2.怪傑、怪盗豚紳士! ここに参上! ー主要キャラ登場編ー

第14話 豚紳士ただいま参上! がはははは!

 魔王を倒し、あれからあっと言う間に半年が過ぎた。


 ポストから今朝の新聞を取り出し、ぺらりとめくると「またも怪盗豚紳士現る!」という見出しが目に止まった。記事はちょこんとページの隅っこに小さく載っている。


 「あーー。またここかよーー、いよいよピンチだぞ」


 今週のイイネの星もまったくついていない。これは魔法印刷だ。気に入った記事の紙面にさわって星を増やすのだ。星が少ないと段々と紙面のはしっこに追いやられ、そのうち紙面にも載らなくなる。

 

 俺的には結構頑張っているつもりなんだけど、一旦マックスに達した勇者レベルはそうそう下がらないらしい。


 「なにかもっとデカい事をやらねばならんな……トマス、これを書斎に持っていってくれ」


 俺は玄関先に立っていたダンディな執事トマスに新聞を手渡すと、日課の朝の運動をするため、体をちょっと左右にひねりながら庭先に出た。




 「郵便でーす!」

 「いつもご苦労さま! 今日もかわいいね!」


 「いやですね、勇者様ったら!」

 大邸宅の門前で体操していたら、顔馴染みの少女が封筒を持ってきた。


 彼女は近所の小貴族の娘なのだが最近郵便配達のバイトを始めたらしく、以前のぶっきらぼうな配達員の男に比べればまるで天使だ。


 その後ろ姿を見送っていると、かわいい声が聞こえた。


 「ご主人様、それ何ですか? ただのお手紙にしては大袈裟おおげさすぎる封筒ですね」


 屋敷玄関に通じる石畳みの落ち葉を掃いていたメイド、犬耳美少女のフゥリンがいつの間にか近づいてきて、覗き込んでいた。


 彼女は足音を立てないので、時々びっくりする。

 まだ幼い少女でくりくりした目が愛らしい。


 魔獣に襲われていたのを俺が助け、身寄りがないというので屋敷にメイドとして住まわせているのだ。


 「なんだろうな? また舞踏会への参加依頼状か何かか?」

 俺はちらりと王家の紋章のついた公けの封筒の表書きを見た。


 「げげっ、納税通知書? またかよ!」


 聖剣も捨て、聖なるよろいも捨てた。

 どこに? それは秘密である。

 まったく、あんなもんいらんのだ。


 半年に一回は神殿で浄化せよとか、一年に一回は聖炉せいろの精の元に行って手入れしてもらえとか、超面倒くさいし、魔王退治が終わったので国に毎年奢侈品税しゃしひんぜいを払えとか、まったく意味がわからん。持っているだけでどんどん金が出ていく金食い虫ってどうなのだ? 


 という訳で、交番に紛失届を出しておいた。

 どこかに落としちゃった! だから持ってません! と言い張るためだ。


 しかし、今度は ”勇者称号しょうごう税” だと?

 別に好きでもらった称号じゃない。


 「そうか、これが王の回答なのだな」

 俺は封筒を握りつぶした。


 王都に戻って魔王討伐を国王に報告した時に、これで勇者をやめると国王に告げたのだが、その回答がこれなのだろう。つまり勇者称号の返還は認めんというわけだ。


 「誰がそんなもん払うか! タヌキ親父(国王)め! 俺は元勇者でいいんだ」


 俺はフゥリンの目の前で封筒ごとビリビリと納税通知書を破り去ろうとした。


 「ご主人さま、よろしいのですか?」

 「ん?」

 俺の態度にフゥリンが目を丸くしていた。


 うん、やっぱりやめとこう。

 彼女の教育に悪い。

 こんなに純真なフゥリンに、悪い顔で都合の悪い事実を握りつぶすのが大人だと思われては困る。

 それに国家権力に逆らっても良いことはないのだ。



 ーーーーーーーーーーー


 「いやーー、封筒と一緒に中身までやぶっちゃって!」


 俺は頭をかきながら街角の出張所のカウンターで糊でくっつけた破れた通知書と金の入った袋を差し出した。


 メガネをかけた堅物かたぶつそうな青年は、人の顔も見ないで黙々と処理する。愛想あいそも何もない。まさに国家権力の鏡のようなご立派な対応、お見事である。そいつはポンとハンコを付いてめんどくさそうに半券を返してよこした。


 「ええい! なんでこっちがへらへらご機嫌取りをしなくちゃならんのだ。一刻も早く何とかしなければ!」


 出張所を出た俺は青空に誓う。

 こんな称号、勇者レベルを下げて早く国に返さねばならない。


 もっとも、国は俺に生涯莫大な勇者年金を払うことになっているのでその回収の意味で様々手を変え品を変えて税をかけようとしてくるのだろう。ちなみに年金は孫世代まで支給される。勇者の血統の者が不安なく力を磨いて国に役立ってもらうためだ。


 それにしてもまったく世知辛せちがらい。


 そんなこんなで俺は一刻も早くレベルダウンしなければならない、と改めて誓うのだった。




 ーーーー今日の獲物はあれだな? 


 「ふっふっふ……」

 俺は不敵に笑いながら峠の一本杉の上から爆走する王室御用馬車の隊列を見下ろした。


 最近、荷馬車が襲われるので、猛スピードでこの危険地帯を一気に抜けようという魂胆こんたんだろうが、甘い、甘いな。


 俺は山賊から奪った露出度多めの山賊スタイルで、魔王城の蚊取り器具だった豚の置物を加工したお面をつけ、日夜街道を行き交う商人を襲い、田畑を荒らす怪盗紳士として絶賛活躍中なのである。


 「豚紳士ぶたしんし、ミラクルダンディ! ただいま参上! がはははは!」


 俺は先頭を行く馬車の屋根の上に華麗に降り立った。

 即座そくざに金目のものの入った宝箱を特定して奪取!


 ガラクタを入れた箱をたくさん積んで、本当に価値のある品々を見つけにくいようにしていたのだろうが、勇者の目には通用しないのだ。


 「ど、どろぼうーーーー! 豚紳士が出たーーーー!」

 「誰かーー!」


 「うはははは……追いつけるものなら、追いついてみるがよい!」

 豚仮面をつけた俺は全力で宝箱を乗せた荷車を引いて逃げた。

 背後では何か叫んでいるが聞こえないふりをする。それがコツである。


 うっかり振り返ったりしたら、ロクなことはない。


 勇者レベルを下げる! そのためには悪徳を積むことが必要らしい。つまり悪いことさえすれば勇者レベルが自然とダウンするのだ。


 なぜこんな簡単なことに今まで気づかなかったのか?


 何のことは無い、それは国が総力を挙げて俺からその事実を隠蔽いんぺいしていたからだ。


 くっそーーー!

 あのタヌキ親父(国王)め! 今に見てろ!


 俺はガラガラと派手な音を立てながら荷車を引いた。

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