第15話 勇者になればウフウフ?
そもそも俺は国王に
勇者になれば、ウフウフだぞ、とささやかれて舞い上がったのがいけなかった。
タヌキ親父ことサブランド王は「この世界には
あれで騙された!
四皇女は、大陸を支配する四つの王国の美しき4人のお姫さまだ。天女降臨レベルの超絶美少女としてこの世界にその噂を知らない者はいないのである。
誰もが恋焦がれるが決して届かぬ高嶺の花!
容姿端麗!
スタイル抜群!
あふれる気品!
噂では、もう何もかも脳内妄想限界突破するくらいに超有名なのだ。
北の大国の姫は、美しく滑らかな金髪に不思議なほど青く澄んだ瞳、純白の雪のような肌に長身でスタイル抜群、北方神話に出てくる天翔ける戦乙女級の美女だというし、東の大国の姫は、青みがかった長髪が珍しい、清楚可憐で容姿端麗、誰もが守りたくなるような愛らしさで知られる美女。
南の大国の姫は、赤毛のショートカットに翡翠色の瞳が神秘的で、褐色の肌が健康的な美しさを放つ美女。
一番情報の少ない西の大国の姫は、艶やかな黒髪に茶色い瞳、知的ですらりと背の高い目の醒めるような美女らしい。
「噂は知っておるかな?」
「もちろん知っている」わくわく……。
それで終わりだ。
何の進展もない。
考えてもみれば四大王国の姫がこんな片田舎の小国ドブーのタヌキ親父(国王)の知り合いなわけがないのだ。
だが、王にあんな風に言われたら「誰か一人くらい紹介してやるぞ」という意味だと勘違いするのも若者なら当然だ。胸だってドキドキ、わくわくだ。
つまり俺は騙された!
妄想に浮かれた俺は、手渡された勇者養成シロップとやらを何の疑いもなく飲んでしまった。
「ぐぇーーーー! どろりとしてイカ臭い!」
「おえええ……不味いーーー!」
その激
(美女のハーレム、酒池肉林……世界中の美女が……もやもや……むらむら……もんもん……)
頭の中に湧き上がる無限の妄想!
それが現実の味を認識させなかったのだ。
「勇者覚醒ーーっ!」
俺は拳を作った両手を左右に開いて叫んだ。身体が
「おおっ、ゼロ・カロリー殿が勇者に覚醒されたっ!」
「奴め、やりおったわ!」
タヌキ親父と取りまき貴族たちの
それと裏腹に俺の下半身を見てその下品さに思わず国王の陰に隠れたドブ―国の可憐な王女姉妹。
「さっそく勇者認定の儀式を始める!」
王の一声で
しかし、いざ勇者になってみると、美しいお姫様との出会いなんかこれっぽちもない。
毎日毎日が新たな魔物との出会い、つまり魔物退治だったのだ。
勇者になればウフウフ? 美女のハーレム?
何それ? 騙された!
日々繰り返される魔物との壮絶な戦いと強制レベルアップ。
勇者は呪いか……。
そして「勇者はかくあるべし」というタヌキ親父(国王)の教えが強迫観念となって俺の心をしだいに
いや、今思えば勇者任命の儀式は勇者を洗脳する儀式だったのだろう。俺は知らず知らずタヌキ親父の手駒になっていたのだ。
愛するユキにも会えない日々に次第に心が
そんな俺を救ってくれたのは一つの新たな出会いだった。
壮絶な総力戦になった魔石鉱山奪還戦の一年前である。
新たに剣士として加わった前期勇者パーティ最後の仲間、それが美しい疾風の乙女キーラだった。
軽く背中で縛った長髪をなびかせ刀を振う、ユキと同じ東方諸島出身の抜群にカワイイ美少女だ。
「男は顔じゃないです。ゼロくん」と微笑んで、俺への好意を隠そうともしない、心の清らかな素敵な乙女だった。
彼女が俺に人としての感情を取り戻させた。
そして「ユキさんの次にお嫁さんに立候補しちゃおうかな」と焚き火に囲んで隣で冗談っぽく微笑む彼女と一緒に俺はその一番苦しい時期を乗り越えたのだ。
しかし、そんな優しい人に限ってすぐ死んでしまうものなのである。
現実は残酷である! わずか一年後にあんな別れが来るとは思わなかった。
思い出しただけで、心が引き裂かれる。いまだに地面をのた打ち回って大声で叫びたい気持ちになる。
「くっ、タヌキ親父め、
俺が勇者にならなければ彼女に出会うこともなく、彼女もあんな風に死ぬこともなかっただろう。
俺は大切なものを失った。
大切なものを失う激しい痛みを知った。
俺にとって第二夫人の座は永久欠番だ、この先どんな美女を妻に迎えても。
「すべては俺が勇者にされたからだ! 見ていろタヌキ親父(国王)! こうなれば悪評を高めまくって、勇者レベルを下げ、絶対に普通のボンクラ男になってやる!」
俺は天に誓った。
という訳で、俺は手始めに(腹いせに)街道を通るタヌキ親父の
国王への嫌がらせとレベルダウンの一石二鳥である。
これこそ勇者の
赤い樹肌の巨木に登って遠くを見渡すと街道を走る馬車隊が見える。その先には王都、そして遥か先に海を挟んでそびえ立つ大エリエント山の白き頂きがわずかにのぞいている。
「待ってろよ、ユキ、必ずただの人になって故郷に帰り、お前と恋人つなぎを実現するぞ!」
四皇女なんて、絵にかいた餅の事なんかもう考えない。
俺はユキに相応しい男にレベルダウンするため様々な悪事に手を染める硬い決意をしたのだった。
「品性を下げて、悪事を重ねてやる! 見てろよタヌキ親父め!」
俺はぐっと拳を握り締め、瞳に炎を宿した。
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