最速の魔法

 う~あー! どうしよう!?

 一番最初に最上階にある祭壇まで辿り着いてしまった私は誰にも見つからないように石柱に隠れて頭を抱えた。

 どう見てもあれがジェイドって人だよね……。

 祭壇の上には顔に縦線が入った若い男性が一冊の本を持って佇んでいた。

 彼の他にはこの場には誰もいなかった。

 なにしているんだろう?

 石柱の陰から顔を出して、彼が何をしているのか様子を見ていた。

 あ、本を置いた。ん? なんか書いてる?

 祭壇に本を置いたジェイドはその周りに魔法陣の様なものを書き始めた。

 あれって止めた方がいいのかな……? いやいや、でも私なんかが出ていったところで過ぎに殺されちゃうだろうし……。でもでも、見てるだけで何もしないのは、それはそれで気が引けると言うか……。

 あー! もう! どうしたらいいの!?

 自分では判断できないと悩んでいたその時。



「お! マナじゃん!」



 敵に見つかることなんかお構いなしに大声で私を呼ぶ大バカ者が現れた。



「ヘ、ヘイヴィア……」



 確実にジェイドに見つかってしまった。

 なんてことをしてくれたのかしら。せっかく隠れていたのに……。



「まさか、お前の方が早かったとはな。やられたぜ。俺が一番乗りだと思ったのによ」



 そんなことはどうでもいい。それよりもジェイドは?

 ヘイヴィアからジェイドに視線を移すと、案の定、彼はこちらを見ていた。



「ほう、騎士が二人もここに辿り着いたか。刺客を送ったはずだが?」

「なんだ? てめぇがジェイドか?」

「そうだ、と言ったら?」

「残念だったな。てめぇの配下のスチールとかってやつは俺がぶっ飛ばしてやったぜ」

「スチールが敗れたのか。なるほど、それなりの力は持っているようだな。それにそのローブ、また第七師団か」

「観念しな。次はてめぇの番だ」



 ちょっとちょっとヘイヴィアさん? あまり敵を挑発しないでくださる? 相手誰だか分かってます? 世界的有名なテロリストさんですよ? 一瞬で殺されちゃうよ?



「あのゴブリンはまだ来てないみたいだな。よっしゃ、あいつが来る前にジェイドをぶっ飛ばす!」



 どこから湧いてくるのか、謎の自信を持ったままヘイヴィアはジェイドの元に向かっていく。



「“アースガトリング”!」



 ヘイヴィアは無数の砂のつぶてを生成し、ジェイドに向かって放つ。



「遅い」



 が、ジェイドは一瞬の閃光と共に姿を消す。



「なに!?」



 結果、ヘイヴィアの魔法は誰もいない場所に撃ち込まれる。



「“天帝の光剣”」

「が、はっ……」

「……………………え?」



 何が起きたのか分からなかった。

 けど、今起きていることが現実なのだとしたら、ヘイヴィアは二本の光の剣に右肩と左足を貫かれていた。



「ヘイヴィア!」



 私はすぐさまヘイヴィアの元に駆け寄り、彼に刺さった光の剣を抜く。

 結果から想像するに、ジェイドは光魔法によって高速移動してヘイヴィアの攻撃を避けた。その後、光の剣でヘイヴィアを攻撃した。

 高速移動もそうだけど、魔法発動のスピードが速すぎて目で追うことが出来なかった。

 光属性は全魔法属性の中で最速を誇る。その為、肉眼ではまず捉えきれない。



「うぐっ……クソ……」



 ヘイヴィアのダメージは深刻だ。吸血鬼とは言え、これではしばらくは動けないだろう。



「次は女、貴様だ」



 ジェイドは光の剣を握りしめこちらに近づいてくる。

 まずいまずいまずい! このままじゃ私もヘイヴィアも殺されちゃう!

 どうすればいいか分からず、私は固まる。

 そして、こういう時に限って余計なことを考えてしまう。

 ああ、やっぱり、私は騎士になんてなるべきじゃなかった。

 私なんかに務まるものじゃなかったんだ。

 全てを諦めた。

 死を受け入れた。

 けど……。



「なんだ?」



 それを否定するかのようなタイミングでジェイドの背後の床が抜け、突風が吹き荒れた。



「え……」



 その風と共に誰かが空高く飛んでいったのが見えた。

 そして、そのすぐ後。



「よっと、到着」

「ゼ……」



 空いた床からとても頼もしい背中が現れた。



「ゼル!!!」


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