第三者・救出作戦

「生きたければ着いてこい!俺達は味方だ!」


強気の口調で弥稜の手を引っ張る赤髪の女。


「え、えぇ?急に言われても」


状況が理解出来ず困惑する弥稜をよそにぶっ飛ばされ頭から血を流した男達が拳銃をこちらに向ける。


「動くな!大人しくこちらに来い!」


今この男達に連行されるか、彼女たちに着いていくか、そんなこと迷うことでもない。


「…クソ!もうどうにでもなれ!」


「今だ!出せ!」


半ばヤケクソで装甲車に乗り込む弥稜。赤髪の女性の合図と共に装甲車は走り出す。


「っち!こちら捕獲班、邪魔者が入った、赤髪の女、間違いない『狂拳士(きょうけんし) 』だ。追跡を行う、戦闘の許可を」


男はトランシーバーの向こうにいる相手にそう伝える。


「ふぃー危なかったぜ、まさに危機一髪だな!」


弥稜を助けてくれた隣の女性が座席の背もたれに両肩を乗っけ足を組んでいる。硬毛赤髪でポニーテール。黒いパーカーの下にだらけたTシャツ。膝の辺りまである穴が空いたジーンズを履いている。

どうにかこの手錠を外そうとするがとても頑丈で壊れそうにない。苦戦しているのに気付いた赤髪の女性はデコピンでいとも簡単に手錠を破壊した。


「あ、ありがとうございます」


「うふふ、もう少し遅かったら間に合わなかったわ」


弥稜がお礼を言うと運転席の女性が話し出す。金髪長髪で白いワンピースを着て、どこかご令嬢をようなオーラを放っている、 とても運転手には見えない。


「俺はアイラ、そっちはミラ。詳しい自己紹介は後だ、とりあえず追手から逃げ切るぞ!」


指をポキポキと鳴らしなから窓を開ける赤髪の女性。


「追手?」


弥稜が後ろを振り向くと窓から上半身を乗り出してロケランや小銃を構えたさっきの男達が迫ってきていた。


「うわあ!」


「あらまあ、後始末は任せたわアイラ」


「おう!」


映画のワンシーンの様な光景に一瞬飛び上がりそうになる弥稜をよそに楽しそうに微笑むと山道にハンドルを着るミラ。アイラは窓から上半身を乗り出して奴らに両手先を向ける。


「死ねええぇぇぇぇぇぇ!!」


ドガガガガガガガッ!


アイラの肩が光ったと思ったら突如爆発し、手先から小さい衝撃波が無数に弾丸のように飛んでいく。

彼らの車の窓ガラスが割れ、コントロールを失いガードレールに衝突し崖から落ちる。


ズガガガガガガガッ!バゴンッ!


奴らも負けじとミサイルや小銃を打ってくる。


「うわああ!」


頭を押さえ縮こまる弥稜。車内からでも弾丸と車体がぶつかり合う鋭い金属音がはっきりと聞こえる。

ロケランがトランクにぶつかり車体が前に押し出される。


「怯えなくていいわ、このベンツはRPGやICBM、トマホークのには耐えるくらい頑丈なのよ?」


「何処からそんな車を!?」


「駐屯基地から盗んできた!」


「これ自衛隊の!?」


「借りただけよ、こっそりね」


アイラの窃盗発言に叫喚する弥稜に弁解しながら崖っぷちの急カーブを凄まじいドリフトで突っ切る金髪の女性。


「そしてなんでこの人はこんなに運転が上手いのぉぉ!?ぼへぇ!」


慣性の法則により窓に顔をぶつける。その後、何度もカーブを曲がり車内が激しく横にシェイクされる。山を降りても奴らはしつこく追ってくる。奴らは銃が聞かないとわかると手から火球や光線を打ってきた。


「何あれ!?あんな攻撃でも、大丈夫なんですよね?!」


弥稜は後部座席から乗り出すように質問するがミラはこちらに振り向くと垂れ汗流して舌を出し頭を拳でコツンと当ててテヘペロと呼ばれる表情をした。


「…魔術は無理☆」


「不味い!!ミラ避けろ!!車が溶ける!!」


「いやあああああ!」


鬼気迫った表情でミラに怒号を放つアイラ。突然頼もしく無くなった二人を見て錯乱状態になる弥稜。ミラは飛んでくる火球や光線をギリギリのところで左右に避けて何とか持ちこたえる。


