第5話 会話
夢を見た
小学生の頃の夢だ
昔は嘘のように明るい性格だった俺
クラスのムードメーカーで冗談を言い
みんなが笑ってくれると俺も嬉しくて
つい、はしゃぎ過ぎてしまう
授業中でも
掃除の時間でも
給食の時間だって
気がつくと周りには笑顔があった
幸せだった
きっと明日も明後日もずっと幸せで未来も明るい物だと信じられた
いつからだろう、笑わなくなったのは
笑えなくなったのは
俺は名前だけでなく、沢山の大事な事を忘れているのだろうか
気がつくと、ベッドの上だった
「2度目だ…」
この世界に来て1回、今回で
枕元にはペットボトルの飲み物や薬が入っていたのか、空き瓶が置かれていた
どれ程寝ていたのか
やはり自分の名前が分からない、記憶喪失?
このベッドで寝たら元の世界に戻ってましたってのをちょっと期待してたんだけど、そううまくは行かないらしい
彼女も疲れてしまったのか、ベッドに突っ伏して眠っていた
きっと前回も彼女は今のように献身的に俺を看てくれていたのだろう
彼女はいったい誰なんだろう、初恋の金城さんなら小学校から20年以上会っていないし
いくら記憶を辿っても、彼女との事は思い出せない
自分の名前も思い出せない男が言っても説得力はないが、記憶力には自信があったのに
ただ、悪い人じゃない
その事だけは理解できた
ベッドから起き上がる
俺に気がつき、一緒に起きる彼女
「もう大丈夫」と一言声を掛け、テーブルの上に用意してあったペットボトルの水を一口飲む
「ありがとう、その、今回だけじゃなく…前も…迷惑掛けました」
首を横に振る彼女
「元気になって良かった、起きなかったらどうしようかと思ったんだから…君は全て抱え込み過ぎなんだよ」
抱え込み過ぎ…俺を的確に言い表した表現だと思った、たった一言なのに彼女は俺の事を本当に知っているのだと素直に信じれた
俺と彼女は以前どんな間柄だったのだろう、交遊関係は極端に少ない俺が心を開く程の相手だったのだろうか?
距離感がわからない
「あの…優…さん?時間が無いんです、知っている事、何でもいいので教えて下さい」
「そんなに畏まらなくていいよ、それに優でいいって」
そう言う彼女はどこか嬉しそうな笑顔で立ち上がり、カーテンを開け放つ
「それに、時間ならこれから作ればいいんじゃない?」
窓の外は雨が降ったのか水滴が付き、朝日を反射して輝いてみえた
だんだんと目が慣れ、情景が像を結ぶ
青空の下には砂漠の様だった景色はなく、若干ではあるが緑が芽吹き始めていた
「一緒に行きたい場所があるんだ、ついてきてくれる?…ん?ついていっていい?わかんないけど、一緒にいこう!」
俺は呆気にとられながらも首を縦に振っていた
優と金城さんが重なって見えた気がした
「もう置いて行かないでね」
その言葉に苦笑いで返す事しか出来なかった
部屋を後にする時
薬の空き瓶だけが物寂しく置かれていた
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