第7話 開きなおったわ!
「魔王の
そうだった。神官ボータくんは真面目過ぎる。天才にありがちな空気を読まないやつだった。
「あ、すまん、力の加減が難しくてね、いやあ参ったなあ、手が滑ったよ、はっはっは……」
俺は笑いながら頭をかいて、足で
足元には砕け散った
「うああああああーーーーー!」
「こいつ、やりおったわーー!」
「何てことを! 取返しがつきませんわ!」
「このアホーー!」
慌てて駆け寄った仲間が粉々に砕けた宝珠の破片をくっつけようとするが、無駄なことだ。
「あーー、すまん、やっちまった」
自分でも顔がひきつっているのがわかるくらいだ。
みんなの圧をひしひしと感じる。「殺すぞ」みたいなこの圧迫感、これは魔王以上に怖いぞ。
「何をやっているんですか!」
「あれだけ苦労してダンジョンの奥から見つけた珠が!」
「世界に一つしなかない宝珠だぞっ! これでは魔王の復活を阻止できん!」
「誰ですかっ、この脳筋バカ……、バカ力の勇者にあれを使わせようとしたのは!」
聖女エンリスが一瞬ひどい事を言いかけ、そしてゴミムシでも見るような目つきで俺を
ぎゃーぎゃー! ぎゃーぎゃー! ぎゃーぎゃー!
俺は耳を
魔王は最後に何を言いたかったのだろうかなどと現実逃避する。
あいつは勇者が権力者の人形に過ぎないと見抜いていたし、民の幸せのためとか言ってたな。そこだけ聞くと何だか俺たちの方が悪者のようだ。
ぎゃーぎゃー! ぎゃーぎゃー!
何かまわりで
やはり悪者は俺たちだったのかもしれない。まだ魔王の方が
ぎゃーぎゃー!
「まあみんな落ち着け! 封印しなければ魔王が復活するかも、とか言っているが、復活しないかもしれないじゃないか!」
額に汗、背中に冷や汗である。
「見てよ、こいつ、ついに開き直ったわよ、この勇者。さすがは我らのリーダーね」
「責任とってよね!」
女戦士ジャルタが握りこぶしを作って俺を睨む。
こいつも最近アタックしていた恋人候補が殺されたばかりだから、魔王への憎しみが
「大丈夫! 復活するぞと言って、「よう、俺、復活しちゃったぜ」とか言って顔を出した者なんか今まで見たこともないぞ。たぶん、魔王を恐怖するあまりにそんなろくでもないことを考えた臆病者がいるだけだろ?」
そう、魔王はたった今消滅した。
それだけが事実なのである。
「魔王は復活しないだと、それが証明できるのか? 勇者ゼロ・カロリー!」
お堅い石頭の魔法使いザザラスだ。
お前はまた
証明なんかできるわけがないと誰だってわかるだろ? と言いたくなるのをぐっとこらえた。
「いいか、魔王はたった今消滅した。今後魔王城からはた迷惑な魔物がぞろぞろ進軍してくるなんてことはもはや無いのだ。仮に魔王が復活するとしても、どれだけ先の話かもわからないじゃないか」
「ふん、口だけは
いや、魔王を倒したのは俺なんですけど? みんな倒れて見てただけだよね? 口だけじゃないと思うんだが……。
「まあ、確かにしばらくは平安な日々がやってくるということでしょうか。新たな魔王が出現するまで魔族も組織立った侵略は起こさないはずです」
神官ボータはため息をついた。
「ボーダ坊や、あんたは若いし、私より長生き種族だからそれでもいいだろうけど。次の機会なんてもういらないんだ。私がお婆ちゃんになってから、また魔王討伐に出ろなんて言われたらどうするのよ!」
女戦士ジャルタが今度は神官ボータに食って掛かった。
「そもそも、勇者ゼロが悪いんですわ。きっと筋肉と下半身の一部にしか血が巡ってないんですわ!」
やはりこの聖女が一番厳しい。
「あーー、何も聞こえんぞ」
俺は耳を
「この責任、とってもらいますからね!」
「そうですわ、王へ報告するのに「封印出来ませんでした」では報奨金の額が違うんですわ、あなたの責任なのですわ!」
聖女エンリスがたわわな胸を揺らして迫りくる。
「うっ……」
おおっ、女たちの方が男よりずっと怖いっ!
魔王以上の迫力だ。どうこの場を切り抜ける? 俺の胃はまたもキリキリ痛みだした。
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