第3話 見えたっ!

 体力の限界に達した仲間たちはまだ動けない。最後の力を振り絞って俺に支援魔法を使った神官ボータくんが杖を両手で掴んで片膝を床についている。


 女戦士ジャルタや戦士クードイも似たようなものだ。体力のない聖女エンリスや魔法使いザザラスは息が上がっており魔法の発動すらもまだ厳しそうだ。


 それだけに魔王と対峙する俺を静かに見つめるみんなのまなざしは熱い。みんなの期待を背負って俺は聖剣を構えた。


 よしっ、ようやく今度はランジェリーまで透けることはなくなった。


 しかし、である。


 あまりにも煽情的せんじょうてきな魔王の姿に俺の鼻血は止まらない! あれが噂に聞く勝負下着とかいうセクシーランジェリーか。


 ある意味全裸よりエロいかもしれない。


 「ぐっ!」

 エロに絶エロ!  

 俺は聖剣の力を控えめにして両手で柄をしっかりと握った。


 うん、いいぞ。この体勢なら背後から見ている仲間は、俺が不自然に前かがみになっていることに気づくまい。

 かつての勇者に双聖剣という技を使う者がいたそうだが、今の俺は似て非なる状態、聖剣と性剣の二つの剣を押っ立てている。


 二人とも妙に前かがみだ。

 俺はもちろんだが、魔王も体を隠すために腰が引けているので前かがみなのだ。


 「見えたぞっ!」

 「バカっ、何が見えたと言うのだ!」


 魔王がぎょっとしてさらに内股になって隠すが、その仕草がエロい。だが、おれの動体視力は勇者だ。しかも曇りなきまなこがクリアさを増す。


 内股になる前のわずかな時間で十分だ。


 その美しい……、ああ、しっかりと目に焼き付けさせてもらった。眼福がんぷく、眼福……


 違う、俺が見たいのはそうじゃない。あれだ!

 魔王のおへその辺りに渦巻く黒い蛇のような影がうごめいている。


 ついに見えた!

 あれがきっと魔王の弱点に違いない。


 「そこだッ!」

 ガキンッ!

 斬りこんだ俺の一撃をその剣で弾き、魔王はさっと身をかわした。


 「我は魔王! 民の幸せのために、横暴で欲に魅せられた人間ごときに屈するわけにはいかんのだ! ここから撤退し、そうお前たちの王に伝えよ!」


 「何を言う、侵略してきたのはお前たちだろ! あきらめろ! 魔王、お前はここでめっせられる運命なのだ!」


 「オノレっ! たかが人間の分際で我をここまで追い込むか! だが、我は無敗の魔王っ! 死ねぃ! 勇者!」


 わっ、空間転移だ!

 あっぶねぇーーーー!


 突然、目の前にセクシーコスチューム姿の魔王の剛腕が振り下ろされた。その手には禍々まがまがしい闘気がまとわわりついている。これが、人類最速の乙女、疾風の女剣士キーラをほふった技か!

 

 一瞬、走馬灯そうまとうのように俺に好意を寄せていた美しく可憐な美女の姿が浮かんだ。

 「ゼロくんの第二夫人、予約しますね」と可憐に微笑んだうるわしの乙女、その彼女を消し去った力。


 魔王の切り札とも言える技だ。

 空間を転移して攻撃する一撃必殺の技なのだ。


 だが、俺も勇者、その直感で繰り出された爪の一撃を薄皮うすかわ一枚でかわしていた。


 女剣士キーラが目の前で消えゆくところを見ていなかったら……、初見しょけんだったらやられていたかもしれない。俺はまたも彼女に救われた。


 「ちっ!」と舌を打つ魔王の後ろ姿。

 ちょっと前のめりにつまづき気味になったところをまたも凝視してしまった。


 こっちも攻撃を避けるため力み過ぎてまたもパワー全開である。当然モロ見え! しかもこんどはバックからである。


 魔王が前のめりになって転びかけたせいで、もろに俺にお尻を向けた格好だから、スローモーションで目の前に突き出されてくる美尻からの脚線美、その一部始終が……。す、凄い。俺は鼻血を押さえた。


 魔王は俺の変化には気づかず、再度、間合いを取って身構えた。さっきの後ろ姿は強烈に目に焼き付いた。しかも、その苛立いらだった顔は正直かわいい。


 「お前の攻撃は全て見切った! あきらめろ!」


 「何を言うか! 勇者め! まだだっ! 欲望で世界を支配しようという人間なぞに私が負けるわけにはいかないのだ!」

 魔王渾身の捨て身の攻撃だ!


 その恐るべき突撃をかろうじて横にいなした瞬間、魔王の髪の毛の香しい匂いがふわっと鼻をくすぐる。

 ぼよおん、と胸が揺れるのがスローモーションのようになって目に焼き付く。


 魔王は世界中の男を惑わすこの世界一の絶世の美女なのだ。

 そのモロを……またもさっきの姿を思い出し、俺の動きはますますぎこちなくなった。

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