第10話 勇者の宿命、ハーレムを作れ!

 「まったくなんて女たちだよ」

 魔王を倒したと思ったら、すぐに本性ほんしょうを現してきた。見た目は美女のくせに中身がヤバい。


 それに比べ……俺は王都で待っている愛しい恋人の顔を思い出し、胸から下げたロケットをそっと開いた。


 「ああ、俺のユキ……可憐な花が咲いたようだ。心が洗われる」

 ロケットの中にはかわいい美少女の写真が入っていた。これは何年か前の写真だから今はもっと大人の美女なのだ。


 「俺には幼なじみの愛しのユキがいる。俺は魔王に勝った、これで二人の将来は……うぷぷぷぷ……」

 思わず笑みがこぼれる。これぞ純愛!


 異界からきた東方諸島一族の末裔、織姫おりひめ 雪、……俺のユキだ。

 俺はその写真の清純な微笑みに和んだ。


 「ああ、ユキ! 二人で大草原の可愛い一軒家で……」

 幸い勇者としてかせいだ金はありあまるほどだし、あの二人が言うように勇者年金は莫大ばくだいだ。二人で愛の巣をつくって慎ましく……は無理か、無理だ、無理なんだろうな……


 よくよく思うとそんな可愛い夢は語れない身だった。


 俺は勇者だが男としても並外れた勇者になってしまった。なにしろ精力旺盛でサキュバスを返り討ちにするくらいだ。真面目な話、子育てを考えたらやっぱり小さな家じゃダメだ。


 やはり国王から支給された王都のあの大きな屋敷か。

 それに召使いも増やして、たくさん雇わないと生きていけないだろう。召使いもどうせなら手を出したくなる美女だ。


 ハーレムを作れ! これが勇者の宿命なのだ。


 英雄色を好むとかとか、そんな甘い話じゃない。

 一夫多妻、ド派手にハーレムをつくって、人族、魔族、獣人族、エルフ族、ドワーフ族、亜人族、妖精族、もうありとあらゆる美女との間に片っ端から子どもを作って、たくさんの子孫を残せ、というのが国から課せられた勇者の義務なのである。

 

 あの二人が指摘したように、勇者を抱える国からすれば魔王を倒した後の勇者の存在意義は、次代の勇者を生み出すための人間種馬たねうまに過ぎないのだ。


 国王は前々から舞踏会だ晩餐会だと俺を呼びつけて色々な女性に会わせようとしていたが、きっとその機会は今後さらに増えるだろう。そしてたくさんの妻を養い、多くの子孫を育てるための資金が勇者年金として国から支給されるというわけだ。


 勇者年金は次世代の勇者を生み出すために考案された制度だが、国の庇護下でより強く有能な勇者を生み出そうという支配層の企みが見え隠れして、まるで自分が実験動物に思えてくる。というか間違いなくそういう扱いだろう。


 なにせこの世界の勇者は、勇者になった時点で権力者による洗脳を受け、その手駒に成り下がる。

 これまでの勇者は何の疑いもなくホイホイと子づくりをしてきたのだろうが、幸いにも俺は洗脳が解けた。


 そうやって冷静になって見ると、あのタヌキ親父(国王)も王の一族から妻や愛人を、そしてあわよくば王族から次代の勇者をと企んでいることは明らかだった。


 晩餐会ばんさんかいではいつも美しく着飾った王族の美少女が同席していたし、しかもあの煽情的な衣装、きっと俺が彼女らの誰かに惚れるように仕向けていたに違いない。

 彼女たちはどうみても勇者パワーに耐えられそうもない可憐さだったが普通に俺に触れることができた。王族の姫君用に勇者パワーに一時的に耐えられるようになる超高価な身体強化薬もあるそうだ。おそらくそれを使っていたのだろう。


 だが、今の俺はこれまでの勇者と違って、考えなしに国王の送り込んでくる刺客(女性)に手をつけるつもりはさらさらない。それに俺には子どもの頃からずっと想い続けている女性がいる。そう、だれが何と言おうと俺の第一夫人はユキに決まっているのだ。


 そもそも俺は彼女を守るためにレベルを上げ、勇者にまでなったのだ。そしてユキも勇者の種馬事情も全てわかった上で俺の求婚を受け入れてくれている。

 

 「ああ、俺のユキ……」

 俺は君を救うために強くなって勇者になった。君だけでも助かって良かった。それは後悔していない……。


 そっと両手でロケットを包んで、一人感傷かんしょうひたったあと、ロケットを閉じようと……


 ぐしゃ……


 「…………」

 開いた勇者のてのひらには、無残にひしゃげて化け物のようになった恋人の写真が……

 

 「に、握りつぶしてしまった!」

 勇者パワーは無限大!

 誰だ、そんなことを誇らしげに言った奴は! 


 「この勇者パワーのアホみたいな馬鹿力、どうにかならないのかーーーーーーっ!」

 俺は頭を抱えて仰け反った。

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