ブラックリスト

九月ゑゐ

プロローグ

・・・・・。


赤い雨が降っている。崩壊したビルや溶解した住宅、辺りは燃え、火の海と化している。


「…はぁはぁ」


まさにこの世の終わりを具現化したような状況だ。

そんな中、一人の青少女が白い毛布に包まれた何かを抱きかかえながらひび割れ褶曲した道路をおぼつかない足取りで歩き続ける。

涙ぐみそうになり唇を噛みしめるが鼻の奥がツーンと痛み、目の縁から涙が染み出てくる。

喉は腫れ上がって、うまく呼吸ができない。言葉も紡げなくなって、無理矢理開こうとすると今度は胸腔の辺りに圧迫感を覚える。 喉は張り付いたように、動いてくれない。

人々のもがき苦しむ姿や逃げ惑う様子は見られない。そう、みんなとっくに死んでしまったのだ。

抵抗出来ずに一瞬のうちに消えていった。


「…ああぁ」


底知れぬ絶望と悲しみが混ざり合い言葉を失う。

道と言えない道を歩いていると突如床が陥没する。

バランスを崩し、道路を転がる。糸の切れた操り人形のように溝の赤い水溜まりに身を叩き付けられる。

その弾みで必死に抱いていた毛布を離してしまう。

目と鼻の先に転がったが彼女にはもう立ち上がる気力も残っていない。すると、無造作に捨てられた毛布から赤子の泣き声がする。


「…今行くから…泣かないで」


彼女は深呼吸するようにゆるやかに息を吐きながら、かすれた声で喋る。その深い息の底に吸い込まれてしまうのではないかと心配になるくらい、はかなげな声だ。

体を引きずりながら這いずるように赤子の元により優しく包み込む。

赤子は彼女の顔を見ると笑顔になる。その笑みを見ていると自然と朗らかな表情になる。


「ふふ、この子笑ってるわ…ついさっきまで死にそうだったのに、本当…不思議な子」


赤子の額に泣き顔をうずめると赤子は厭忌することなく静かに答える。

赤子の柔らかい手が彼女の頬に触れ、彼女はそれを愛おしそうに自分の手のひらにしまう。

雨音と少女の欷泣が銷魂した世界に響き渡る。


_その日、首都圏は壊滅し日本は人口の約三割を失った。

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