第7話:騎士は選択肢に迷う
ギーザとの絶交フラグを折るため、俺は慌ててカインを追いかけることにした。
捨てられた犬のような哀愁を漂わせながら、トボトボと寮室へと戻るカインを見つけたが、正直なんと声をかけるべきか戸惑う。
この落ち込みっぷりを見るに、奴の好感度は俺に一点集中している気がする。
だから下手な言葉を選べば、ゲームにもなかったBLルートに入りかねない。
そうしたらセシリアとの恋愛フラグが立たず、結果的にギーザとの絶交待ったなしだ。
「アシュレイ!!」
だが俺が声をかける間もなく、カインはこちらに気づいて振り返った。
ぱっと華やいだ顔を見た瞬間、こういう表情をカイン×アシュレイ本で見たなという感想がよぎる。
「俺のことを、追いかけてきてくれたのか?」
笑顔と共に尋ねられ、俺は言葉に迷う。
A:そうだ、お前に会いに来たんだ。
B:いや、偶然だ。
C:勘違いするな、お前の顔なんて見たくない。
などとベタな選択肢が頭をよぎる。
こういうときの選択肢は何だ。Cの方向性が一番好感度が上がらないだろうが、カインは小さな頃から面倒を見てきた弟のような物だし、酷い言葉はかけたくない。
ここはB辺りだろうか。でもカインは偶然を運命と呼びそうなタイプだし……などと悩みに悩んでいると、カインが笑顔を崩さないままこちらに駆けてくる。
「お前と話したかったから、来てくれて嬉しい」
まずい、どうやら選択肢を選ばずにいると自動的に好感度が上がるイベントのようだ。
だがまあ、嬉しそうにしている顔を見ると何だかんだ俺もほっとしてしまう。
「さっきはそのギーザが色々言っていたが気にするな。あいつもたぶん、悪気があったわけではない」
「アシュレイは、すぐそうやってギーザを庇う」
「まあ、運命の恋人だし元婚約者だからな。片思いだけど」
「片思いなのに、よくそこまで溺愛できるな……」
アシュレイが呆れる顔をするのも無理ない。確かに端から見たら、俺の愛は重すぎるし異常だし変態じみているだろう。
「おかしい自覚はある。でも俺は、何があってもギーザが好きだし、その気持ちをできるだけ表に出したいんだ。人生何が起こるか分からないし、明日突然死ぬことだってある。そのとき少しでも後悔しないように優しくしたいし、愛も囁きたいし、彼女の幸せに繋がることは全てしておきたい」
だって、前世で俺が彼女に出来たことはあまりに少ない。
もし健康だったら、病気の彼女にかわって代わりにコミケに行って島買いをしたり、コラボカフェに行ってグッズを買ったりフードについてくるコースターを集めたり出来たが、そういうことは何一つ出来なかった。
俺もまた彼女に出会ってすぐ病気が悪化してしまったから、出来たのは一緒にゲームをしたり、pixivをあさったり、ドラマCDを聞いたりするくらいだ。
そしてそれすら、長い時間ではない。
出会って半年も経たず彼女は逝ってしまったし、俺もまた後を追うように倒れてすぐ死んでしまったから、彼女の墓前にグッズを供えることも出来なかったのだ。
そのうえ今世でも、うっかり眠り姫モードに入ってしまったせいで今の今まで俺はギーザに何もしてやれなかった。そして魔帝とひとつになった今の状態では、いつ何が起こるかもわからない。
だからこの学園にいられるうちは、少しでも彼女を笑顔にしたかった。
「……お前は本当に、ギーザしか目に入っていないんだな」
そのとき、ポツリとカインがこぼす。
酷く落ち込んだ声が気になって彼を見ると、美しい横顔が今にも泣きそうに歪んでいる。
それを見た途端、思い出されたのは彼の護衛を引き受けた頃の事だ。
幼い頃から愛らしくて優秀な王子だったにもかかわらず、妾の子だからと義理の母から迫害されていた頃の彼は、いつもこんな顔で涙をこらえうつむいていた。
そんな顔を見て以来、どうしてもカインが放っておけなくて、俺は出世を蹴ってまでカインの護衛になったのだ。
その後、彼には自分以外にも味方が出来た。今ではギリアムが後ろ盾につき、以前のように迫害されることもなくなったようだが、それでもきっと彼はまだ幼い頃の孤独を完全に忘れられたわけではないのだろう。
そして間違いなく、その原因は俺だ。
「ギーザだけじゃないさ。お前だって、俺にとっては大事な存在だ」
そう言って頭を撫でれば、カインが泣きそうな顔を俺へと向ける。
「本当に? 順位で言ったらギリアムより上か?」
「ん? なんでそこでギリアムが出てくるんだ?」
「ギーザに勝てないのは薄々分かっていた。だがせめて、男の中では一番お前に近しい存在になりたい」
訴える顔の必死さに、俺は慌てて頷いた。
途端に、カインの顔に安堵が浮かぶ。
「ギリアムはお前の親友だし、もし俺と奴のどちらかが死ぬとしたらお前は奴を選ぶのかと思ってたんだ」
「そんな状況にはさせないし、どちらかが死ぬなんてありえん」
「もしもの話だ」
「もしもさえない。そんな現実、俺は絶対嫌だからな」
ギリアムもカインも、俺にとっては大事な存在だ。どちらかが欠けるような未来があるのなら、ギーザの破滅フラグを折ったときと同じように、死ぬ気でフラグは破壊する。
「俺は、お前にもギリアムにも幸せになって貰いたい」
「まあ確かに、アシュレイなら何があっても俺たちを救ってくれそうだな」
「救うさ。そのためならなんだってする」
もう二度とカインが涙をこらえなくても良いように、彼に不幸が降り注ぐなら俺が盾になってやりたいと思う気持ちに嘘はない。
「本当に、何でもしてくれるのか?」
「ああ。お前のためなら何でもする」
「本当だな?」
「ああ、本当だ」
「じゃあ、一つ頼みたいことがある」
そこで突然真面目な顔になり、カインが俺の手をぎゅっと握りしめた。
「俺と、デートをしてくれ」
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