第一章 新生活

第一者・登校

「…ッ!…かど!」


遠くから微かな光と女性の声が聞こえる。その声のする方向に恐る恐る手をのばすと眩い光に包み込まれる。


「未稜(みかど)!」


自分を呼ぶ声で目を覚ますと目の前には銀髪赤眼、紺色のエプロンの下に、無地の白茶色の服に着こなした美女がいた。


「いつまで寝てるの!もう七時だぞ!今日から高校生だってのに初日から遅刻なんてさせないからな!」


プンプンと顔を膨らませながら話す彼女の名はエリナ・ルース・オーグレーン。青年の師で彼自身は実の親のように思っている人だ。


「わわ!もうそんな時間!?早く起こしてって言ったでしょ師匠!」


ベットから飛び起きると青年はパジャマを脱ぎながら慌てて洗面所に走る。


「さっきから起こしてるのに起きないあんたが悪いんでしょ!全くこの子は…」


呆れ顔で青年の制服とバックを持ってリビングに向かうエリナ。

青年は顔を洗うと鏡に写る自分を見る。そこには髪の右半分が白掛かっている歪な青年の姿があった。


「はぁ〜この髪どうにかならないかなー。ま、生まれつきだからしょうがないか」


彼の名前は澄月未稜(すめらぎ みかど)。昨日、日本に引っ越してきたばかりの十六歳だ。

歯磨きを済ませると急いでリビングに向かい制服に着替える。


「飯は?」


「いい!そんな時間ない!」


テーブルにのせられた朝食を指さすエリナの話には見向きもせずに玄関に行き靴を履く弥稜。


「もう!せっかく作ったのに!」


「帰ったら食べるよ、わ!もうこんな時間!行ってきまーす!」


頬を膨らませ腕を混んでそっぽを向くエリナを宥めながら颯爽と玄関を飛び出す。そんな彼の背中を彼女はただ見守ることしかできない。


「…まだまだ半人前だな」


見届けると両手を胸まで持ってきて添える。


「大丈夫、奴らにはバレてない、なんのために日本に来たの」


エリナは自分にそう言い聞かせエプロンを脱ぐと自室に入っていった。

弥稜はアパートの階段を駆け下りる。

駐車場に駐輪してある自分のチャリに乗り住宅街を突っ切る。

そんな未稜の横切る姿をマンションの駐車場にある黒塗りの高級車の中から見ているもの達がいた。

しばらく住宅を進み大通りに出ると目の前には駅が見える。駅で自転車を止めると走って改札口を通る。駅のホームに着くと丁度電車が来た。ほぼ満員の電車に揺られ未稜は外の景色を見る。

高層ビルが群れをなして高さを競い合っている。電車はそのビルどうしの間を走る。空にはドローンが飛び回り、広告は宙に浮いている。まさに近未来のような光景だ。

駅を降りると走って今日から自分が通う彩野高校に向かう。高校に着くと丁度鐘がなった。

職員室に行くと昨日会った担任の巣藤明美(すどうあけみ)先生が待っていて少し怒られた。

黒髪長髪でツンとした瞳、新米の先生で校内でも人気があるらしい。

明美先生に誘導され教室に向かう。


「ここで待っててね呼ばれたら入ってきて」


俺に教室の前で待つように言うと担任が教室に入り、教卓に両手を着いて話し始める。


「えー突然だが、転校生が来た、諸事情で前もって言えなかっ…」


「「「「わー!きゃー!えぇ!?」」」」


担任が話してる途中で生徒たちが興奮して話を遮る。


「うるさい!静かに!人が話してる最中でしょうが!」


怒号を上げた担任が教卓を叩き割ると破片が飛び散り教室が静まり返る。


「やべ、『精製(リファイン)』」


慌てて教卓の破片に触れると先程まで原型を留めていなかった教卓が元の形に戻す。

「えーなんだ、とりあえず入ってきなさい」

扉を開け教室に入ると生徒たちの話し声が微かに聞こえる。

彼らの会話を無視してホワイトボードに名前を書く弥稜。そして書き終えると、皆の方向に向く。


「えー澄月未稜(すめらぎみかど)です。両親の都合で今まで海外にいました、純日本人です、日本のことはあまりよく知らないので良かったら教えてください。」


「はい、拍手!」


担任の合図で教室に拍手がまばらに聞こえる。時期外れの転校生だ、色々な憶測を立てるだろう。


「えーそれじゃあ澄月くんの席は窓側の一番後ろでお願いね」


席に向かって歩き出すと皆が顔よりもその髪に注目しているのが分かる。

そこまで見なくてもいいだろうも思いながらふんぞり返って椅子にすわりホームルームが始まる。担任の話をしばらく聞いているとチャイムが鳴った。


「澄月君に優しくしてあげなさいよ〜」


最後に余計な一言を口ずさみ教室を後にする明美。

ホームルームが終わり担任が教室から出ると何人かが俺の机に来た。

日本は他者に冷たい国だと聞いて、てっきり無視されると思っていたから驚いた。

チャイムがなり、先生が入ってくると皆急いで席に着く。

その後も、休み時間は質問攻めだった。

昼休み、皆が来て一緒に食べた。皆で食べると楽しんだなあとしみじみ感じた。今まで師匠以外の人とほとんどコミュニケーションを取ってこなかったので正直不安だったがどうやら考えすぎだったようだ。

皆で話している時、突然隣の席の女子に話しかけられた。


「ねぇ」


「な、なんでしょうか?」


不意打ちで少々驚いたが未稜はクールに答えれたはずだと思った。


「あなたの両親は海外にいるの?」


紅がかった黒髪長髪で左右を三つ編みで結び後ろで縛っている。瑠璃色の瞳、綺麗な顔立ちをしている。


「いや、海外にいたけど今はこっちにいるよ。しばらくしたらまた、戻ると思うけど…」


「…」


エリナに言われた設定どうりに話す未稜だが女子生徒は反応すること無く突然黙り込む。


「どうかした?」


弥稜は女子生徒が黙るので顔の表情を見ようと前かがみになると突如こちらに顔を向け一言呟いた。


「違う…」


「な、なにが?」


「あなたに両親は居ない…」


女子生徒の指摘に彼は動揺した。エリナと一夜漬けで考えた設定を見破られたのかと。


「…どういうこと?」


「あーごめんな、こいつ不思議ちゃんでたまに変なこと言っちゃったりするから気にするな」


様々な憶測を立てながらも恐る恐る問うと弥稜の前に座って昼飯を食べていた男子が弁解するがそれでも女子生徒は追求してくる。

「だってあなたの両親は…」


「勝手に人の両親殺すな!一回保健室で休んでろ!」


男子生徒の怒鳴り声に女子はビクッとし、下を向き黙りこんだ。

その後はこっちを見ずに授業を受けていた。

授業が終わるとクラスメイトに遊ばないかと言われたが用事があるといい断った。校門を出て駅に向かって歩く。電車に乗り渋谷で降りる。


その様子を高層ビルの屋上から双眼鏡で捉えている者がいた。

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