第11話 集るな(3)
沓内は自分の部屋の隅で布団をかぶり体育座りをしていた。今日は水鳥の部屋で投票前に行っているミーティングもない。
(怖い……)
沓内の見つめる先には、ベッドの傍に敷いてある肌触りの良さそうな絨毯がある。他にはこれと言って何かあるわけではない。空気中にチリや埃は1つも浮いていない。強いて言えば、ラベンダーをメインにした上品な香りが室内に薄く流れているくらいである。
(私……これで良かったのかな……)
おまけに今日は割り当てられた仕事もない。同じグループの誰かと話すこともはばかられる。何かをして時間を潰すほど前向きにはなれない。その結果が、現在の状況である。
(最初の日、もし、水鳥さんよりも先に笠原先生からメッセージが来ていたら……、あっちの同じ年くらいのみんなは……話しやすいのかな……)
沓内は、同じグループの同年代と決して仲が悪いわけではない。しかし、向こうはどちらかと言えば華やかで、沓内は一歩引いた性格であるから、何となくかみ合わないと感じているのである。
(怖い……。水鳥さんの言う通りにすれば……どうなんだろう)
もやついた気持ちがぐるぐると沓内の頭の中を、胸の中を、血液に乗って循環する。言葉にできないが、口から音を出せばやがて何となく伝わって気が軽くなるかもしれない、と沓内は思った。問題は話し相手がいないことだ。
沓内の視線は変わらず絨毯に向いている。誰かと話をしようにも、怖い。もし、相手が悪人だったらと考えてしまうと話しにくい。特に、他のグループのところにいる参加者には尚更自分から話しかけられない。
(別に話しかけてもいいんだよね? だって、みんなグループになっていないことになっているし、そっちの方が自然……だよね? でも、やっぱり……怖い。それがきっかけで投票されるのも、投票するのも……。でも……、裏切っているみたいに見えないかな?)
沓内は膝をギュッと抱きかかえる。そうすることで沓内はほんの少し安心し、思考が日常のものに戻っていく。しかしそれは、初日から昨日までの犠牲者たちが異常な死に方であることを沓内に思い出させてしまう。半ば死にかけながら痛みにうめく姿、体から血飛沫が上がり、死の臭いが鼻から脳に――ごちゃ混ぜになって襲い掛かる。
不意にスマホが振動する。沓内は驚きのあまり反射的に上体を起こそうとして、壁に後頭部をぶつけた。
「いたっ……」
幸い布団がクッションとなって衝撃は和らげられた。沓内は小さく息を吐くとテーブルの上に置いてあるスマホに手を伸ばす。「7SUP」に届いていたメッセージは水鳥からのものだった。
(用事……なんだろう……?)
沓内はびくつきながらメッセージに目を通し、静かに目を閉じた。彼女が何を思おうが、自分と自分の一番大事な人が生き残るために、これから自分の意思で広間に向かうのである。
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