第13話 目覚めた! 美しき大聖女の魔王!

 「こっ、これは何事でございますか! 大神官様!」


 すぐさま、後ろにいた神官たちが大神官を支え、二人がかりでそのデブ、いや大神官をやっとのことで抱き起こした。


 「たまが割れたじゃと? そうか、魔王の力の干渉が無くなって内部圧力で自壊じかいしたのだな?」


 呆然ぼうぜんと大神官は珠が消滅した空間を見上げている。集まっていた力の痕跡は感じるものの、あの圧倒的なパワーは霧散むさんしていた。


 「では、まさか?」

 控えていた神官たちが一斉に大神官を見上げた。


 「そうじゃ、ついに勇者たちがやりとげてくれたのだ! 世界を覆っていた魔王の力が無くなったあかしじゃ!」


 大神官は、あたかも自分が魔王を討伐した英雄のように颯爽さっそう錫杖しゃくじょうを振った。


 「うおおおおっ! それは本当でございますか!」

 「やったのか」

 「これで、世界に平和が来るのでございますな!」

 うおおおっと地下聖堂が歓声にあふれた。


 抱き合って感涙かんるいにむせぶ者、ただ床に額を付けて感謝の祈りを続ける者、様々な喜びが満ちている。




 ーーーーだが、喜びに湧く神官たちの前でその異変は静かに進行していた。


 ”あまツ国ノ真珠しんじゅ” の祭壇になっていたクリスタル製の聖なる棺から徐々に湯気が立ち昇り始めたのだ。


 「大神官様、あれをご覧ください!」

 それに気づいた神官の一人が指さした。


 「おおっ、一体何が起こっておるのじゃ!」

 大神官すら予測しなかった事態だ。果たして何が起こっているのか。誰も身動きすることができない。


 やがて全員が固唾かたずを吞んで見つめる中、白い湯気に覆われた聖なる棺のふたが開く気配があった。魔物が爪を研ぐような、そのなんとも言えない耳障りなきしみ音に神官たちは身を震わせた。



 「ふわあああ……どのくらい寝ておったのかのう?」


 いきなり白い華奢きゃしゃな手が湯気の中から突き出た。

 その声は恐れていた不気味さとは無縁のどこか呑気のんきそうな少女の可愛い声である。


 「あれは!」

 「まさか、大聖女様が目覚められた! まさか!」


 「さて、ここはどこなのじゃ?」


 小さな手がクリスタルの棺の縁を掴んだかと思うと、湯気の中に全裸の少女が半身を起こした。まだ少し幼さが残るものの、そのあまりの神聖さと美しさに誰もが目を見張った。


 「こ、これは……ははーーっ!」

 大神官が急に頭を下げた。


 「あ、あのお方は誰でございます? まさかあのお方は天使なのでしょうか? 大神官様?」

 「め、女神さまだ……」

 「ああ、なんとも言葉にならぬお美しさ……」

 神官たちが一斉にクリスタルの棺を見上げた。


 「知らぬのか! あの棺は、魔王の力を封じるため数百年前に自ら偉大なる大尊神アシクサ様への人柱となったと伝えられるお方、千年に一度の美女と称えられし王妃アリア様の御息女、万年に一度の美少女と謳われた大聖女イリア様の眠りし棺だぞ」


 「では、あの方が大聖女様? 大聖女様が復活なされたと?」

 「おおお! まさにこれは大尊神様の奇跡に違いないぞ!」

 大神官が叫んだ。


 うおおおっ! と再び聖堂は大歓声に包まれた。


 「大聖女? 何を言っておる? わしは魔王じゃぞ」

 イリアはつぶやき、眠そうに目をぱちぱちさせたが、喜びに湧く神官たちの耳にそのつぶやきは聞こえていなかった。

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