第2話 前かがみで戦いを!

 「見事なり……魔王……お見事だ!」

 俺は鼻を押さえつつ、声をもらした。


 いや、本当に見事なスタイルなのだ。


 これほどの美女がこの世にいたとは……。これが魔王でなければすべてをささげて恋人にしたいくらいだ。カワイイし美人だし、もろにタイプ、魅力ゲージが満点を突き抜けるくらいの乙女だ。


 「ど、どこを見て言ってるんだッ! この変態め!」

 いろいろな所を手で隠したまま魔王が叫んだ。


 なんだか心なしか魔王の顔がさらに赤くなった気がする。

 セクシーでエロ可愛い。


 ぽたぽた…………は、鼻血が止まらん。


 「勇者の動きがおかしい!」

 「状態異常でしょうか? 勇者はどんな異常にも耐性があるはずなんですが、未知の攻撃ですか?」

 「勇者殿! ちっ、魔王め! おそらく何らかの精神攻撃じゃな! ボータ、支援魔法じゃ!」


 なんか勘違いしたドワーフのおっさんたちの声が背後から聞こえてくる。


 「ゼロ様! えーーい、勇敢なる魂の鐘の音です!」


 不意にゴーーンゴーーンと教会の鐘のような音が鳴り響き、神官ボータが俺に精神耐性の魔法をかけたが、違うんだよな。

 かえって冷静になると余裕が生まれるので、魔王の全裸を隅々までガン見してしまいそうになる俺がいる。


 「スタミナ回復です――っ!」

 杖を振り上げたボータの声で俺の全身が淡く光る。

 だから、いらんことすんなって! ただでさえ前かがみなんだぞ。ここでもりもりと過剰回復とか。


 神官ボータが、どうですか! みたいな顔でキラキラした目をこっちに向けている。これは不味まずい。


 「力がみなぎるーーーーーーっ!」

 もちろん演技だ。


 せっかく仲間が残り少ない力を振り絞ってくれたのだ。効果がなかったとがっかりさせるのは良くない。


 俺はぽたぽたと鼻血を流しながらも、はったりで両手を開いてけ反って見せた。


 だが、本当にビンビンだ!

 うおっ、増々みなぎってきた。しかもボータ君の頑張り過ぎだ! かなり強力なやつがもりもり来た!


 魔王の恥じらいながらも勝気な様子が萌える。


 戦闘とは全然関係ないところの血流が早くなって精力増強! ドクンドクンと熱い力がとぐろを巻きながら一点集中、ついにバオーーと吠える。


 「バ、バカ勇者めっ! この変態っ! なんて物を真正面から見せつけるのだ! 股間も勇者級か! 自慢か?」

 魔王は顔が真っ赤だ。

 魔王の視線は俺の股間に一直線。

 そこから目が離せない、まさに釘付けだ。


 しまった、正面からだとギンギンに突っ張っているのが丸わかりだ。だが、それは俺も同じだ。自然と視線が魔王の豊満な胸元に吸い寄せられる。


 「ぐはっ! や、やるな……さすがは魔王……」


 たわわに揺れる美乳とちょっと生意気に天を突くポチが魅力的すぎるっ! 表情もかわいいし、もう何もかも忘れて、その胸に真っ裸で飛び込みたいくらいだ。


 これはヤバい、弱点透視はかえってこっちの集中力を削ぐ。

 落ちつけーー、落ちつけーー、とボリュームを絞ってみた。

 つまり術の効果を弱めてみたのだ。


 やればできるぞ、俺!

 おお、効果あり! ……いや、正確に言えば効果がしだいに無くなってきたんだけどな。


 薄っすらとしたランジェリー姿に戻ってきた。

 おおっ、しかし、これはこれで……。しまった、中途半端だと妙にスケスケでかえって不味い。


 「貴様、どうしてそんなに前かがみになるのだ!」

 「気にするな魔王! お前こそどうしてこっちをチラ見なんだ!」


 何も知らない仲間が息を飲んで見守る中、挙動不審きょどうふしんな二人が目を泳がせながらにらみあった。

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