? 何か盗られたか?」


 窓から外を眺めていた王が肩をすくめて振り返った。おそらく逃げられたのが分かったのだろう。


 「それが……」

 ナタリアは恥じらんだ。


 「どうしたのじゃ? まさか「私の心を……」などとは言うまいな?」


 「あの男、素知らぬふりをして私の脱ぎたてランジェリーを持ち逃げしました」

 ナタリアは顔を赤くした。


 「ぐおおおお! やはり変態だったかっ! おのれえーーーー!! 至急、指名手配じゃあ!」

 王は全身から魔炎を吹き上げた。


 「ガハハハハ……! 悪徳、悪徳! 王宮に侵入して泥棒とはな、こんな悪行、未だかつて誰も成し遂げた者はいないだろうな!」


 俺は王子だと言う姫のランジェリーを頭に被ったまま勝利を確信して高笑いした。

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