第2話 『青い扉の向こうには』

 待ちわびた放課後。

 チャイムが鳴るとすぐにわたしは荷物をまとめて立ち上がった。


「しゅっぱーつ! で、どこに行けばいいの?」

「しゅっぱーつ。うん、えっとね、まずは第二校舎へ行くよ」


 中等部のある第一校舎と高等部のある第三校舎は別れている。

 だけど第二校舎という、ふたつの校舎の真ん中にある校舎は大教室や視聴覚室、カフェテリアがあり共用スペースとなっているのだ。文化部の部室もほとんどがこの校舎に集まっている。

 昇降口にいったん降りてから第二校舎へ向かう。

 あちこちの壁に部活動や同好会のポスターが貼られておりにぎやかだ。クラスでも仮入部はどこにするかという話題で持ちきりだった。


「こはくちゃんは、どこの部活にするか決めた?」

「アタシ、新体操スクール通っているから部活には入らない予定。ノバラは?」

「まだなんにも考えていなくて……」


 実は今日配られた部活動パンフレットをまだ読み切っていない。

 どれも魅力的で楽しそうだけれど、今のところ直感的に「これだ!」と思うものが無かった。

 強制的に入らなくてはいけないわけはないけど……でも放課後に部活動をするということに憧れてはいる。

 そんなことをかんがえているうちに、わたしたちは第二校舎の三階にたどり着いた。

 廊下はしんと静まり返っている。


「ここ、昨日オリエンテーションの校舎案内で通ったところだよね」

「うん。多目的室がある場所。ここに、きっと差出人はいるはず」


 等間隔に四つ並ぶ引き戸の扉には、それぞれ色が塗られている。

 手前から、赤、緑、黄色、青。先輩たちは「赤の間」「緑の間」と呼んでいるそうだ。

 わたしは廊下の奥へ歩いていく。

 赤の扉、緑の扉、黄色の扉――心臓がどきどきと音をたてていく。いよいよ青い扉だ。

 扉にはめられたガラスは内側から布で覆われており、中の様子を見ることは出来ない。

 ノックをしようとして手が止まる。


「ノバラ? どうしたの?」

「うう、間違えていたらどうしよう……」


 こはくちゃんは笑って背中をばしばしと叩いてきた。


「そうしたら片っ端から教室を探していけばいいじゃん!」


 力技な意見だったけれど、彼女の明るさにわたしは少しだけ自信を取り戻した。

 深呼吸をして扉をノックする。


「だ、誰かいませんか?」


 そう声をかけると、ガラリと扉が開いた。

 そこに立っていたのは男の子だった。ネクタイの色からわたしたちの一つ上、中等部二年生だと分かる。


「こ、こんにちは」

「こんにちは」


 わたしは慌てて上擦ったあいさつをした。

 彼は驚いた様子もなく、おだやかにわたしたちを見ている。


「ここに何のご用かな」

「あ、えっと、この封筒がわたしの机に置かれていて……。それできっと、ここではないかと思ったので来ました」


 カバンの中から慌てて青色の封筒を取り出して見せる。

 すると男の子の後ろからひょこりと女の人が顔を見せた。こちらは高等部の制服を着ている。


「大当たりだね、天崎くん」

「そうですね部長。ふたりとも、中へどうぞ」


 わたしとこはくちゃんはお互いの顔を見て頷き合ったあと、室内へと足を踏み入れた。

 中は、小さな図書室といった印象だ。

 いくつもある本棚には図鑑や難しそうな本がぎっしりと並び、黒板や移動式ホワイトボードにも暗号のようなものが書かれている。教室の隅にはパソコンまで置かれていた。


「まずは自己紹介をしようかな。私はこの部活の部長をしている、高等部一年生の石墨夏織だ。気軽に夏織部長と呼んでくれ」

「僕は中等部二年生、天坂深月」

「ほら藤宮くん、君も自己紹介して」


 夏織部長に言われ、パソコンの前に座っていた人はしぶしぶ口を開く。


「……中等部二年生、藤宮トオル」

「これで部員は全部だ。少ないだろう? さて、次は二人の自己紹介も聞いていいかな?」

「はいっ」


 ハキハキとこはくちゃんが答える。


「椎名こはくです!」

「わ、わたしは、花咲ノバラです」


 緊張して小さい声になってしまった。

 ぎゅ、とポケットごしに「お守り」を握りしめる。知らない人の前で何かを言うことは、少し、苦手だ。


「花咲? 花咲ってもしかして……」


 天坂先輩は首を傾げた。

 わたしはどきりとして慌てて話題を変える。


「あのっ、ここはいったい何という部活なんですか?」

「うんうん。気になるよね。では教えよう!」


 夏織部長は劇かかった口調で話し出す。


「日本で唯一、そして協会公認! ――へようこそ!」



 

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