豚紳士が元魔王のゴスロリ大聖女と行くレベルダウンの旅! 勇者を辞めても世界を守るのが運命かよ!

水ノ葉月乃

1.ラスボス魔王の討伐からはじまるプロローグ

第1話 いきなりの最終決戦はモロですよ!

 カキーン! 魔王城に剣戟けんげきの音が響く。


 「むむむ……」

 「ぐぬぬ……」

 俺と魔王はにらみあって剣を交差している。


 これぞまさに超定番、だーーれも期待していなかった魔王と勇者の一騎打ちシーンだ! 


 凄い技の応酬おうしゅうなんか、もういちいち説明するのもメンドクサイ。


 「くそっ!」

 こいつ圧倒的に強い!


 恐るべきは魔王の剣の鋭さ、そしてそのずば抜けた技の冴えだ。しかも同時多発で複数の魔法を駆使し、間髪を入れずに相手を翻弄する。その攻撃がどれだけ凄いか、俺にも余裕がないのであとはご想像にお任せする。


 床のあちこちに仲間のむくろが転がっている。

 信じられないことにいずれもマスター級の戦士だったのだ。一人でも魔王を倒せるだけの実力者と言われた英雄たちだ。それをこうも易々と葬り去った。これを見ただけでこの魔王の実力が知れるというものだ。


 (お前ら話が違うぞ! 数の暴力で魔王をボコボコにしてやろうと言っていた奴らが真っ先に死んでどうする!)


 俺は床に倒れているエルフが安らかに粉になって消えていくのを恨みがましくにらんだ。予想外の反撃を受け、生き残っている仲間たちは既に半数だ。


 何がおきたのか、簡単に説明するとこうだ。


 もう魔王の手下は残っていない、ここが魔王のだ!

 いくら強大な魔王でも数で押し通す、さあ攻め込め!

 うぎゃーーーー、罠だ! 待ち伏せだ!

 という事態なのである。


 魔王近衛騎士の待ち伏せを受けて混乱した仲間をあっと言う間に魔王が斬り捨てたのだ。その手際の良さ、さすがは歴代最強の魔王!


 まさか仲間たちの半数が、突入直後に魔王のたった一撃で瞬殺されるとは思わなかった。


 いつも偉そうなイケメンエルフの作戦大失敗である。


 そんなこんなで予定が狂って、こんなありきたりの魔王と勇者のグダグダの一騎打ちになっているのである。


 「死ね! 勇者、これで最後だ!」


 大上段から振り下ろされた魔王の剣、その凄まじい殺意のこもった切っ先が俺の顔面をかすめた。勇者覇気のオーラをまとっていなければ、その風圧だけで真っ二つだ。


 ちっ! 魔王め、真面目か!

 さすがは魔王の中の魔王と言われるだけのことはある。

 

 「今だ! うなれ聖剣! 聖なる光よ、魔王の弱点をあばけ! どおりゃあああああーーーー!」


 俺は渾身こんしんの勇者パワーを一気に炸裂さくれつさせた!  魔王の強攻撃きょうこうげきを避け、その刹那せつなにくり出したカウンター攻撃だ! 


 「ピンチの後にチャンスありだ!」

 聖剣が光る。攻防の間合いを突いた絶妙なタイミング!

 たとえ魔王でもこれは避けられまい。まさにこれが会心かいしんの一撃である!


 シュパッーーン!

 手元から放たれた神聖な光が瞬時に奥へとひらめき、凶々まがまがしい闇を払う。


 高次元の技の応酬、その一瞬である。攻撃直後で態勢を崩していた魔王は回避不能だ。その全身を聖なる光が包み込んでいった…………。


 「おおっ! 見ろっ!」

 「頼んだぞ! 勇者ゼロ! お主だけが最後の希望なのじゃ!」

 「我らの悲願を!」


 魔王近衛騎士との死闘を生き抜き、ボロボロになった仲間たちが玉座ぎょくざのある壇上だんじょうで繰り広げられている勇者ゼロ・カロリーと魔王カフェリンとの一騎打ちを見上げた。


 その瞳に映る勇者は俺だ。


 鎧、兜までピカピカと銀色に光る、恥ずかしいほどの勇者装備だ。きらびやかに輝く兜は目元までを覆うバイザー付のタイプで顔は鼻の下から口元以外は見えない。

 一方の魔王は全身を黒いもやで覆っており、二人はまさに明と暗、正義と悪、勇者と魔王のコントラストが凄い。


 仲間たちは既に立ち上がる気力もない。

 肩で荒い息を吐いているが、待ち伏せしていた敵を全滅させたらしい。

 その周囲で魔王近衛騎士このえきしの中身のないよろいが次々と蒸発していく。


 あとはこいつ、魔王さえ倒せれば!


 この世界をむしばんできた魔王の侵略がついに終わる。

 幾星霜いくせいそうにわたる人間と魔族との抗争に終わりの時が来たのだ!

 

 ちっ、俺も真面目か?

