ゼルVS.メイヴィス
「あ、あれ? おっかしいな~?」
二人と別れた後、ゼルはその別れた場所に戻ってきていた。
恐れをなして後戻りしてきたわけではない。道に迷って気づいたら来た道を戻っていただけなのである。
「ここさっきんとこだよな? なんでだ? まっすぐ進んでたんだけどな」
どうして元の道に戻ってきてしまったのか、分からないゼルは首を傾げる。
「おやおや、これはこれは、ゴブリンじゃありませんか」
「誰だ?」
正面の道からカツカツと音を立てながらやってきたのは、杖を突いた老人だった。
「そのローブを見るに騎士団の方の様ですが。いやはや、騎士団がゴブリンを入団させるとは、よほどの人材不足と見える」
「なんだ、爺さん。こんなとこで。迷子か?」
「いやははは、この状況で私を一般人だと思うとは……」
「っ!」
油断はあった。
一瞬にしてその老人はゼルの懐に入り、杖を喉元に突き付けた。
「少々危機感が足りないのでは?」
「っく!」
ゼルは咄嗟に後ろに飛びのいてディスガイナを抜いた。
「ほう、今の反応は良かったですよ。ゴブリンにしてはなかなか俊敏ではないですか。何か武術の心得でも?」
「敵に教えることなんか何もねぇよ」
「なるほど。それもそうですね。では、当ててみましょう。今の移動術は天導流の月影ですかな?」
「なっ! なんで、爺さんがそれを知っているだ!?」
「なに、簡単なことですよ。以前にも天導流の使い手と相対したことがあるだけのことです。伊達に年は重ねていませんよ」
「うわ、マジかよ。爺さん、強いだろ。もしかして、ジェイドってやつか?」
「いえいえ、違いますよ。私はメイヴィス。そうですね……翡翠の妖狐の幹部と言ったところでしょうか」
「そうか。なら、あんたも逮捕だ!」
ゼルは馬鹿正直に真正面から斬り込む。
「愚直で真っ直ぐな攻撃……ゆえに読まれやすい」
メイヴィスは杖でディスガイナを受け止める。
「なっ! なんで斬れねぇ」
「初歩的な強化魔法ですよ」
「魔法? なら……」
「おや?」
ディスガイナがメイヴィスの杖にかけられた強化魔法を喰らう。
「これは、いけませんね」
ディスガイナが強化魔法を喰いきる前に、メイヴィスはディスガイナを弾き、距離を取った。
「魔法を吸収する剣、ですか。いやははは、面白い神器ですね」
「っち、喰いきれなかったか」
「察するにその剣は魔力を糧に強化される類のもの、ではないですか?」
「だから、敵に教えることなんか何もねぇよ!」
ゼルはまた正面から斬り込む。
「魔法を吸収する、それなら……」
メイヴィスはディスガイナを受け止めず、飛んで躱した。
「武器ではなく本体に直接攻撃するのが効果的の様ですね」
そのまま空中で回し蹴りを繰り出し、ゼルを吹っ飛ばした。
「ぐはっ!」
壁まで吹き飛ばされ、ゼルはディスガイナを手放す。
「この厄介な武器は没収させていただきましょうか」
ゼルの手を離れたディスガイナをメイヴィスが拾い上げる。
「っ! こ、これは!」
ディスガイナを手にしたメイヴィスはふらつき、膝をついた。
その隙を見逃さなかったゼルはお返しとばかりに、上段蹴りをかまし、ディスガイナを奪い返す。
「喰ったぜ。爺さんの魔力」
奪い返したディスガイナの刀身の穴の一つが緑色に光る。
「やられましたね。まさか、手に取った持ち主の魔力すらも無差別に吸収するとは……」
ゼルに蹴り飛ばされたメイヴィスは立ち上がり体勢を立て直す。
「爺さんの魔力は風属性みたいだな。その力、借り受けるぜ。
ディスガイナが風を纏いながら、その姿を変容させていく。
「風の双剣ツヴァイエメラル」
風が晴れると、ディスガイナは二本の短剣へと姿を変えた。
「こいつを解放したからには、速攻だ」
「っ!」
ゼルは目にもとまらぬ速さでメイヴィスの懐に潜り込む。
「これが風の速さだ」
「……っ速い!」
躱しきれないと判断したメイヴィスは咄嗟に杖でガードする。
「天導流凬式、一ノ型“
ゼルの双剣から打ち出された一撃は突風を生み、メイヴィスを天井へと突き上げる。
「っぐ!」
そして、メイヴィスはそのまま天井を突き破り空高く飛んでいった。
「あ~あ、どっか行っちゃった。でも、まいっか」
上階の天井ごとぶち抜いたことによって、ゼルは正規ルートを通ることなく祭壇のある最上階まで行けるようになった。
「これで上に行けるようになったし、ラッキー」
ゼルはツヴァイエメラルの風を利用して、最上階まで飛んでいくのだった。
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