走れ、ウマ娘。③

♠「まあ、それもそうか(笑)それに、同じアニメとかゲームを趣味にしてる人間にしても、平成初期と令和の時代じゃ、その分野にハマってるオタク像は、かなり違うしさ」

♣「あ~、確かに今時の若者は、周りの目を気にせず、普通にアニメとかの話しするもんな~。ただ、作品論を語るより、推しキャラの話ししかしてないイメージがあるけど(苦笑)」

♠「今の世代は、『《好き》はヒトから語彙力を奪うが、《嫌い》はヒトを饒舌にさせる』って言ってるしな!」

♣「二十世紀のオタクは、スキな作品もキライな作品も、とりあえず語り倒してたイメージやけど……(笑)」

♠「二十一世紀に入ってから、二十年のオタク系コンテンツ周辺の動向を考えると、『萌え』とか『推し』のキーワードが幅を利かせてる訳で、ストーリーやテーマの奥深さを語る作品論より、想いを寄せるキャラへの愛情を語ることを好むヒト達が増えた印象があるしな(苦笑)まあ、三十代になっても、『けいおん!』とかの作品を語ってた自分たちが、他人のことをどうこう言える筋合いではないケドさ(笑)」

♣「それは、確かに(笑)」

♠「ただ、二○一○年代の十年を振り返ると、握手会だの総選挙だのソシャゲの課金だの、現金が絡む生臭い話しが多くなった感じがするねんな~。昔は《専門分野の知識量=オタクの戦闘力》みたいなところがあったのに、今は《推しに注ぎ込んだ金額=オタクの戦闘力》って風潮になってる気がするのは、オレだけかな?」

♣「知りたいことは、何でもすぐにスマホで検索できる時代に、知識量を誇ったところで仕方ない面はあるし、オタクが重視する価値観が変わってしまったのも、仕方ないことやと思うけど……」

♠「やっぱり、《萌えるキャラ》や《推しキャラ》への愛情こそが、今のオタクのアイデンティティーになってるんやな~。どうして、こうなった?」

♣「それについても、高校時代に、『綾波だ!』『アスカだ!』と語ってたオレ達には、口出しする権利ないやろ?」

♠「それも、そうやな(笑)ともあれ、『ウマ娘。』のブームを客観的に見ると、アイドルを推すのも、競走馬に過剰に思い入れを持つのも、根は同じ心理なのかもな、って思うのよ」

♣「どういうことなん?」

♠「『ウマ娘』が、もともと『アイドルマスター』から派生したゲームやからって言うのもあるんやけど……。最近観た、『あの頃』って映画に、主人公の松坂桃李が、落ち込んでる時に松浦亜弥の歌う姿に魅了されてアイドルの推し活にハマるシーンがあって、そこで、昔のJRAのブランドCMを思い出してん」

♣「ん?いつ頃のCM?」

♠「二○○七年に放送されてた『今日も私の好きな馬が走っています』ってやつ。レミオロメンの『茜空』がBGMに使われてるんやけど、ブンちゃんは覚えてない?」

♣「う~ん、そんなCMあったっけ?あんまり覚えてないわ」

♠「『私が落ち込んでいるた時、好きな馬がG1を勝った』と『なかなか勝てない馬がいる』の二パターンがあるんやけど、このCMは競馬ファンが、なぜサラブレッドに思い入れを持つのかが表現されてて、良く出来てるのよ」

♣「それ、どこかで観れる?」

♠「各種の動画サイトに映像が残ってると思うので、検索は自己責任でお願いします(笑)このCMを観ると、思い入れる対象に、勇気をもらったり、自分の姿を重ね合わせたりするのは、アイドルもサラブレッドも同じなんやな~と、感じたりするんよね。アイドルにハマったことのない自分が言うのもナンやけど(笑)」

♣「ふ~ん、なるほど」

♠「有名動画サイトには、このCMと『ウマ娘』のアニメシーンを絡めたMAD動画もたくさんアップロードされてるから、興味があったら観てみて!涙腺が弱いブンちゃんには、特に強くオススメしとくわ!」

