第18話 誤魔化せ(3)
水鳥たちとのミーティングを終えた後、本村は自分の部屋に乙黒を招いていた。仁多見の一件で仲良くなった彼女たちは、誰かと一緒にいたいときにまず一番にお互いに声をかけるくらいの仲となっていた。
本村と乙黒はソファに向かい合って座り、2人とも自然体の振りをしていた。テーブルの上には少し冷めたレモンティーが置かれているが、ほとんど減っていない。
「ねえ、リーダーの人ってずるくない?」
本村が不意に呟いた。
「え?」
乙黒はその唐突な言葉に声色を取り繕うことも忘れて返事をしてしまう。
「あ、究君は違うよ。私たちを助けてくれてるし」
本村は慌てて手をパタパタと振った。少しでも水鳥を疑っていると思われたくないのだろう。
「うん、大丈夫だよ。ごめんね」
乙黒も事を荒立てたいわけではない。ただ向こうが焦ったことで彼女も焦っただけだ。
「それで、えーと……何だっけ?」
「だってさ、今、グループになって、その、投票しているでしょ?」
本村は自慢げに眉を上げて目を開くと、レモンティーをコクコクと飲んだ。
「それで、私たちが生き残るには、自分以外の誰かを選ぶっていうよりも、別のグループの数を減らしていくって感じでしょ? どこを選べばいいのかは究君が考えてくれるんだけど……、でも、その、選ばれる人って、リーダーじゃなくて、グループの守られていなそうな人じゃない?」
乙黒は視線を上に向けて「うーん」と音を立てながら、今日までの投票先、それから犠牲者を思い出していく。
「確かに、そうかも……」
「でしょ? だからリーダーって、その、実はリーダー同士が通じ合っていて、戦っている振りをしているんじゃないかなって。そうすれば、グループがなくなることも、自分が死ぬこともないし」
本村は推測を交えながら一足飛びに説明する。
「うーん……、うん」
曖昧ながらも肯定と思われそうな声を乙黒は出した。テーブルの陰でつま先をもぞもぞと動かしている。
「それに、もしかしたらリーダーの方から選んでいるんじゃないかなって。その……自分のグループの要らない人を」
さらに一足飛びに本村が話を展開すると、乙黒は完全についていくことができなくなってしまった。
「え? そうなの?」
「え? ううん。分からないよ。そうかもって思っただけで」
今度は本村の方が驚いた。乙黒が自分の推測を全肯定したように聞こえたためであった。
「あー……」
乙黒は先の話と何かが似ていると考えた。ティーカップを手に取り、その中身をすっと飲むと、分かった。
「それって日本の政治も同じじゃない? なんとか党と、かんとか党とか。対立している振りをして、実はただのお芝居で、上の人は仲良くて、ヤバいことがあっても隠し合って、逆にビミョーなことで時間かけて、それで変な人が逮捕されるじゃない? で、私たちにはちゃんと仕事しているように見えるの」
「あ、それある! 絶対あるよ!」
大きく頷いて本村は身を乗り出した。
「そうすれば党は潰れないし、自分たちは安全だもんね」
彼女たちのイメージは週刊誌やワイドショーで得たもので、必ずしも真実とは限らないが、一部については間違っているとは言い難い。
「ほんと? テキトーに言っただけだよ?」
乙黒は少し頬を赤くするとわたわたと小さく手を振った。それでも口元に嬉しさが見え隠れしている。
「このゲームだとズルいことして見つかったら……死ぬし、お互いのことを信用しきれていないから、そこまでズブズブになっていないと思うけど……、実際あるよね、きっと。究君は違うよ?」
本村は話しながらだんだん脈が速くなるのを感じていた。彼女にはそれがルール違反であるように思えた。
「なんか、卑怯だよね。グループ同士が、その、戦っていて、私たちが必死で頑張っても、リーダーの人たちも、政治家の上の人たちも、絶対安全なところにいるんだよね」
乙黒はため息混じりに言うと、レモンティーに口をつけた。
「戦国大名みたいに大将が戦場に出て戦えばいいのに」
「だよね。リーダーになった人が勝ちじゃん」
本村の声には妬みが籠っていた。彼女もまたカップを手に取って、レモンティーを飲み干した。
彼女たちは、リーダーシップを発揮する人たちが楽だけをしてその地位にいるわけではないとは考えていなかった。そういう人もいなくはないが、それはともかく、この平等なゲーム中でも自分たちで音頭を取ろうと動くことさえしていない。
一般論としてリーダーが組織を上手く動かすのだから、リーダーがいなくならないようにするのは当然のことである。全員が死なないように知恵を絞っている人が消えれば、混乱したまま能力を発揮できなくなり、死ぬ。
ただ、このゲームでは必ず半数は死ぬ、つまり組織の一部が欠けるのは確実であり、絶対にリーダーが味方を守るとは限らない。それでもリーダーに従っているのは本人の意思である。
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