「くっ、まくわよ!」


ミラは山道を降り一般道で向かう。商店街や住宅の細道を走っているのにも関わらず、外れた攻撃が電柱やビル、他の車や人々に当たってもお構い無しに打ってくる。


「あんま動くな!照準が定まらねぇ!」


「無茶言わないで、もし当たったら車体ごとぶっ飛ばされて弥稜君が死んじゃうわ!」


「え?どうして俺の名を?」


初めて会った人が自分の名前を知っていることに違和感を覚える。


「えーと…」


「いいから黙ってろ!喋るなら仕事しろ!」


ミラが言葉を詰まらせ困っているとアイラが弥稜を怒鳴りつける。


「え、えぇ」


弥稜は内心で何をすればいいんだよと思いながらもそんなこと聞けるような相手ではないと思い留まった。


「シートベルトしなさい!」


覚悟を決め住宅街にハンドルをきるミラ。道の幅がとても狭く、乗用車一台がやっと通れるほどだ。そんな道を通常の1.5倍サイズの装甲車は猛スピードで走る。左右には車高より高い塀があり、曲がり角から人が出てきても気づけないだろう。


「あ、危ないですって!」


「あぶねえのはお前だ!座ってろ!」


弥稜は前に乗り出してミラに喚起するが、裸足で弥稜の髪をつかみ後部座席に座らせるアイラ。


「あれを見てもそんなことが言えるかしら?」


ミラが後方を顔で指す。振り返ると奴らは塀に車体を半分めり込ませながら打ってくる。まるで初めから壁なんて存在しなかったかのように。


「ちぃ!『FENT(フェント)』の車は厄介だぜ!」


「あれ、どうなってるんですか?ビルの壁も走ってたし」


「あいつらの車は魔術で有機物以外を無効にするのよ、要するに魔術と生き物以外は貫通するわ!」


「魔術?さっきから何を?」


弥稜が素朴な質問を投げかけようとした。その刹那。右側の脇道からボールとそれを追いかける小さい少女が出てきた。


「きゃあ!前から幼女が!」


躱そうと思っても隣が塀で身動きが取れない。まさに絶体絶命。


「クソが!ガキから目を離すんじゃねぇ!」


罵倒しながら地面に両掌を向け手のひらを爆発させるアイラ。


その爆風で車体が横に傾いて左側だけの車輪で走行する。少女もこちら側に気づき、固まって目を瞑る。傾いた車は少女の頭上をスレスレのところで交わし着地して再び走り出す。

奴らは塀の中に入り切って交わす。


「助かったわ…ありがとうアイラ。これ以上一般人を巻き込む訳には行かないわ!高速にいくわよ!」


言い訳するアイラをよそにスピードをあげ、装甲車は高速に向かって走る。追手たちも彼らに続いて高速にのる。窓から高級車の上にスーツを着た男が乗ると片手を指鉄砲の形にして先程の火球とは桁違いの大きさの火球を打ってきた。

バス一台ほどの規模でこの車などすっぽり入ってしまいそうなくらいだ。見ているだけでも熱気が伝わってくる。


「やばい!あんなの打ち返せねぇ!」


「何とかしなさいよ!なんのための破砕魔法よ!」


弱音を吐き、汗が頬をつたるアイラにミラが文句を言う。


「うるせぇ!俺が打ち返したらここ一体が荒地になるだろうが!お前の光装魔術で守ればいいだろ!」


「運転中よ!無理に決まってるわ!」


二人が責任を擦り付けあってる中、火球はどんどん迫ってきている。


「一か八かやってみるしか生き残る道はないわ、二人ともしっかり捕まってて!」


「何をする気だ!」


アクセルを思い切り踏み込みスピードをあげるミラに作戦を問いながら座席に戻るアイラ。


「黙ってて!…あと少し!」


火球はもう眼と鼻の先まで迫ってきている。両手で頭を抱えながら悶絶する弥稜。


「乗るんじゃなかったああ!!」


「ここよ!」


待ち望んだかのようにハンドルを横にきり寸前のところで火球を躱す。高速のガードレールをぶち破り下の一般道に落ちる。あまりの無茶ぶりさに青ざめ衝天する弥稜。三人が一瞬浮いたと思ったらすぐさま下の一般道に着地する。上の高速道路が爆発し破片が飛散する。

一瞬コントロールを失ったと思われたがすぐに立て直し走り出す。


「た、助かった…?」


意識が戻った弥稜は一瞬何が起きたのか分からなかったが生き残ったことは理解できた。


「成功よ!やったわ!」


ミラが喜んでいるのもつかの間。それでもなお追手は追いかけてくる。


「チッ!しつけぇな!『焔覇焼絶殺(フル・インフェルノ)』!」


ギュバアアアンッ!