♣「まあ、時間があったら、観てみるわ(苦笑)」

♠「もちろん、サラブレッドの走りに想いを馳せるのは、このCMに限らず、寺山修司が、『さらばハイセイコー』の詩を発表した頃から変わらないんやろうけど……」

♣「ハイセイコー、って時代をさかのぼり過ぎやろう(笑)!」

♠「いや、でもこの詩を読むと、高度経済成長期の日本の庶民が、地方競馬出身のハイセイコーに対して、どんな想いで日々を過ごしていたのかが、ちょっとだけ垣間見られる気がするんよ。ハイセイコーは、『元祖アイドルホース』って言われるけど、なぜ当時のヒト達がハイセイコーの活躍に注目したのか、ハイセイコーのレースに自分の姿を重ねていたのか、良く伝わって来る感じがするねんな~」

♣「そうなん?」

♠「ハイセイコーの次に競馬ブームの立役者になったオグリキャップにしても、同じく地方競馬出身やけど、こちらは、バブル期特有のサクセス・ストーリーに自分を重ねた、って感じかな?」

♣「オグリは、ハイセイコーよりも、あり得ないローテーションと激走の連続とか、奇跡のラストランとか、ストーリー性も人気が有った理由やろ?ヤングジャンプで連載中の『ウマ娘』番外編もそのあたりを踏まえて主役にしてると思うし……」

♠「それも、そうやね!オグリとテイオーの栄光と挫折、そして奇跡の復活のストーリーは、少年マンガの主人公に相応しい要素満載やしな」

♣「あれが、フィクションなら、『現実味がない!』ってボツになるレベルやろうな(笑)」

♠「令和のスポーツ界で言えば、大谷翔平が、MLBで二刀流しながら、ホームラン王になるみたいなモノか?」

♣「そんな野球マンガ、リアリティなさ過ぎて読んでもらわれへんわ(笑)!」

♠「そうやな~(笑)今の時代、完璧なヒーローとか、露骨な上昇志向とかは、共感されへんやろうね。その意味でも、『ウマ娘』のナイスネイチャの存在感は、現代的であると思うねんな~」

♣「また、その話しに戻るんかい(笑)」

♠「いや!マジで、現役時代の競走成績から、妄想……もとい想像できるナイスネイチャの抱えるコンプレックスは、自己評価が低めの令和の若者にも刺さる要素が多いと思うのよ」

♣「この流れで、若者論を語られてもな~(苦笑)」

♠「最初は、『競走馬とアイドルのライブステージに、何の共通点があるねん!!』と、競馬ファンとしては憤りを覚えてる部分もあったけど、ゲームをプレイしてみると、意外な発見もあった訳ですよ!」

♣「ふ~ん、そんなもんなんかね~」

♠「まあ、別に、一緒に『ウマ娘』をプレイしよう!と、までは言わへんから、JRAの昔のCMでも観て、過去に思い入れのあった馬を思い出すのもイイと思うで!十年前に放送されてた『THE LEGEND』のシリーズも、ブンちゃんにオススメやし!」

♣「あっ!それは覚えてるわ!!T-REXのアレやろ!?」

♠「そうそう!あのCMは、過去のJRAのCMの中でも、歴代最高のカッコ良さやと思うわ!」

♣「そうやな~。春のクラシック・シーズンも近づいて来てるし、気合いを入れるために、ちょっと見直してみるか!」

♠「このテの映像を観ると、昔の名勝負とか激戦のレースとか語りたくなってしまうねんな~。コロナが終息したら、酒でも飲みながら、ブンちゃんと語り合いたいわ」

♣「それは、オレも思うわ!」

♠「ヨシッ!じゃあ、ブンちゃんと一杯やる時は、一九九六年のバイオレットステークスを語ると言うことで!」

♣「それ、京都競馬場がモヤに覆われて、直線に入るまで実況席から何も見えてなかったレースやんけ!一部の人間にしかわからへんボケは止めとけ、って昔から言うてるやろ!!」

♠「えらい、すいません。というわけで、ブンちゃんにお約束の注意いただいたので、今回も、お付き合いありがとうございました」

♣「別に、それは礼を言われるほどのことではないけど……」

♠「まあ、本来まともな人生歩んでる同世代の人間は、自分の息子や娘の運動会応援してるハズやのに、こんな大変な時期に『ウマ娘。』の話しなんかしてる場合じゃないねんけどな(笑)」

♣「最後に、同年代の人間の心をエグる様なことを言うな!!ホンマ、高校の頃と何も変わってないな、秀明は……」

♠「ええ、『心が死んでないオトナ』ですから」

♣「何をキレイにまとめようとしてんねん、『気持ち悪い』」

♠「やっぱり、最後のそのセリフは、宮村優子さんに、言ってもらわないとイカンよな~」


〜二◯二一年三月某日のYouTubeライブより〜

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