第二者・拉致(らち)
「こちら偵察班、目標を見つけた。あぁ白黒の髪に赤眼、間違いない、『神喰らい(かみぐらい)』は確認できないが絶対に捕まえろ」
トランシーバーの相手にそう伝える。未稜は近くでお菓子でも買おうかと渋谷のスクランブル交差点を歩いていると、前方の道路から反対車線なのに突っ込んでくる黒塗りの高級車を数台目撃する。他の車にクラクションを鳴らされてもお構い無しのようだ。そのまま交差点にいる弥稜目掛け突進してくる。
「え?ちょちょちょちょちょ!ッ!危な!」
紙一重寸前で避け、走り出す。高級車は悲鳴を上げ逃げ惑う一般人をお構いなしに跳ね飛ばし弥稜目掛けて迫ってくる。
「いったい何なんだよ!俺が何をしたってんだ!」
駅に戻り慌てて止めておいた自転車に乗り一般道を駆け抜けると突然横から先程の車が飛んできて弥稜の前に止まる。
「危ねぇ!」
急ブレーキをしながら避け、走り続ける。するとしびれを切らしたのか背後に周り車体ごと体当たりしてきた。車体が前に押されバランスを崩しかける。
「なんなんだよ!こいつら殺す気か!」
それでも弥稜は奴らの体当たりを避けてビル間の小道に逃げ込む。だが何をとち狂ったのか高級車はそのビルの間の道に躊躇なく突っ込んできた。
「馬鹿だな!車が入れるほどの幅はないぜ!」
弥稜は得意げにしてやったぜという表情で車が事故るのを見届けるが、ぶつかると思った車はビルの側面を貫通して突っ込んできた。半分だけビルにめり込んだように見える。他の車はビルの側面を地面のように走る。まるで重力がこっちだと豪語しているかのように。
「ええ!?どういうことおおお!?」
突然のありえない情景に目を白黒させる。圧倒されていると側面を走っていた車が弥稜の頭上まで迫っているのに気がついた。車内を見て、何食わぬ表情で運転している男に気を取られていると弥稜向けて下に体当たりしてきた。
弥稜は慌ててブレーキをかけ難を逃れると横道に逸れる。何度も旋回して奴らを巻こうとするが奴らには壁という概念が無いのかどうしても追いつかれてしまう。大通りが見えてきたところで、後ろの車が発砲してきた。弾丸は自転車の車輪に命中しパンクして変形する。
「師匠からの入学祝いだったのにいいい!」
言っていられるのもつかの間。自転車はバランスを失い転がる。空中で勢いを止めることも出来ないので弥稜はそのまま大通りの道路に投げ出される。
「ッ!いってぇな!このやろう!」
地面を転がり立ち上がろうとしたらすかさず黒塗りの車達が彼の周りを囲む。完全に退路を絶たれてしまった弥稜は慌ててスマホを取り出そうとすると高級車からスーツ姿でサングラスをかけた屈強そうな男達が出て来た。
「俺に何の用だ!自転車弁償しろ!」
すると男は無言で懐から出した拳銃を弥稜に向ける。
「え?」
目の前に日本とは無縁の非現実的な物を向けられ弥稜は硬直する。
人間、急に死が迫っても理解が追いつかないとこんなにもあっけらかんとしてしまうものなの。
「Put your hands up!クライアントの命令だ。澄月弥稜、お前を拉致する。大人しく同行しろ」
銃を向けた金髪の筋肉マンが硬直している弥稜に手錠をかける。ずっしりと鉛の重みを感じる。
「くっ!なんなんだよこいつら…」
しばらく沈黙していると突然。
弥稜の後ろにある車が爆発し、車と共に男達が前方に吹っ飛ばされた。後ろを振り返るとそこには一台の装甲車がいた。後部座席のドアが開けられたと思ったら、赤髪の女性が手を伸ばしてきた。
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