 つい真っ当な勇者のような事を思ってしまった。


 こんな時にタヌキ親父(国王)に洗脳されていた頃の考えが顔を出すとは俺もまだまだだな。


 「ぐっ! 耐えろ! 何のこれしきッ!」

 俺は奥歯をみしめ、魔王を包む暗黒のパワーに押し戻されそうになるのをこらえ、ぐぐっと聖剣を握る手に力を込めた。


 ここで決めなければ、ここまでやってきたことが全て無になる! これまでどれほど多くの犠牲が!

 そう、これだけは俺の純粋な思い、魔王を倒したいという俺の力の根源だ。別にタヌキ親父(国王)のためではない!


 「ゼロくん……」俺の脳裏に優しい笑顔が浮かんではかなく消えた。彼女を失った時の埋めようのない底なしの喪失感そうしつかん。その彼女を目の前で殺したのがこいつ、この魔王なのだ! 


 「うおおおおーーっ! ここで決めてやるッ!」

 今、その想いを力に変え、聖剣が強烈に輝く!


 何かが爆散ばくさんした!


 聖剣から発せられた光が凄まじい轟音ごうおんを上げ、ついに魔王を飲み込み、全身を包み込んでいた暗黒のベールを吹き飛ばした!


 やったか! 仲間たちは俺の技に息を飲む。


 「ぐおおおお……」

 闇の防御シールドを失って徐々にその姿が見えてきた。

 だが、魔王はまだ大の字になってその光の奔流ほんりゅうを浴び続けて耐えている。


 さすがは魔王だ! シールドが消失したのになんという頑強がんきょうな抵抗力か!


 「ええい! 最大出力っ! これでどうだーーーーっ!」

 俺はこめかみに血管を浮き上がらせ、勇者パワーを全力で聖剣に注ぎ込む。


 「ぐあああっ、おのれっ、勇者めっ! だが、この程度の光で我がめっせられると思ったかーーーーっ!」

 魔王が絶叫した。


 「!」

 その瞬間、血しぶきが飛び散った。

 「!」

 魔王の周囲に真っ赤な血の玉が降りかかる!



 ブーーーーッ!



 思わず鼻血を盛大にいているのは俺、勇者である俺である。



 「…………」

 目の前で魔王がぽかんと呆けているように見えた。何が起きたのか魔王もわかっていないのだ。


 「くっそーー。とんでもないボン・キュッ・ボンの体をしやがって……!」

 俺は鼻血をぬぐって、鼻を押さえた。


 足元にぼたぼたと赤いしずくが落ちる。



 思いっきりモロだぞ、モロ!


 大の字で立ちはだかった魔王は物凄い美女だった。

 その神々こうごうしいまでのワガママボディが全裸全開マックスだ! 


 それを真正面から!

 しかも、この距離で、だぞ!

 手を伸ばせば触れることができるほどの近さであれをガン見したこっちの身にもなってモロ! 違った、なってみろ!


 弱点をあばくはずの光だったのだが……思ってたのと違う。


 聖なる光を浴びた魔王の服は完全に透けている。

 ぼよおおん、ぼよおおんと豊満な胸が揺れて目を奪う。

 その究極の美と完璧すぎるスタイル!


 しかも……俺の目は俊敏に上から下へと滑り落ち、もはやそこでくぎづけだ。目が離せない。


 「ぐおううーーーー、魅惑の無毛地帯がっ!」


 俺は片手で顔を覆うふりをして指の隙間から覗き見しつつ、け反って悶えた。


 「きっ、貴様! バカかっ! さては透視しておるな! この変態っ! 変態勇者! 乙女の敵っ!」

 さすがは魔王、乙女の直感ってやつか。

 俺が何を凝視して鼻血を噴いたかすぐに感づいたようだ。


 魔王は慌てて両手で胸を隠すと、内股ぎみに体をひねったから、完成だ! 全裸で恥じらう乙女の像!


 くびれた腰からお尻への妖艶すぎるラインがまたヤバい。

 目に焼き付いたさっきの姿が脳裏を支配して、もはやもんもんムラムラが止まらない。股間が大暴走を始めた。


 「ぐはっ! やるな、さすがは魔王だ……」

 俺は鼻血をれ流したまま、少し前かがみになった。


 うーーーーっと魔王は赤い顔をしてこっちをにらんでいる。


 これは動きづらい! 突っ張りすぎだ。

 仲間たちは真剣な表情で二人の戦いを見守っている。もしも仲間にこの状況がバレたりしたら、ずっとネタにされそうだ。


 「なにがさすがは魔王だ! バカーーーーっ!」 

 その魔王の恥じらいの表情がまた一段と……いかん、こいつ、思いっきりカワイイぞ!

 

 俺はこの最終決戦のさなか、かなり不味まずい状態異常に陥ってしまったのだ!





――――――――――


豚紳士の旅開幕です。

どうぞよろしくお願いします。

よろしかったらハート、星、プレビューお待ちしてます。

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