再び窓から上半身を出すと肩を爆発させ手のひらから燃える光線のような炎柱を繰り出すアイラ。奴らの車に命中すると大爆発を起こしその爆風で弥稜達の車が揺れる。


「アイラ危なかったじゃない!」


「結果オーライ」


悠々と座席に戻るとまたもやふんぞり返って座るアイラ。まるで俺のおかげだと言わんばかりの。


「帰りたい…」


窓の外を見ながら愚痴をこぼす弥稜の瞳からは一筋の涙が流れていた。


「助けてやったんだから感謝しろよ!」


焦燥する彼女の肩は爆発したので服が焼け焦げている。


「あーあーこの服結構気にってたのにな」


二の腕と鎖骨辺りまでの服がなくなっている。装甲車はしばらく一般道を走り続ける。


「あの…この車はどこに向かってるんですか?」


「あ"?」


弥稜はアイラの逆鱗に触れぬよう慎重に話しかけるがメンチを切り明らかに威圧した声でこちらを凝視し突き放される。


「あ、いや…」


どうやら何を話しても無駄なようだ。弥稜は目線を逸らすと肩を竦め縮こまる。


「そんなきつく当たらないの」


「ちっ!弱い男は嫌いだ!」


二人の仲裁に入るミラにアイラは舌打ちをして愛想を悪くする。


「あなたより強い男なんてそうそういないわ」


「…その髪はもう治らないんだな」


弥稜の白い髪を見ると突如会話と何も関係ない問いを投げかけるアイラ。


「え?あ、これは生まれつきなんで。よく言われますが気にしないでください」


話しかけられると思ってもいなかったので少々返答に時間がかかる。


「…そうか」


少しの沈黙の後、何やら意味深そうに窓に視線を戻すアイラ。


「ん?」


急に汐らしくなったアイラに首を傾げる弥稜。


「あ、そうそう私たちはこれから本部に向かうわ、貴方もよ弥稜君」


「え?本部ってなんですか?というか警察と師匠に連絡を」


ミラの説明に弥稜がスマホを取り出そうとするとアイラが彼のスマホを取り上げる。


「その心配はない、エリナも今頃本部についてるころだろう」


「え?師匠が?」


弥稜は何故この人たちが師匠のことを知っているのか、師匠がこんなヤバそうな人達と知り合いなのかと色々憶測を立てる。


「たっく、あいつなんも話してないのかよ」


手を頭の後ろで組み呆れた様子でため息をつくアイラ。


「弥稜君を戦いから避けるためでしょうね」

「さっきから何の話を…」


「そうだな自己紹介がまだだったな」


理解が追いつかない弥稜にそう言うとアイラは体をこちらに向けて語り出した。


「俺はアイラ、アイラ・アヴァンティカ。エリナとは幼なじみみたいなものだ。そして、お前を助けてやった女の名前だ、覚えとけ。忘れたら殺すぞ」


「私の名前はミラ、ミラお姉ちゃんって呼んでね☆私たちはエリナとは幼少期からの馴染み、姉妹みたいなものよ。よろぴくネ☆」


「は、はぁ…」


「おい、お前その歳でお姉ちゃん呼びさせんのかよ。さすがの俺でも引くぞ」


「なによ、別にいいじゃない。エリナに育てられたんだから私たちだって姉みたいなものでしょ?」


「そこは叔母の方が正しくねーか?」


「うふふ、面白いこと言うわねアイラ」


「あ?俺は面白いことなんて何も…」


アイラが言いかけたその刹那、装甲車の厚いフロントガラスが光速で蹴られる。


「光の速度で蹴られたいのかしら?アイラ?」


ゆっくりと振り向き、笑顔をこちらに向けてくるミラ。額に汗が出始めるアイラ。


「姉だな、うん。わかったか?弥稜?」


「え?は、はい」


突然の確認に困惑するがアイラの表情から推測して合わせないととんでもない事になりそうなのは明白だろうと悟り頷く弥稜。


「もうすぐで着くわ、ほら見えた」


高層ビルを指さすミラ、ビルの看板には帝国銀行と書かれていた。


「え?あのビルですか?」


ビルは全体がガラス張りでひと目で大企業の建物だと分かる。


「正確には違う」


弥稜の問いに答えるアイラ。弥稜の頭の中に『?』が浮かぶ。口角を上げるとミラはビル目掛けてスピードを上げた。


「…ミ、ミラさん?」


嫌な予感がする。とても、いや非常に嫌な予感が絶対する。アクセルを踏みさらにスピードをあげるミラ。


「行くわよ〜★」


「止まってえええ!」

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