第6話 『依頼?』
今日はあと何回驚けばいいの!?
餌をもらう金魚みたいに口をパクパクとさせる。声はおろか言葉も出てこない。
『探偵ライセンス』はとっても難しくて、毎年一万人程が受けるけど、合格するのは五人ぐらいだ。受験資格に年齢は関係ないとはいえ、天坂先輩ぐらいの年で取るのはなかなかいないだろう。
「とはいっても、ライセンスをとったばかりだからまだ現場に出たことはないんだけどね。学業優先って言われているし」
「どうしてそんなに早くライセンスをとろうと思ったんですか……?」
天坂先輩は目を泳がせ、それまでのはっきりした口調とは違う、小さな声を出した。
「……捕まえたい人がいるから」
「捕まえたい人?」
聞き返したとき、がらりとドアが開いた。
夏織部長だ。
天坂先輩はまるで何事も無かったように本を開く。……もしかしたら、あんまり人に聞かれたくない話なのかな。
「やっほー! あ、花咲さん! 来てくれたんだね!」
「おじゃましてます」
「あれ、椎名さんは?」
「運動部の先輩たちに捕まってしまって……」
「あー、なるほどね。大変だ」
バッグを置くと、夏織部長はばしばしと天坂先輩の背中を叩いた。
「ねえねえねえ、知ってる!?」
「背中の痛みの原因なら知っていますね……」
「そういうんじゃなくて!」
天坂先輩の苦情はさらりと流された。
「深月、部長をなんとかしてくれ……。途中で会ってここに来るまでずーっとおんなじ話をしているんだ……」
げんなりとした顔で後から入って来た藤宮先輩が言う。
ズレた眼鏡を直しながら疲れた顔でため息を吐く。
「どうかしたんですか、部長」
「依頼が来たの! 探偵部に!」
「依頼?」
わたしも天坂先輩も頭にはてなを浮かべる。
「探偵部って、そういうお仕事をするんですか?」
「しないしない。『探偵ライセンス』持ちがいないとまず依頼がこないからね」
「……俺のデータでは、二十年以上前に高等部の生徒が『探偵ライセンス』を持っていて、何回か探偵部で事件を解決したらしい」
藤岡先輩はパソコンの前に座る。
なんというか、それぞれ自分の場所があるのだろう。
「その生徒が卒業してから依頼はない。なんせ『探偵ライセンス』を学生中にとるほうが稀だからだな。そうだろ、深月?」
にやりと笑って藤岡先輩は天坂先輩に話を振る。
どう答えるのだろうと横目でドキドキしながら見ていると、天坂先輩は同じようににやっとした。
「トオルも早くライセンスとればいいのに」
「俺は学校以外で勉強したくないからヤダ」
「好きなことは夜中まで勉強しているくせに?」
「それはそれ、これはこれだよ」
話において行かれていると思ったのか、部長はくるりとわたしを振り向いた。
「探偵になるためには『探偵ライセンス』っていうのがあってね、筆記と実技で高得点を出さないともらえないの」
「へ、へえ……」
すでに知っていますとは言えなかった。
うう、流されやすい性格をなんとかしたい……。自分を強く持ちたい……。
「ね! 深月くん!」
「そうですね」
「反応がうすい!」
「べつに隠していないからもったいぶらずに教えていいですよ。僕が『探偵ライセンス』持ちだって」
「えー!? 自分からは言わないくせに!」
「えっと、あの……」
もう教えてもらったことを話そうとしたとき、天坂先輩は自分の唇にそっと人差し指をあてた。
――だまっていて。
少しだけ笑っていた彼へ、わたしはコクコクとうなづくしかできなかった。
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