第6話 やったぞ! やっちまったぞ!

 「やったのか? 本当に?」

 俺ははぁはぁと肩で息を吐きながら、鼻血をぬぐって手にした聖剣を見た。


 白い指が震え、硬直こうちょくしている。無意識だったがいかに自分が緊張していたか今になってわかった。

 おそるべき強敵だった。だが、ようやくこれで死んでいった仲間たちのかたきは討った


 魔王に反応していた聖剣の輝きは徐々に光を失い、見た目は普通の剣に戻っていく。これは敵の存在を感知しなくなったということ。それが意味するのは、間違いなく魔王が消滅したという事実だ。


 「倒したんですよ! ゼロ様!」

 「や、やったぞーーーー!」

 「勇者ゼロ・カロリーが魔王を打ち滅ぼしたぞーーーー!」

 わーーっ! と生き残った仲間たちが歓声かんせいを上げた。


 魔王城に突入した勇者に付き従った10人の仲間たち、今、その勇者を見上げ、この場に立っているのは5人だけだ。


 神官ボータ(少年)、戦士ジャルタ(女)、戦士クードイ(男)、魔法使いザザラス(男)、聖女エンリス(女)である。


 これが後に、勇者ゼロ・カロリーに付き従って魔王を討伐し、ついに生還を果たした ”栄光の五英雄” と呼ばれるようになる仲間たちだ。


 「おお、そうじゃ、勇者殿! 早く魔封まふうじのたまを使って魔王が二度と復活せぬようするのじゃ!」

 老ドワーフのクードイが思い出したように叫んだ。


 「あ、ああ、そうだったっけ?」


 そう言えば最終決戦におもむく俺たちを見送った王国一の女賢者の婆さんがそんな事を言ってたっけ。


 俺は足元に落ちていた袋を砂の中から拾った。


 その袋を持っていた仲間のエルフの姿は既にない。

 盗賊職のキザな超イケメン貴族だった。

 田舎者の俺をいつも小馬鹿にしていたが、その暗殺術は超一流だった。ただ、魔王がその超一流のさらに上を行く存在だっただけだ。


 彼は魔王を背後から狙ったが、逆に「破滅の手」で触れられ、一瞬で砂になったのだ。


 「さあ、早く!」

 「急いで、急いで!」


 「あ、ちょっと待ってくださいよ! それは繊細な……!」

 神官ボータが慌てて止めたが遅かった。


 俺が袋を開こうとした瞬間、竜革りゅうがわでできた世界一丈夫な革袋かわぶくろがビリッと音を立ててあっけなく破けた。


 勇者パワー炸裂さくれつである。さっきまで硬直していた指が言う事をきかなかったのである。


 ぽろり……たまが落ちる。


 スローモーションのように、薄いクリスタルで出来たシャボン玉のような球が床に吸い寄せられるように落下する。


 「あ!」

 ガチャーン…………

 一瞬の出来事だ。

 繊細な魔封じの珠は、魔王のの硬い床の上で粉々に砕け散った!


 不味まずい! やっちまったぞ。


 俺は強張こわばった笑みを浮かべて周囲を見回した。俺を見て一番硬直しているのは神官ボータだ。


 「うおっ、この腕だ、魔王の怨念おんねんに操られた……!」


 腕を押さえ演技する俺の胃がキリキリと痛み出した。

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