第14話 捧げろ(1)
(ニニィって、何なんだ?)
山田は夕食の照り焼きチキンピザを食べながらふと考えた。そうやって考え事をすることで、彼は恐怖を頭の隅に追いやろうとしていた。
(モニターやスマホに映っているロボットみたいな見た目が仮の姿なのは分かるよ)
冷たいコーラをストローで吸うと、口の中の脂っこさが刺激と共に胃の中に送られる。彼は「っあぁー」と気持ちよさそうに呻いた。
(でもさあれ、中の人がいるよね。僕たちの質問に機械的に答えているみたいで、何度か感情的に返事していたし)
山田は次の一切れをつまんだ。チーズが薄く伸びていき、トロンと途切れる。彼はその先端をかじると実に幸せそうな顔をした。チーズが鶏肉と調和してマイルドな甘じょっぱさを醸し出し、ふわっとマッシュルームの香りが溶け込む。生地は薄く硬めであるが、それ自体の甘みと弾力が鶏肉のものと交互に続き、飽きがこない。
(VTuberとは違うよね。体動っていうのかな、関係ない場所がぶれて動くことがないし、どっちかって言うと、3Dアニメだよね。それも、中の人の言葉、意思通りにタイムラグなしに動く……)
引き続きピザを食べ進めながら山田は自分の知っている範囲、つまりインターネットで調べて分かることと照らし合わせていく。
(だから、予め何万パターンも用意されているのかな? その場で作画は無理だよね? その割にはシームレスだし……)
早速考えが行き詰まる。モニターに映るニニィは「カードキー」や「ににぉろふ」に比べれば実現可能な存在だと山田は思っていた。それなのに、少し考えだすと諸々が遥かに高い技術で成り立っていると分かってしまった。
(声は、人工音声かな? 抑揚や声量が人の話しているそれそのものだから、最先端の技術だよね。それとも生声? そうなるとCVは女の子、女の人? あのくらいの声は大人でも出せる人は出せるし……)
山田は最近見たアニメの声を思い出す。数々の特徴的な声が決め台詞と共に再生されていく。
(でも、機械で声を加工しているのかもしれないし、そうすると、中の人の性別も年齢も分からない)
考えてみると、ますますニニィの正体がよく分からなくなる。山田はピザの耳を口に放り込むと、一度思考をリセットするために再びコーラを流し込んだ。
(今度はミックスピザにしよう)
山田は次の一切れを口にしながら思った。別に同じ味が続いても格別に美味しいから何ら不満はないのだが、せっかく食べるなら色々なものを食べたいということであった。今の分を捨てて新しく別の味のピザを食べるなど、山田には思いつかなかった。
(そもそもさ、こんなゲームを開くことができるということは最上級国民だよね。それならある程度年を取っているのかな? もしかして、その子供や孫のおもちゃだったりして……)
自分の考えに山田は身震いした。ちょうど普通の子供たちがアリを意味もなく踏み潰すような感覚で、人間を毎日、様々な形で殺していく。目的は恐らく、ただそれを見ていたいから、それだけである。
(もしかしてAI? その実験とか? それならあの見た目も納得かも)
今度はSFチックな想像を働かせる。いずれにしても答えは分からない。
「うーん……」
山田は手を拭くとスマホを取って、「ににぅらぐ」を開いた。画面に「お休み中です。ごめんね」というコメントとニニィのパタパタアニメが表示された。
(やっぱりよく分からないな)
いくら画面を見つめても突然切り替わることなどないのに、と山田は思いながらも何となく目を話すことができずにいた。アラームが鳴って、スマホが振動した。
「うわっ!」
山田はとっさにスマホをテーブルの上に放り投げた。恐る恐る覗くと、そこに映っていたのは山田自身が設定したリマインダーだった。
(ああ、もう笠原先生のところに行く時間だったんだ)
山田は深呼吸をして気を落ち着かせてから「完了」のボタンを押し、もう一度深呼吸をした。
(歯、磨かなきゃ)
口内をさっぱりとさせてから「カードキー」で笠原の部屋を選び、ボタンを押そうとしたところで山田はふと思った。
(今思ったことは……言わない方がいいよね。黒幕の正体を予想して当たっていたら、謎の死を遂げるのがテンプレだし、それとゲームをクリアすることは何も関係ないし)
山田はそういうことにするとボタンを押して姿を消した。本当は単に人前で発表するのが怖いだけであるが、どうせやらないのだからもっともな理由を後付けした方が様になるとその事実からも逃げただけである。
しかし、彼の判断は正しかったかもしれない。もし万が一勇気を出していたら、話の仕方次第では有松に殺されていたかもしれなかったからである。
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